毎日が「契約」という名のロシアンルーレット、回していませんか?
- 「隣の席で同じJavaのコードを書いている田中さんは年収600万なのに、私は300万。これって詐欺?」
- 「『君は指示待ち人間だね』と言われて契約終了。いや、勝手に動いたら怒られる契約ですよね?」
- 「正社員登用ありって言われたのに、いつまで経っても派遣のまま。私の3年間を返してほしい」
満員電車に揺られながら、スマホで求人サイトを眺めてはため息をつく。
そんな経験はありませんか?
これらは、決して他人事ではありません。
IT業界という巨大な迷宮で、多くのエンジニアが直面している「契約の罠」による悲劇です。
IT業界の契約形態は、まるで悪意を持って作られた迷路のように複雑です。
「派遣」「紹介予定派遣」、そして日本独自のガラパゴス商習慣とも言える「SES(準委任契約)」。
求人票には耳障りの良い言葉が並んでいますが、その裏側には、あなたの年収を搾取し、キャリアを停滞させ、時には法的なリスクさえ負わせる落とし穴が口を開けて待っています。
多くの人が、その違いを「なんとなく」でしか理解していません。
そして、気づいた時にはもう、抜け出せない沼にハマっているのです。
私は、長崎から上京して数十年のライターです。
普段は満員電車に揉まれながら都内のオフィスへ通い、家に帰れば反抗期に片足を突っ込んだ小4男子と格闘しつつ、夫の両親と同居というなかなかにスリリングな日常を送っています。
そんな私が、ライターとして徹底的にリサーチしました。
厚生労働省の資料から、深夜のエンジニア飲み会で飛び交う怨嗟の声、そして2025年現在の最新の法改正事情まで。
表面的な綺麗事ではなく、泥臭い「現場の真実」をかき集めました。
この記事では、ITエンジニアの3大契約形態である「派遣」「紹介予定派遣」「SES(準委任)」の違いを、徹底的に解剖します。
単なる言葉の定義ではありません。
それぞれの契約が持つ「お金の動き(マージン構造)」、現場で横行する「偽装請負」の実態、そしてインボイス制度やフリーランス新法が定着した2025年の今、あなたがどの契約を選ぶべきかという「生存戦略」までを網羅しました。
この記事を読めば、あなたはもう、求人票の甘い言葉に騙されることはなくなります。
「なぜ自分の給料が上がらないのか」
「なぜ理不尽な命令をされるのか」
というモヤモヤが晴れ、自分のキャリアを守るための最強の盾と矛を手に入れることができるはずです。
結論から言います。
どの契約形態が「正解」かは、あなたの現在の状況によって変わります。
しかし、「無知」であることだけは、間違いなく「不正解」であり、最大の罪です。
この記事を読み終える頃には、あなたは契約書という名の「武器」を使いこなし、この厳しいIT業界を賢く泳ぎ切るための羅針盤を手にしていることでしょう。
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電車通勤の風景見えない「階級」

毎朝、東京の満員電車に揺られていると、ふと思うことがあります。
「この車両にぎゅうぎゅうに詰め込まれている人たち、みんな同じような疲れ顔をしてスマホを見ているけれど、その懐事情や立場の強さは、天と地ほど違うんだろうな」と。
長崎から上京してきて、もう人生の半分以上を東京で過ごしています。
高卒で飛び出した田舎の風景とは違い、この街はいつだってカオスです。
今は夫の実家で義両親と同居しながら、フルタイムで働き、帰宅すれば息子の宿題を見ながら夕飯の支度をする毎日。
毎日往復2時間の通勤時間は、私にとって貴重な人間観察の時間でもあります。
最近、特に耳にするのがIT業界の「契約」にまつわる悲喜こもごもです。
IT業界は今、空前の人手不足。
経済産業省が「2030年には最大79万人足りなくなる」と予言していた未来は、もう現実のものとなっています。
2025年12月現在、エンジニアは本来なら引く手あまたの「売り手市場」のはず。
王様のような扱いを受けてもいいはずです。
なのに、なぜ「低賃金」や「使い捨て」といった理不尽がまかり通るのか。
その答えは、あなたが結んでいるハンコ一つ、「契約形態」の違いにあります。
「派遣」「紹介予定派遣」、そしてIT業界の魔物「SES(準委任契約)」。
これらは単なる書類上の区分けではありません。
「誰があなたに命令できるのか」「誰があなたの生活を守るのか」、そして「あなたの技術は誰の資産になるのか」。
これらすべてを決定づける、エンジニアとしての「生存ルール」そのものです。
