毎朝の満員電車、あれは現代の修行ですよね。
東京に来て20年以上経ちますが、揺れる車内で片足立ちしながらスマホニュースをチェックするスキルだけは達人の域に達しました。
私は普段、フルタイムの会社員として働きながら、帰宅すれば小学4年生の息子の宿題をみて、同居している義理の両親との絶妙な距離感を保ちつつ、夜な夜なこうしてキーボードを叩いている兼業ライターです。
長崎の田舎から「東京でバリバリやるぞ!」と上京してきた頃の野心は、いまや「今日の夕飯、豚バラともやしでなんとかならないか」という現実的な思考に置き換わっています。
そんな私の、そして毎日を戦う皆さんの唯一の救い。
それが「エンターテインメント」です。
特に2020年代に入り、世界は本当にいろいろありました。
マスク越しの呼吸に慣れすぎて、素顔で笑うことを忘れそうになった時期もありましたよね。
だからこそ、私たちは「笑い」を求めたんです。
それも、口角を少し上げるだけの上品な微笑みではなく、腹筋がよじれ、涙が出て、翌日ちょっとお腹が筋肉痛になるくらいの「生存本能としての爆笑」を。
スポンサーリンク
毎日の「作り笑い」に疲れているあなたへ
- 「最近、心から笑った記憶がない。テレビやネットのニュースを見るたびに気が滅入ってしまう」
- 「映画でも観てスカッとしたいけど、ハズレを引いてこれ以上時間を無駄にするのが怖い」
- 「『全米が泣いた』みたいな感動大作よりも、今はただただ頭を空っぽにして腹筋が崩壊するような笑いが欲しい」
もしあなたが今、通勤電車の吊り革に掴まりながら、あるいは家事の合間のほんの少しの隙間時間で、こんなため息をついているなら。
この記事は、間違いなくあなたのために書かれたものです。
毎日の満員電車、職場での人間関係、そして家庭での役割……。
私たちは常に何かを背負い、誰かのために気を使い、顔の筋肉を強張らせて生きています。
マスクの下で、口角を上げることを忘れてしまってはいませんか?
「笑い」は贅沢品ではなく、生存のための必需品です
2020年代に入り、世界は一変しました。
パンデミック、社会の分断、経済の不安。
閉塞感が漂うこの時代において、「コメディ映画」の役割もまた、大きく変わりつつあります。
かつてのような「暇つぶしの娯楽」ではありません。
それは、凝り固まった脳を強制的にリセットし、明日を生き抜くための活力をチャージする
「心の免疫ケア」
なのです。
しかし、世の中には「コメディ」を謳う作品が溢れています。
「全編爆笑!」
というキャッチコピーを信じて観たのに、愛想笑いすら浮かばなかった経験、ありませんか?
忙しい現代人にとって、面白くない映画に2時間を費やすことは、許されざる損失です。
だからこそ、「絶対に外さない」確かな羅針盤が必要なのです。
筆者について:東京砂漠を生き抜く、笑いのハンター
申し遅れました。
私は都内の企業でフルタイム勤務をしながら、ライターとして活動している40代の主婦です。
長崎の田舎から「東京で一旗あげるぞ!」と上京して早20年。
かつての野心は、いまや「今日の夕飯、豚バラともやしでなんとかならないか」という現実的な思考に置き換わっています。
現在は夫の両親と同居し、反抗期に片足を突っ込んだ小学4年生の息子の宿題をみつつ、往復2時間の通勤電車に揺られる日々。
そんな「戦場」のような毎日を生き抜くために、私が武器として選んだのが「エンターテインメント」でした。
映画館の暗闇に身を沈め、スクリーンの中のバカバカしい世界に没入する。
それは私にとって、現実逃避ではなく、正気を保つためのメンテナンスです。
年間100本以上の作品を鑑賞し、ただ「面白かった」で終わらせず、
「なぜ今のシーンで脳が揺さぶられたのか?」
を分析し続けること数年。
今回はその集大成として、私のライター生命と主婦のプライドをかけて筆を執りました。
この記事で学べること:あなたの脳をバグらせる5つの傑作
この記事では、2020年代(2020年から2026年現在まで)に公開された日本のコメディ映画の中から、興行収入や話題性だけでなく、「笑いの質」「脚本の巧妙さ」「時代との共鳴」を徹底的に分析し、ベスト5を選出しました。
単なるあらすじ紹介ではありません。
- その映画が、なぜ私たちの脳を「腹筋崩壊」させるのか(笑いのメカニズム)
- プロフェッショナルな俳優たちが仕掛けた、緻密な計算とアドリブの境界線
- 明日、職場の同僚や家族に思わず語りたくなる「深読みポイント」
これらを、時に行動経済学や心理学の視点も交えつつ(難しくはしませんよ!)、人間味あふれる言葉で解剖していきます。
スポンサーリンク
この記事を読むメリット:明日からの景色が少し変わります
この記事を読み終える頃には、あなたは以下のメリットを手にしているはずです。
- 「次に何を観ればいいか」という悩みから完全に解放されます。
- ただ笑うだけでなく、「笑いの構造」を理解することで、映画鑑賞の解像度が劇的に上がります。
- 紹介する作品を観ることで、日々のストレスがデトックスされ、久しぶりに「顔が痛くなるほど笑う」体験ができます。
結論:さあ、脳のデトックスを始めましょう
結論から言います。
今回紹介する5作品は、どれも
「不条理な現実を笑い飛ばす力」
を持っています。
高尚なテーマや小難しい説教は一切ありません。
あるのは、プロたちが本気で作った「極上の茶番」だけ。
準備はいいですか?
