「短いメインミッションをクリアしたけれど、『え、これで終わり?』と呆然としたまま画面を見つめた経験はありませんか?」
「ネット上の『チコの胸の穴』や『パスの爆弾』に関する断片的な情報を見て、余計に混乱していませんか?」
「『ファントムペイン』をプレイする前に、なぜ英雄が悪に堕ちたのか、その決定的な理由(トラウマ)を正確に知りたいと思っていませんか?」
2014年の発売から11年以上の月日が流れました。
今は2025年の12月。
街はクリスマスのイルミネーションで浮足立っていますが、私の心はあの日からずっと、1975年の冷たい雨が降るキューバの米軍基地に囚われたままです。
正直に言いましょう。
今のゲームは親切です。
あらすじ機能はあるし、チュートリアルも手厚い。
けれど、この
『メタルギアソリッドV グラウンド・ゼロズ(MGSV: GZ)』
という作品だけは違います。
表向きのストーリーを追うだけでは、何も見えてきません。
カセットテープのノイズの向こう側にある「子供たちの悲鳴」や「男たちの妄執」を聞き取らなければ、本当の地獄は理解できないように作られています。
私は普段、満員電車に揺られて都内の会社に通い、家では生意気盛りの小学4年生の息子と格闘し、夫の両親に気を使いながら暮らしている、どこにでもいる主婦です。
でも、ひとたびコントローラーを握れば、潜入歴数十年のベテラン兵士になります(気持ちだけは)。
長崎で生まれ育ち、「平和」という言葉の重みを骨の髄まで叩き込まれてきた私にとって、このゲームが描いた「核」と「報復」のテーマは、単なる娯楽として消費するには重すぎました。
だからこそ、執着しました。
何百時間もテープを聞き返し、海外の考察フォーラムを読み漁り、この物語の深淵を覗き込んできました。
この記事では、単なるあらすじ紹介ではなく、以下の要素を一切の容赦なく、完全にネタバレ解説します。
- カセットテープに残された残酷な真実
- 物語の裏で進行していた策略
- 『ファントムペイン』へと続く「空白の9年間」の正体
この記事を読むことで、あなたは以下のメリットを得られます。
- 断片的な情報が一本の線に繋がり、なぜマザーベースが壊滅しなければならなかったのか、その「必然」を理解できます。
- チコやパスが直面した「語られざる悲劇」を知ることで、続編への没入感が劇的に変わります。
- 11年経っても色褪せないこの作品の狂気的な完成度を再確認し、モヤモヤしていた疑問がすべて氷解します。
結論を言います。
この記事を読み終えた時、あなたは「ただのプレイヤー」ではなく、スネークと共に痛み(Phantom Pain)を背負う「共犯者」になります。
覚悟はいいですか?
それでは、1975年の雨と泥の中へ、一緒に潜りましょう。
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第1章:プロローグ偽りの平和と核の均衡(1974-1975)

抑止力という名の矛盾
物語を紐解くには、時計の針を少し戻す必要があります。
1974年、場所はコスタリカ。
「ピースウォーカー事件」と呼ばれたあの一件です。
伝説の傭兵ビッグ・ボス(スネーク)と、その相棒であるカズヒラ・ミラー。
彼らが作り上げた組織「国境なき軍隊(MSF)」は、カリブ海の洋上プラント「マザーベース」を拠点に、世界中の軍隊が無視できないほどの巨大な武力を持つに至っていました。
想像してみてください。
どこの国にも属さない、法律にも縛られない巨大な軍事組織が、核兵器(メタルギアZEKE)を持って海の真ん中にプカプカ浮いているんです。
普通に考えれば「恐怖」ですよね?