教科書的な解説ならAIに任せておけばいい。
ここでは、現場にはびこるグレーゾーンや、給与明細の裏側に潜むトリック、そして2024年に施行されたフリーランス新法の影響まで、私が徹底的に調べ上げ、噛み砕き、時にはちょっとした毒を交えながら解説します。
曖昧な理解は、キャリアにおける最大のリスクです。
正しい知識という武器を装備して、この荒波を乗りこなしていきましょう。
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すべての基本は「誰がボスか(指揮命令権)」にある

まず、一番大事なことから話しますね。
ここを理解していないと、後の話が全部チンプンカンプンになりますから。
ITエンジニアの働き方を理解する上で、最も重要で、かつ最もトラブルになりやすいのが「指揮命令権」の所在です。
簡単に言えば、
「今日、この仕事をやって」
「今日は残業して」
と命令する権利を持っているのは誰か、ということです。
「そんなの、現場の上司に決まってるでしょ?」
と思いました?
その感覚のままだと、非常に危険です。
足をすくわれますよ。
契約形態によっては、現場の上司からの命令が「違法行為」になることだってあるんですから。
ここを曖昧にしたまま現場に入ると、トラブルに巻き込まれたときに誰も助けてくれません。
3つの契約形態の決定的な違い
エンジニアが関わる主な契約形態は、大きく分けて3つあります。
それぞれの「ボス」が誰なのか、まずはざっくりと把握しましょう。
- 労働者派遣契約(派遣)
- 紹介予定派遣
- 準委任契約(SES / 業務委託)
以下の表を見てください。これが法的な「現実」です。
| 比較項目 | 派遣 | 紹介予定派遣 | 準委任(SES) |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 労働者派遣法 | 労働者派遣法 | 民法第656条 |
| あなたの雇用主 | 派遣会社(派遣元) | 派遣元 →(転換後)派遣先 | 所属会社(SES企業) |
| 指揮命令権(ボス) | 派遣先(クライアント) | 派遣先(クライアント) | 所属会社(SES企業) |
| 契約の目的 | 労働力の提供 | 直接雇用前提の試用 | 業務(事務処理)の遂行 |
| 期間制限 | 原則3年(例外あり) | 最長6ヶ月 | なし |
| 成果物責任 | なし | なし | なし(善管注意義務のみ) |
| 事業許可 | 厚労大臣許可必須 | 派遣+職業紹介許可 | 不要 |
「派遣」の構造:クライアントが上司になる(これは合法)
まずは「派遣」です。
派遣契約の最大の特徴は、「雇われている会社」と「命令される会社」が別々だということ。
あなたは派遣会社(派遣元)と雇用契約を結びます。
お給料も派遣会社から振り込まれます。
でも、仕事の指示は派遣先企業(クライアント)から直接受けます。
これは、労働者派遣法という法律で認められた正当な働き方です。
派遣先のプロジェクトマネージャーから
「このバグを修正して」
「明日は会議だから9時に来て」
と具体的な指示を受けること。
これは派遣契約なら何の問題もありません。
例えるなら、レンタカーみたいなものです。
車(労働力)の持ち主はレンタカー会社(派遣元)ですが、運転して目的地を決めるのは借りた人(派遣先)ですよね。
派遣先企業には、あなたを自社の社員と同じように管理し、安全な労働環境を整える義務があります。
「お客様扱い」ではなく、チームの一員として指揮系統に組み込まれるわけです。
「SES(準委任)」の構造:クライアントからの命令は違法
さて、問題はここからです。
日本のITエンジニアの多く、肌感では7割くらいが従事していると言われるSES(System Engineering Service)。
これは法的には「準委任契約」に当たります。
この契約において、クライアント(発注者)はあなたに
直接指揮命令を行う権限を持っていません。
大事なことなのでもう一度言いますね。
クライアントはあなたの上司ではありません。
SES契約では、あなたは自社(SES企業)の指揮命令下で業務を行います。
クライアントはあくまで「業務を委託」しているだけ。
「バグの調査」という業務をお願いしているだけであって、あなたの時間を支配したり、やり方を細かく指示したりする権利はないんです。
もし、SES契約なのに、クライアントの社員から
「遅刻厳禁!」
「今日は残業して帰って」
「ここのコードの書き方はこう直して」
なんて直接言われているとしたら?