深呼吸をして、肩の力を抜いてください。
ここから先は、常識や理性を一時停止して、笑いの世界へダイブする時間です。
スポンサーリンク
第5位:『侍タイムスリッパー』 (2024年)手作り感こそが最高のスパイス。インディーズの奇跡が教える「負け犬」の美学

作品データ
- 監督・脚本: 安田淳一
- 出演: 山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの ほか
- 公開: 2024年
- キーワード: タイムスリップ、時代劇、自主制作、ショートケーキ
なぜ、この映画は「事件」だったのか
2024年、映画界にとんでもない「事件」が起きました。
池袋のたった1館でひっそりと公開された自主制作映画が、SNSの口コミという突風に乗って全国のシネコンへ拡大したのです。
まるで、近所の少年野球チームがメジャーリーグで優勝しちゃったような話。
夢がありますよね。
でも、この映画が私たちを熱狂させた本当の理由。
それは単なるサクセスストーリーへの憧れだけではありません。
ここには、人間心理の深い部分を突く「アンダードッグ効果(負け犬効果)」と「イケア効果」が絶妙に絡み合っているからです。
人は、不利な状況で戦っている人を無意識に応援したくなります。
そして、自分が応援した(手間をかけた)対象に対して、客観的な価値以上の愛着を感じる生き物です。
私たちはこの映画が大きくなっていく過程をSNSで共有することで、勝手に「宣伝担当」のような気分になり、作品の熱量を自家発電させていったんですね。
一種の「お祭り」に参加した感覚と言ってもいいかもしれません。
ストーリーの核心:プライドを捨てて、誇りを拾う
物語の主人公は、幕末の会津藩士・高坂新左衛門。
真面目で実直、武士の鑑のような男です。
彼は長州藩士との死闘の最中、落雷を受けて現代の京都・太秦撮影所へタイムスリップしてしまいます。
目が覚めれば、そこは時代劇のセットの中。
最初は「ここはどこだ?」とパニックになりますが、徐々に現代であることを理解します。
ここからの展開が秀逸なんです。
よくあるタイムスリップものなら、現代文明に驚いてドタバタして終わり、となりがちですが、彼が選んだ現代での生きる道、それは
「斬られ役(時代劇の死体役)」
でした。
かつては「死ぬか生きるか」の真剣勝負をしていた武士が、現代では「いかにカッコよく、偽物の刀で斬られて死ぬか」を追求する。
これって、現代のサラリーマンの悲哀にも通じませんか?
私たちも毎日、会社という組織の中で、自分の本音やプライドを押し殺して、求められる「役割」を演じていますから。
彼の姿は、他人事じゃないんです。
ここで腹筋崩壊:ショートケーキという名の「劇薬」
主演の山口馬木也さんの演技が、もう、ズルいんです。
彼は一切、ウケを狙った芝居をしません。
常に眉間に皺を寄せ、武士としての矜持を保ち続けています。
だからこそ、現代文明とのギャップが爆発的な笑いを生むんです。
伝説となっているのが「ショートケーキ」を初めて食べるシーン。
当時の甘味といえば、干し柿や貴重な砂糖くらいでしょう。
そんな彼が、現代の精製された砂糖と生クリームの塊を口にするわけです。
一口食べた瞬間、あまりの衝撃的な甘さに白目を剥き、武士の威厳を保とうと必死に耐えながら悶絶する。
「美味しい」という感情が致死量を超えて「苦痛」に近いリアクションになる。
脳の処理能力を超えた情報の奔流。
セリフなんて要りません。
あの一瞬だけで、劇場の観客全員が呼吸困難になりました。
「甘い」って、あんなに面白いことでしたっけ?