私が近隣諸国の首相なら、夜も眠れません。
でも、彼らにとってそれは、大国の理不尽な圧力に潰されないための唯一の手段、「抑止力」でした。
「平和(Peace)」を守るために「核」を持つという、巨大な矛盾。
この危ういバランスジェンガのような状態の上に、マザーベースの日常は成り立っていました。
長崎出身の私としては、この「核による平和」という概念には複雑な思いがあります。
でも、彼らは信じていたんです。
自分たちは正義だと。自分たちは世界に必要な番犬だと。
その傲慢さが、悲劇の引き金になります。
崩壊へのカウントダウン
1975年。
その危ういバランスが崩れる時が来ました。
IAEA(国際原子力機関)から、抜き打ちの「核査察」の申し入れが届いたのです。
要するに
「お前ら核持ってるだろ? 隠しても無駄だぞ、見せろ」
というわけです。
副司令官のカズヒラ・ミラーは、これをビジネスチャンスだと捉えました。
「ここを乗り切れば、俺たちはただの傭兵集団ではなく、国際的な民間軍事会社として認められる」
ビジネスマンとしての嗅覚ですね。
科学者のヒューイ・エメリッヒも勝手に同意してしまい、査察の受け入れは決定事項となってしまいました。
スネークだけが、野生の勘で疑っていました。
「タイミングが良すぎる」
その予感は的中します。
背後に見え隠れするのは、かつての盟友であり、今は世界の情報を統制しようとする宿敵「サイファー(ゼロ少佐)」の影。
この査察が、マザーベースを内側から食い破るための「トロイの木馬」だとは知らずに、彼らは運命の日を迎えます。
英雄を動かす二つの「弱点」
時を同じくして、最悪のニュースが飛び込んできます。
ピースウォーカー事件のラストで海へ消え、死んだと思われていた二重スパイ、パス・オルテガ・アンドラーデが生きていたのです。
彼女はベリーズの漁師に救助された後、サイファーに捕まり、キューバ南端の米軍基地「キャンプ・オメガ」で尋問を受けているとのこと。
さらに悪いことに、パスに淡い恋心を抱いていたMSFの少年兵チコが、彼女を助けようと無断で基地へ潜入し、逆に捕まってしまいました。
パスはMSFの内情と核の事実を知る「爆弾」のような存在。
チコはスネークにとって弟分のような、守るべき「家族」です。
「二人を連れ戻す。口を封じるために」
スネークはそう言いましたが、本心は違ったはずです。
彼は仲間を見捨てられない。
その「甘さ」とも言える優しさが、英雄の最大の弱点でした。
マザーベースの査察対応をカズに任せ、スネークはたった一人、嵐のキューバへ向かいます。
1975年3月16日。運命の夜。
私の息子がまだお腹にいた頃、胎動を感じながらこのゲームをプレイしていたのを思い出します。
「命を守る」ために戦う男の物語。
でも、その結末があんなことになるなんて。
ここから語ることは、すべて事実です。
ハンカチの用意はいいですか?
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第2章:本編深層解説雨と泥の潜入任務(GROUND ZEROES)

キャンプ・オメガという「ブラックホール」
スネークが降り立った「キャンプ・オメガ」。
ここは、1975年という時代設定における「法の空白地帯」です。
表向きは米軍基地ですが、実態はCIAですら手出しできないブラックサイト(秘密収容所)。
オレンジ色の囚人服。
頭に被せられた黒い袋。檻の中の人間たち。
勘のいい方なら気づくでしょう。
これは現実の「グアンタナモ湾収容キャンプ」の強烈なメタファーです。
私がこのゲームを初めてプレイした時、衝撃を受けたのはグラフィックの美しさだけではありません。
「雨」の冷たさです。
FOX Engineが描き出す濡れたアスファルト、叩きつける雨音、サーチライトの眩しさ。
それらが肌にまとわりつくような不快感を生み出しています。
ここは戦場ではありません。
一方的な暴力が支配する、巨大な監獄です。
満員電車で感じる「逃げ場のない息苦しさ」の、もっともっとタチが悪いやつです。
少年兵チコの悲劇
スネークは、まずチコが囚われている区画へ向かいます。
そこで目にしたのは、あまりに残酷な光景でした。
チコの足首、アキレス腱のあたりを見てください。
太いボルトが貫通しています。
逃げられないように、物理的に破壊されているんです。
まだ10代前半の子供に対して、ですよ?
私が親になってからこのシーンを見ると、本当に胸が張り裂けそうになります。
「違うんだ、僕はやってない!」
助けに来たスネークを見て、チコは怯えて後ずさりします。
なぜか?