おめでとうございます(皮肉です)。
それは「偽装請負」という、立派な違法状態です。
これ、料理に例えると分かりやすいかもしれません。
- 派遣
依頼主の家のキッチンに入って、依頼主のレシピ通りに料理を作ること。 - SES(準委任)
「カレーを作って」という注文を受けて、自分のやり方でカレーを作って提供すること。
注文した人が厨房に入ってきて「玉ねぎの切り方が違う!」とか「もっと火を強くして!」と口出しするのはルール違反なんです。
でも、ITの現場ではこのルール違反が横行しています。
なぜなら、その方が便利だから。
でも、その「便利さ」の代償を払わされるのは、いつだって立場の弱いエンジニアなんです。
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労働者派遣のリアル「3年ルール」とマージンの真実

SESの闇については後でたっぷり語るとして、まずは法律でガチガチに固められた「派遣」の世界を見ていきましょう。
派遣はルールが明確な分、そのルール自体がキャリアの足かせになることもあります。
特に知っておくべきなのが「期間制限」と「お金の話」です。
「3年ルール」というキャリアの壁と抜け道
2015年の労働者派遣法改正で、「3年ルール」なるものが強化されました。
これ、派遣で働く人にとっては時限爆弾のようなものです。
- 事業所単位の期間制限
同じ派遣先の事業所(会社全体)で派遣を受け入れられるのは原則3年まで。 - 個人単位の期間制限
同じ派遣労働者が、同じ組織(課やグループ)で働けるのは最長3年まで。
つまり、どんなにその職場が気に入っていても、どんなに優秀でも、3年経ったら「さようなら」か「契約変更」を迫られるわけです。
3年を超えて働き続けるには、以下の3つのアクションのどれかが必要です。
- 直接雇用
派遣先にお願いして、正社員や契約社員にしてもらう。(これができれば苦労しないって話ですが) - 無期雇用転換
派遣元の「無期雇用派遣(常用型派遣)」になる。
これなら期間制限はなくなります。 - 部署異動
同じ会社でも「課」が変わればカウントはリセットされます。
「開発1課」から「開発2課」へ、みたいな。
登録型派遣の場合、3年ごとに職場を変えるか、雇用形態を変えるかの選択を迫られます。
これを「不安定で嫌だ」と捉えるか、「強制的に新しい現場に行けるからスキルが偏らなくてラッキー」と捉えるか。
ポジティブに考えれば、嫌な人間関係も3年でリセットできるわけですが、住宅ローンを組みたい40代としては、やはり心もとないのが本音ですよね。
マージン率の公開義務と「中抜き」の誤解
派遣というと、必ずついて回るのが
「ピンハネ」
「中抜き」
というネガティブなワード。
「私が汗水垂らして稼いだお金を、派遣会社が右から左へ流すだけで持っていく!」
と怒りたくなる気持ち、よく分かります。
夫の小遣いを減らすときの私の気持ちに近いものがあります。
でも、ちょっと待ってください。
感情的になる前に、数字を見てみましょう。
実は、すべての派遣会社にはマージン率の公開が義務付けられています(労働者派遣法第23条5項)。
隠せないんです。
マージン率はこんな式で計算されます。
IT技術者派遣の大手企業の平均的なマージン率は、だいたい30%〜40%程度です。
「えっ、4割も取ってるの!?」
と思いました?
でも、このマージン=派遣会社の儲け(純利益)、ではありません。
ここが誤解されやすいポイントです。
このマージンの中には、会社として払わなきゃいけないコストが山ほど含まれているんです。
- 社会保険料(会社負担分)
これがデカイ。
賃金の約15%相当(厚生年金、健康保険、雇用保険など)。 - 有給休暇費用
あなたが有給を取って休んでいる間も、派遣会社はあなたに給料を払いますが、派遣先からはお金が入ってきません。
そのための貯金です。 - 教育訓練費
法律で「年8時間以上の教育訓練」が義務付けられています。
そのコスト。 - 福利厚生費
健康診断とか、交通費とか。 - 営業利益
これらを全部引いて、最後に残るのが会社の利益。
だいたい数%〜10%程度です。
逆に言えば、マージン率が極端に低い(15%〜20%以下)会社は要注意です。
「良心的で還元率が高い」と見せかけて、実は教育訓練をサボっていたり、福利厚生が皆無だったり、最悪の場合は社会保険に入れていなかったりする可能性があります。
「適正なマージン」は、あなたを守るための保険料でもあるのです。
安ければいいってもんじゃない、スーパーの特売肉と同じですね。
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紹介予定派遣は「お試し婚」か?辞退率70%の真実

「正社員になりたい。でも、いきなり入社してブラック企業だったらどうしよう…」
そんな慎重派のエンジニアにとって、魅力的に映るのが「紹介予定派遣」です。
最長6ヶ月の派遣期間を経て、お互いが「いいね」と思ったら直接雇用(正社員や契約社員)に切り替わる仕組み。
いわば、結婚を前提とした同棲期間、「お試し婚」みたいなものです。
面接・履歴書提出が合法な唯一の派遣
通常の派遣契約では、派遣先企業がエンジニアを選別する行為(事前面接や履歴書の提出要求)は法律で禁止されています。
「特定行為の禁止」ってやつです。
派遣先は「人」を選んじゃダメなんです。
「労働力」を受け入れるだけだから。
でも、紹介予定派遣に限っては別。
将来、社員として雇うかもしれないわけですから、顔も見ずに決めるわけにはいきません。
だから、事前面接も履歴書の提出も合法的に認められています。
「辞退率70%」の衝撃的な実態
「お試し期間があるなんて最高! ミスマッチも防げるし!」
そう思いますよね。
でも、現実はドラマのように甘くありません。
現場のデータによると、紹介予定派遣として働き始めた後、実際に直接雇用に至る割合は約30%〜50%程度。
裏を返せば、
約50%〜70%が「不成立」または「辞退」
で終わっているんです。
なぜこんなに破局率が高いのか。理由はだいたいこの3つです。
- 条件の乖離(釣った魚に餌をやらないパターン)
「正社員になればボーナスも出るし年収アップ!」と期待していたのに、いざ提示された条件を見たら、派遣時代の時給換算より低かった。
「え、正社員って名ばかり?」みたいな。 - カルチャーアンマッチ(性格の不一致)
実際に働いてみたら、社風が合わない。
「アットホームな職場です」と言っていたのに、毎週末BBQ強制参加だった、とか。
開発プロセスが古すぎて昭和かと思った、とか。 - 能力不足(期待外れ)
企業側が「思ったよりスキルがないな」と判断して、お断りされるパターン。
エンジニア側の戦略:あなたも企業を「試用」してやる
でも、この「辞退率の高さ」をネガティブに捉える必要はありません。
紹介予定派遣の最大のメリットは、エンジニア側にも「拒否権」があることです。
書類選考や数回の面接で、その会社のすべてが分かりますか?