彼は拷問に耐えきれず、情報を吐いてしまったからです。
それだけではありません。
彼は「あること」を強制されました。
これは後述するカセットテープの項で詳しく触れますが、彼は魂を殺されたのです。
スネークは震えるチコを気絶させ、背負って運び出します。
「遅かったな」
その言葉には、助けに来るのが遅れた後悔と、変わり果てた弟分への悲しみが滲んでいました。
チコが持っていたカセットテープ。
そこには、パスの居場所と、聞くに堪えない地獄の音が記録されていました。
亡霊「スカルフェイス」
この基地を支配しているのは、部隊章を持たない謎の特殊部隊「XOF」。
その指揮官、スカルフェイス。
白く焼けただれた顔に、黒いアイマスク。
ウエスタン調のロングコート。
彼はスネークと入れ違うように、ヘリで基地を去っていきます。
「その引き金に指をかけろ。…言葉の、抑止力にな」
詩的な言葉を残し、彼が向かった先。
それは、手薄になったマザーベースでした。
まるで、留守番中の子供がいる家に泥棒が入るような、生理的な嫌悪感を覚える演出です。
パスの救出と腹部のV字痕
チコの情報を頼りに、スネークは管理棟の地下ボイラー室へ潜入します。
機械の駆動音が響く薄暗い檻の中。
パスは吊るされていました。
かつて「恋の抑止力」なんてポップな歌を口ずさんでいたアイドルの面影は、もうどこにもありません。
髪は無残に刈り取られ、全身に拷問の痕。意識は混濁しています。
「痛い…お腹が…」
うわ言を繰り返すパス。
スネークは彼女を背負い、脱出ヘリへと急ぎます。
追撃してくる敵を振り切り、嵐の空へ飛び立った時、誰もが思いました。
「これで終わった」と。
私もそう思いました。
ああ、よかった、今夜はいい夢が見られる、と息をついたんです。
でも、甘かった。
これはハッピーエンドのハリウッド映画じゃありませんでした。
小島監督は、そんなに優しくありません。
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第3章:結末空中の外科手術と崩壊する夢

麻酔なき緊急手術
ヘリの中、チコがパスの異変に気づきます。
「お腹に何かある!」
スネークが確認すると、パスの腹部には、最近縫合されたばかりの生々しいV字型の傷跡がありました。
内臓の中に、爆発物が埋め込まれている。
ここでスネークが下した決断は、冷静かつ迅速でした。
「今すぐ出すぞ」
麻酔はありません。
設備もありません。
揺れるヘリの床の上です。
スネークが傷口をこじ開け、同乗していた「メディック(衛生兵)」が素手で内臓をかき分ける。
このシーン、直視できましたか?
私は思わず目を細めました。
内臓のぬめり、飛び散る血液、苦痛に歪むパスの顔。
FOX Engineの表現力が、ここでは凶器のようにプレイヤーの心を抉ってきます。
取り出されたのは、やはり爆弾でした。
皮肉なことに、平和の象徴(ピースマーク)が描かれた爆弾。
スネークはそれを海へ投げ捨てます。
爆発音。水柱。
「助かった」
そう思った直後、彼らの視界に入ってきたのは、信じられない光景でした。
マザーベースの最期
「スネーク!ここだ!出してくれ!」
無線から響くカズの悲鳴。
眼下のマザーベースは、黒煙に包まれていました。
核査察団を装ったXOF部隊が、武器を持たずに整列していたMSFの兵士たちを一方的に虐殺し、プラント全体を爆破していたのです。
スネークは崩れ落ちる甲板に降り立ちます。
そこら中に転がる仲間の死体。
崩落する鉄骨。
炎。
片足と片目を負傷したカズを抱え、再びヘリで脱出するスネーク。
彼らが心血を注いで作り上げた「家」が、海へと沈んでいく。
「俺たちのすべてが…!」
カズの絶叫は、プレイヤー自身の叫びでもありました。
私もこの時、コントローラーを握る手が震えていたのを覚えています。
積み上げてきたプレイ時間、育ててきたスタッフ、開発した装備。
それらが一瞬で灰になる感覚。
これこそが「喪失」です。
人生でも、大切に積み上げてきたものが一瞬で崩れることってありますよね。
あの虚無感です。
怒りと疑念
ヘリの中で、カズは怒りに震えていました。
「奴らはまんまとハメやがった!(They played us like a damn fiddle!)」
誰が裏切った?
査察を受け入れたヒューイか?
それともパスか?
疑心暗鬼と絶望が機内を満たします。
しかし、本当の「地獄」は、まだ底を見せていませんでした。
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第4章:真の結末GROUND ZEROES(爆心地)
第二の爆弾
マザーベースから離れ、安全圏へ向かうヘリの中。
意識を取り戻したパスが、突然起き上がります。
「爆弾が…まだあるの…!」
錯乱しながら彼女が告げた真実。
それは、私たちの想像を絶するものでした。
先ほど取り出した腹部の爆弾とは別に、もう一つ。
スカルフェイスは、彼女の体内の「もっと深い場所」に、二つ目の爆弾を隠していたのです。
「そこ」がどこなのか。
ゲーム内では明確には言及されません。
でも、考察班の間では定説があります。
子宮、あるいは内臓のさらに奥底。
女性として、母として言わせてください。
これほど冒涜的な行為があるでしょうか。
未来を生み出す場所に、死を埋め込むなんて。
スカルフェイスという男の底知れない悪意に、吐き気がしました。
スネークとカズが必死に止めようとするのを振り切り、パスは自らヘリの後部ハッチを開けます。
「私の身体の中に…!言ったでしょ、あるのよ!」
彼女はわかっていました。
自分がここにいれば、スネークたちが死ぬことを。
だから、彼女は飛び降りました。
自らの意思で。
9年間の闇へ
パスが空中に身を投げ出した直後、爆発が起きました。
その衝撃波は至近距離のヘリを直撃します。
さらに、追撃してきたXOFのヘリと空中で衝突。
スネークたちの乗るヘリはコントロールを失い、炎の塊となってカリブ海へ墜落していきました。
画面は暗転します。
そして、無慈悲なテロップだけが歴史的事実を伝えます。
- マザーベースは壊滅。
- MSFとビッグ・ボスの存在は、国際社会から隠蔽された。
- スネークは死んだと処理された。
スネーク、カズ、そして同乗していた「メディック」は奇跡的に一命を取り留めましたが、瀕死の重傷。
特にスネークとメディックは、この爆発の影響で昏睡状態に陥ります。
次に彼らが目覚めるのは、9年後の1984年。
そう、ここから「空白の9年間」が始まるのです。
これが、『メタルギアソリッドV』のプロローグであり、すべての復讐の原点となる結末です。
プレイヤーはここで、仲間、拠点、英雄としての名声、そのすべてを一瞬にして奪われる「喪失」を体験するのです。
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第5章:深層解析カセットテープが語る「真実」

さて、ここからが本番です。
MGSV: GZの恐ろしさは、映像で見える部分ではありません。
クリア後に入手できる「カセットテープ」。
ここにこそ、本当の闇が隠されています。
通勤電車の中でこのテープを聞いていた時、私はあまりの気分の悪さに途中下車しかけました。
でも、聞かなければならないんです。
これを理解しないと、彼らの痛みは分からないから。
チコのテープと「魂の殺人」
最も議論を呼んだのが「チコの記録」です。
テープには、パスが尋問される音声と共に、チコの声も入っています。
スカルフェイスは、チコに究極の選択を迫りました。
「パスを楽にしてやるか、それとも…」
明確な言葉は避けられていますが、状況証拠や海外版の解析から、チコがパスに対して強要されたことはほぼ間違いありません。
チコがスネークに助けられた時、「触るな!化け物め!」と拒絶したのを覚えていますか?
あれはスネークを怖がっていたんじゃないんです。
パスを裏切り、彼女の尊厳を踏みにじる行為に加担させられた自分自身への「自己嫌悪」と「絶望」。
自分が化け物になってしまったという叫びだったのです。
肉体的な拷問よりも深く、彼の魂は殺されていました。
まだあどけない少年に、一生消えない傷を負わせる。
それが戦争の現実だと言わんばかりに。
スカルフェイスの動機:「言葉」への憎悪
テープの中で、スカルフェイスは独白します。
彼は幼少期、戦争で故郷を奪われ、母国語を奪われ、拷問で皮膚を焼かれました。
彼はサイファー(ゼロ少佐)の部下でありながら、英語による世界支配を目論むゼロを激しく憎んでいました。
彼がパスを尋問した本当の目的。
それはMSFの情報ではありません。
「ゼロ少佐の居場所」です。
パスは二重スパイとして、ゼロと直接連絡を取れる数少ない人物でした。
「お前は男(ビッグ・ボス)を守るのか? それとも、もう一人の男(ゼロ)を守るのか?」
最終的にパスは、極限の苦痛の中でゼロの居場所を吐いてしまいます(これはエンディング後の隠し音声で判明します)。
この情報により、後にスカルフェイスはゼロを襲撃し、彼を植物状態へと追いやります。
つまり、あの雨の夜、キャンプ・オメガの地下で、世界の歴史を変える「組織内クーデター」が完了していたのです。
スネークたちは、その巨大な内輪揉めに巻き込まれたに過ぎなかった。
なんという理不尽でしょうか。
パスの遺言:憧れた「平和」
「パスの日記」というテープがあります。
そこには、スパイとして潜入していた彼女が、MSFの面々に対して抱いていた本当の感情が残されています。
最初は敵だと思っていた。
馬鹿にしていた。
でも、マザーベースでの「家族ごっこ」のような生活に、彼女は安らぎを感じていました。
彼女の名前「Paz」は、スペイン語で「平和」。
最期に彼女が自ら飛び降りたのは、任務失敗の責任からではありません。
スネークとチコ、彼女にとっての「本当の家族」を守るための、最初で最後の、彼女自身の意志による選択だったのです。
私はこのテープを聞いて、トイレでこっそり泣きました。
彼女はただの裏切り者じゃなかった。
平和を夢見た、普通の女の子だったんです。
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第6章:最大のトリック「メディック」とは誰だったのか?