分かりませんよね。
「残業の実態」
「上司のパワハラ気質」
「コードの品質に対する意識」
こういうドロドロした部分は、中に入ってみないと絶対に見えません。
紹介予定派遣なら、最大6ヶ月かけてじっくり観察できます。
もし「ここは地雷だ」と感じれば、派遣期間終了のタイミングで「ごめんなさい」すればいいんです。
履歴書に「短期離職」の傷をつけることなく、次の職場を探せます。
【重要】成功のための注意点
ただし、一つだけ絶対にやっておくべきことがあります。
派遣開始前に
「直接雇用後の想定年収・雇用形態(正社員か契約社員か)」
を書面で確認すること。
「頑張り次第で決めるよ」
なんて曖昧な言葉を信じちゃダメです。
それは「今は決めたくない(安く買い叩きたい)」の裏返しですから。
結婚前に借金の有無を確認するのと同じくらい大事なことです。
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SES(準委任契約)の深層「偽装請負」の闇

さて、いよいよ本丸です。
IT業界の闇、SES(準委任契約)について深掘りしていきましょう。
SESは、未経験からエンジニアとしてのキャリアをスタートさせる「登竜門」としての側面もあります。
私も「最初はSESで修行した」という優秀なエンジニアを何人も知っています。
でも同時に、日本のIT業界の構造的な歪みが最も現れやすい、非常にリスキーな契約形態でもあります。
民法第656条「準委任」とは何か
まず、法律の話を少しだけ。
SES契約の正体である「準委任契約」は、「法律行為ではない事務の委託」を指します。
システム開発や保守・運用、テスター業務などがこれに当たります。
ここで絶対に覚えておいてほしいのが、
「仕事の完成(成果物)」を約束する契約ではない
という点です。
これは「請負契約(民法第632条)」との決定的な違いです。
請負は
「家を建てて」
「ウェブサイトを作って」
というふうに、「完成品」に対してお金を払います。
完成しなかったらお金はもらえませんし、欠陥があったら直す責任(契約不適合責任)があります。
でも準委任(SES)は違います。
「エンジニアとして、誠実に業務を行ってください」
という契約です。
これを
「善管注意義務(善良なる管理者の注意をもって業務を遂行すること)」
と言います。
極端な話、一生懸命やった結果、バグが出たりプロジェクトが遅延したりしても、サボっていたわけでなければ法的な損害賠償責任を負うことは原則としてありません。
報酬は「成果」ではなく、働いた「時間(工数)」に対して支払われます。
「140時間〜180時間の範囲で働いてね、月額60万円払うから」
といった感じです。
蔓延する「偽装請負(Gisou Ukeoi)」
ここまで読むと
「成果責任がないなんて、SESって気楽でいいじゃん」
と思うかもしれません。
でも、現実はそう甘くない。
契約書には「準委任(業務委託)」と書かれているのに、実態は派遣社員のようにクライアントから直接ガンガン指示を受けて働く
――これが「偽装請負」です。
なぜ企業はこんなことをするのか?
クライアントにとっては、派遣契約よりも契約解除が簡単だからです。
「来月からは来なくていいよ」の一言で済みます。
派遣のような「3年ルール」もありません。
都合よく労働力を調整できる「便利な蛇口」なんです。
SES企業にとってもメリットがあります。
派遣事業の許可を取るには、それなりの資産要件など厳しい基準をクリアしなければなりませんが、SESならそれが不要。
手っ取り早く「人出しビジネス」ができるわけです。
割を食うのは、いつだってエンジニアです。
- 責任の所在が不明確
指揮命令者が曖昧なので、トラブルが起きたときに守ってもらえない。
労災が起きたときも
「うちは指揮してないから」
と責任逃れされかねません。 - 労働環境の悪化
クライアントからの無理な要求を断りにくい。
「明日までにこれやって」と直接言われたら、断れますか?
断れませんよね。
サービス残業の温床です。 - キャリアの停滞
スキルアップにつながらない単純作業の切り出し案件に固定されてしまうリスクがあります。
あなたの現場は大丈夫? 偽装請負チェックリスト
あなたの現場が「真っ黒」か「グレー」か、あるいは「ホワイト」か。
厚生労働省のガイドライン(昭和61年労働省告示第37号)に基づき、チェックリストを作りました。
一つでも当てはまれば、偽装請負の疑いが濃厚です。
- ⚠️ クライアントから直接、メールやチャット(Slack等)で日々の作業指示を受けている。
- ⚠️ 始業・終業時刻や休憩時間をクライアントに管理・指定されている(「9時に朝会出てね」とか)。
- ⚠️ 残業や休日出勤の指示をクライアントから直接受けている。
- ⚠️ 休暇の申請を、自社ではなくクライアントの課長に承認してもらっている。
- ⚠️ クライアント社員が、あなたの業務の進め方を細かく修正・指導している。
- ⚠️ トラブル時の対応やミスへの叱責をクライアントから直接受けている。
- ⚠️ クライアントの社員と同じ名刺を持たされている。
どうですか?