ここで、2015年に発売された本編『ファントムペイン(TPP)』の核心に触れる話をします。
これからTPPを遊ぶ予定の方は、ここでブラウザを閉じてください。
…いいですか?
言いますよ?
これが分かると、GZの見え方が180度変わります。
顔のない英雄
GZのエンディングを思い出してください。
パスの腹部を手術し、爆発の瞬間に身を挺してスネークを庇った、あの「医療班のメディック(衛生兵)」。
彼の顔、はっきりと見えましたか?
見えませんよね。
カメラアングルやマスクで、巧みに隠されています。
でも、違和感を感じた人はいたはずです。
「あれ? この衛生兵、声がスネーク(キーファー・サザーランド)と同じじゃない?」と。
日本語版では意図的に別人が演じていますが、英語版では同じなんです。
9年後の真実
そう、この名もなきメディックこそが、後の『ファントムペイン』の主人公、ヴェノム・スネークその人なんです。
彼は爆発の破片(ヘリの骨組みや人間の骨片)を頭部に受け、スネークと共に昏睡状態に陥ります。
そして9年間の昏睡中、ゼロ少佐の画策による催眠療法と整形手術を受け、「ビッグ・ボスの影武者(ファントム)」として作り変えられました。
本物のビッグ・ボスは無傷に近い状態で目覚め、裏で「真の理想郷(ザンジバーランド)」を作るために姿を消します。
一方、私たちがTPPで操作し、苦悩し、戦い続けたスネークは、あの夜、自分の命を捨ててボスを守ろうとした、一人の忠実な兵士だったのです。
MGSV: GZは、「ビッグ・ボスの物語」であると同時に、
「一人の兵士が伝説の身代わりとして散るまでの、あまりに悲しいプロローグ」
でもありました。
この事実を知った上でGZをプレイし直すと、メディックの献身的な動き一つ一つに涙が出ます。
彼は最初から、英雄だったんです。
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第7章:2025年の視点MGSV: GZが遺したもの

あれから11年。
私の息子も大きくなりました。
今、改めてこの作品を振り返ると、その特異性が際立ちます。
FOX Engineというオーパーツ
GZで使用された「FOX Engine」。
この描画エンジンが生み出す「夜と雨」の表現は、2025年の最新ゲームと比べても、独特の「空気感」を持っています。
単にリアルなだけじゃない。
湿度、匂い、痛みまで伝わってくるような表現力。
このエンジンが、事実上この作品群と共に役割を終えたことは、ゲーム史における大きな損失だと、いちファンとして強く思います。
社会派テーマへの挑戦と覚悟
エンターテインメントとして扱うにはあまりに重いタブーです。
当時、小島監督は相当な覚悟でこれに挑みました。
なぜか?
「報復の連鎖」を描くためには、プレイヤー自身に「強烈な痛み」と「喪失」を体験させる必要があったからです。
マザーベースが燃える映像を見た時の、あの胸が引き裂かれるような感覚。
「許せない」という怒り。
それこそが、監督が私たちに植え付けたかった「種」だったのでしょう。
その種は9年の時を経て、『ファントムペイン』で「復讐の鬼」として芽吹くことになります。
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おわりに痛みと共に生きる
『メタルギアソリッドV グラウンド・ゼロズ』。
メインミッションだけなら2時間もあれば終わる、短いゲームです。
当時は「有料体験版だ」「未完成品だ」なんて批判もありました。
でも、その中身の密度は、映画数本分、いや、人生観を変えるほどの重みを持っています。
マザーベースは崩壊し、パスは散り、チコは失われました。
私たちはすべてを失いました。
でも、だからこそ、9年後の1984年、報復の物語が始まるのです。
もしあなたが、まだこの「爆心地(Ground Zero)」に立っていないのなら、あるいは昔プレイして記憶が薄れているのなら、ぜひもう一度触れてみてください。
カセットテープのノイズの向こう側に、彼らの生きた証があります。
そして、その痛みを胸に刻んだまま『ファントムペイン』へと進んでください。
そうすることでしか、彼らの魂は救われないのですから。
さて、私もそろそろ現実に、夕飯の支度に戻らなければなりません。
今日は寒いからお鍋にでもしようかしら。
平和な日常があることに感謝しつつ、心の一部には常に、あの雨の日の痛みを抱えて。
それが、スネークと共に時代を駆け抜けた私たちの、ある種の「責任」なのかもしれませんね。