ドキッとした人もいるんじゃないでしょうか。
「多重下請け構造」による中抜き問題
SES業界のもう一つの闇、それは「多重下請け構造」です。
建設業界と同じです。
「ITゼネコン」なんて呼ばれることもありますね。
- エンドユーザー(発注者): システムを作りたい大企業
- 元請け(プライムベンダー): 一括で請け負う大手SIer
- 二次請け(SES企業A社): 元請けから人集めを頼まれる
- 三次請け(SES企業B社): A社に人を貸す
- エンジニア(あなた): B社の社員、あるいはB社と契約したフリーランス
商流が深くなればなるほど、各社が「紹介料」「管理費」という名目のマージンを抜いていきます。
伝言ゲームのように。
エンドユーザーが月100万円払っていても、5次請けのエンジニアの手元には25万円しか届かない、なんてザラにあります。
しかも、指揮命令系統も伝言ゲームになります。
エンドユーザーの要望が、元請け→二次請け→三次請けと伝わる間に歪んでいき、現場に着く頃には
「とにかく動けばいいから!」
みたいな雑な指示になる。
そして炎上する。
この構造の中にいる限り、エンジニアは消耗するばかりです。
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【警告】「高還元SES」のトリックと最新法規制

ここ数年、SNSを見ていると
「還元率80%!」
「単価連動型給与!」
と高らかに謳う「高還元SES」企業の広告が目につきます。
従来の中抜きSESに搾取されてきたエンジニアにとって、それは救世主のように見えるかもしれません。
でも、ちょっと待って。
「うまい話には裏がある」というのは、世の常です。
ここにも数字のトリックが潜んでいる場合があります。
「還元率」の計算式に隠された罠
一般的なホワイト企業の還元率計算は、会社が負担すべき法定福利費(社会保険料など)を除外した上で行われます。
しかし、一部の悪質な高還元SESでは、こんな計算式を使っています。
分かりますか?
本来、会社が負担すべきコストを、あなたの「還元分」から引いているんです。
例えば、単価70万円で還元率70%の場合。
単純計算なら49万円が給与になるはずですよね。
でもそこから、会社負担分の社会保険料(約5万円)や交通費、さらに「待機になったときのための積立金」まで引かれる。
結果、実際の手取りはもっと低くなる。
さらに深刻なのが「待機期間」の扱いです。
案件が終わって次の案件が決まるまでの間、給与保証はありますか?
「案件がない月は給与が6割(休業手当の最低ライン)」、最悪の場合は「給与ゼロ」という契約も存在します。
これでは、正社員としての最大のメリットである「安定」を放棄し、フリーランスのリスクだけを背負わされているのと同じ。
「還元率」という数字のインパクトだけに踊らされず、計算式の内訳を契約前に必ず確認してください。
インボイス制度とフリーランス新法の影響(2025年現在)
さて、時計の針を現在(2025年12月)に戻しましょう。
2023年のインボイス制度導入、そして2024年11月のフリーランス新法施行から1年が経ちました。
エンジニアを取り巻く環境は、まさに激変の最中にあります。
まずインボイスの影響。
準委任契約で働くフリーランス、特に年収1000万円以下の免税事業者だった人たちは、かなり苦しい立場に追いやられています。
企業側から「消費税分の値下げ」を要求されたり、課税事業者にならないと契約を更新しないと言われたり。
これにより、SES企業経由で働くフリーランスの手取り減少が常態化しています。
そしてフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)。
これが結構効いています。
業務委託契約のエンジニアに対し、発注条件の明示や60日以内の報酬支払いが義務付けられました。
これまでSES業界では「月末締め、翌々月末払い(サイト60日)」や「90日払い」なんていう、資金繰りを圧迫する支払いが横行していましたが、これが違法になりました。
また、ハラスメント対策も発注者の義務になりました。
「お前、代わりはいくらでもいるんだぞ」
みたいなパワハラ発言も、法の監視下に置かれることになったのです。
企業側はコンプライアンスリスクに敏感になっています。
「中途半端な個人事業主と契約するより、ちゃんとした派遣会社や法人格を持つSES企業と取引したい」
そんな動きが強まっています。
つまり、エンジニアの「選別」が始まっているのです。
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キャリアステージ別最適解チャート

ここまで、脅すようなことばかり書いてごめんなさいね。
でも、現実を知らないと戦えませんから。
ここからは希望の話をしましょう。
あなたの現在のキャリアステージや目的に応じて、どの契約形態を選ぶのが「正解」なのか。
私が考える最適解を提案します。
1. 【未経験・駆け出し(経験0〜2年)】
推奨:紹介予定派遣 または 教育体制のあるSES
この時期の最優先事項は、お金よりも「実務経験」です。
ポートフォリオに書ける実績を作ること。
- 紹介予定派遣
未経験OKの案件は少ないですが、もし見つかればラッキーです。
大手企業の正社員になれる最短ルートになり得ます。
競争率は高いですが、チャレンジする価値はあります。 - SES
「案件ガチャ」のリスクはありますが、未経験でも採用されやすいのが最大の特徴。
ただし、面接で必ず確認してください。
「開発案件に入れますか?」と。
家電量販店のスマホ販売員や、コールセンターのオペレーターなど、IT開発に関係ない現場に飛ばされないように。
「エンジニアとしてのキャリア」が積めるかどうかが全てです。
2. 【中堅(経験3〜5年)】 スキル特化の時期
推奨:専門特化型派遣 または 高単価SES(商流の浅い会社)
一通りの開発ができるようになったら、次は「専門性」を磨くか「年収」を上げるフェーズです。
ここで漫然と過ごすと、「器用貧乏」になって年収が頭打ちになります。
- 専門特化型派遣
「AWSに強い」
「Reactなら負けない」
「AI/MLやりたい」
など、特定の技術に特化した派遣会社を選びましょう。
正社員だと異動でレガシーなシステムの保守に回されることもありますが、派遣なら最先端のプロジェクトを選んで関わり続けることができます。
3年ルールも、無期雇用転換してしまえば怖くありません。 - SES
多重下請けの下層(3次請け、4次請け)にいるなら、今すぐ脱出を。
元請け(プライム)や二次請けの案件を持っているSES企業へ転職すべきです。
やっていることは同じでも、商流を1つ上げるだけで、年収が100万円単位で変わります。
本当です。
3. 【ベテラン・スペシャリスト(経験6年以上)】
推奨:フリーランス(準委任) または 技術顧問・マネージャー(正社員)
技術力で勝負できるなら、フリーランスとして独立することで収入を最大化できます。
インボイスや新法の対応は面倒ですが、それでも月単価80万〜100万円以上の案件を獲得できるのは魅力です。
一方で、技術だけでなく「組織作り」や「事業成長」に関わりたいなら、正社員としてCTOやエンジニアリングマネージャーを目指すべきです。
ストックオプションなどを狙える場合もあります。
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契約は「道具」であり、キャリアを守る「武器」である
長々と書いてきましたが、最後にこれだけは伝えておきたいです。
日本のIT業界において、「派遣」「紹介予定派遣」「SES(準委任)」のどれが絶対的な正解で、どれが悪ということはありません。
包丁と同じです。
美味しい料理を作る道具にもなれば、指を切る危険なものにもなる。
- 派遣は、法律で守られた環境で、明確な指示のもとスキルを磨くための道具。
- 紹介予定派遣は、失敗のない就職をするための、お互いの見極めの道具。
- SESは、様々な現場を渡り歩き、多様な経験を積むための道具(ただし、使い手には高いリテラシーと自己防衛能力が求められる)。
重要なのは、自分が今どの契約形態で働いているのかを正確に理解し、そのメリットを享受しつつ、リスクをコントロールすることです。
「会社に言われたからなんとなくサインしました」
それは、戦場に丸腰で出ていくようなものです。
自分の意思で、自分のフェーズに合わせて、契約形態を選び取ってください。
その主体的な選択こそが、変化の激しい2025年のIT業界でエンジニアとして生き残るための、最強のスキルとなるはずです。
さて、そろそろ夕飯の支度をしなきゃ。
今夜はカレーにしようかな。
もちろん、誰にも文句は言わせませんよ。
私のキッチンの指揮命令権は、私にありますからね。