鬼の分析:コンプライアンス vs 武士道
笑いの中にも、現代社会への鋭い風刺が隠されています。
撮影現場で、つい本気で相手に斬りかかってしまい、助監督に
「カット! 新左衛門さん、殺気出しすぎです! 危ないんで!」
と怒られるシーン。
ここには、現代の
「ナッジ(行動を促す仕組み)」
としてのコンプライアンスや安全管理と、新左衛門の中に流れる絶対的な規範である「武士道」の衝突があります。
「命のやり取り」が「安全第一の業務」に変わってしまった現代。
そのズレを、私たちは新左衛門を通して笑い飛ばしています。
でも、心のどこかで
「本気で生きるって、こういうことだったよな」
と、ちょっとだけ背筋が伸びるような感覚も覚える。
それが、この映画の凄みです。
忘れられないクライマックス
ラストシーンの「真剣勝負」。
これが映画の撮影なのか、それとも私怨による決闘なのか。
虚実入り混じる緊張感の中で、竹光ではなく(という設定の)真剣が火花を散らします。
ここにあるのは、笑いを超えた感動です。
低予算特有の手作り感や粗ささえも、作り手たちの「時代劇を残したい」という熱い魂に見えてくる。
エンドロールが流れる頃には、笑いすぎて疲れた表情筋が、いつの間にか優しい涙で濡れていることに気づくでしょう。
スポンサーリンク
第4位:『カラオケ行こ!』 (2024年)ヤクザと中学生の「利害の一致」。権威が失墜する瞬間の快感

作品データ
- 監督: 山下敦弘
- 脚本: 野木亜紀子
- 原作: 和山やま
- 出演: 綾野剛、齋藤潤、芳根京子、北村一輝 ほか
- 公開: 2024年
- キーワード: X JAPAN、変声期、裏声、大阪
設定の勝利:恐怖が緩和されるとき、笑いが生まれる
「歌が上手くなりたいヤクザ」と「変声期に悩む合唱部部長の中学生」。
本来なら交わるはずのない二人が、カラオケボックスという密室で対峙する。
この設定だけで、もう勝負ありです。
これはユーモアの理論でいう
「良性侵害説」
の完璧な実例ですね。
「ヤクザ」という脅威(侵害)が、「歌を教えてほしい」という無害な目的(良性)を持つことで、恐怖が笑いに変換されるんです。
「怖いはずのものが、怖くない状況に置かれている」
というズレが、私たちの脳に「笑ってよし」という信号を送るわけです。
ストーリーの核心:罰ゲームという名の「損失回避」
ヤクザの成田狂児(綾野剛)がそこまでして歌を練習する理由。
それは、組長主催のカラオケ大会で最下位になると、組長自らの手で「変な刺青(キティちゃんなど)」を彫られるという罰ゲームがあるからです。
指を詰めるとかじゃなくて、ダサい刺青。この絶妙な「嫌さ」が素晴らしい。
行動経済学では
「損失回避性」
と言いますが、人は利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを2倍以上強く感じると言われています。
狂児にとって、その刺青は死ぬこと以上に避けたい「損失」なんですね。
一方、中学生の岡聡実(齋藤潤)にとって、狂児は恐怖の対象ですが、同時に退屈で息苦しい学校生活からの「避難所」でもあります。
この奇妙な利害の一致(インセンティブの合致)が、二人をバディにしていくのです。
ここで腹筋崩壊:綾野剛の「裏声」という発明
この映画最大の発明は、綾野剛さんに全編「裏声(ファルセット)」でX JAPANの『紅』を歌わせたことです。
黒いスーツに身を包んだスラッとしたイケメンヤクザが、マイクを握りしめ、蚊の鳴くような、でも感情たっぷりの裏声で
「く〜れ〜な〜い〜だ〜あああ〜」
と絶叫する。
初めて観たとき、私は映画館で自分の膝をバンバン叩いて笑いました。
人間って、期待値(カッコいいはず)と結果(気持ち悪い)のギャップ、専門用語でいう
「予測誤差」
が大きければ大きいほど、脳内麻薬が出て笑ってしまうんです。
さらに面白いのが、それに対する聡実くんのリアクション。
「カスです」
「汚いです」
「うるさいです」
中学生特有の忖度ゼロの言葉が、コワモテのヤクザにグサグサ刺さる。
普段、会社で上司に愛想笑いをしている私にとって、権威ある大人が子供に論破される姿を見るのは、最高のカタルシスでした。
「ハロー効果(肩書きや見た目で評価が歪むこと)」
が完全に崩壊する瞬間。
胸のつかえが取れるような爽快感がありますよ。
脚本の妙:説明しない美学
脚本を担当したのは、『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』の野木亜紀子さん。
さすがとしか言いようがありません。
原作のエッセンスを抽出して、映画として再構築する手腕が神がかっています。
そして山下敦弘監督の演出もニクイ。
カラオケ大会のシーンで、他の組員たちが歌う『残酷な天使のテーゼ』や『マツケンサンバ』の下手さ加減。
それを無表情で審査する組長(北村一輝)。
この「気まずい空気」を、余計なBGMや説明セリフを入れずに、ただ長回しで見せる。
「ここが笑いどころですよ」
とテロップで押し付けられるのではなく、観客が自ら空気を感じ取って「なんだこの地獄はw」とツッコミを入れる。
観客を信頼しているからこそできる、高度な演出です。
ラスト、聡実くんが変声期の喉を振り絞って歌う『紅』。
それまでのコメディパートが全て「フリ」になっていて、一気に感情が爆発します。
笑っていたはずなのに、気づけば息子の授業参観を見ているような気持ちで号泣している。
感情のジェットコースターに振り回されたい方、必見です。
スポンサーリンク
第3位:『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ (2021年〜)Z世代のリアルな叫び。「殺し屋」だって、公共料金は払わなきゃいけない

作品データ
- 監督・脚本: 阪元裕吾
- 出演: 髙石あかり、伊澤彩織 ほか
- 公開: 2021年(1作目)、2023年(2ベイビー)、2024年(ナイスデイズ)
- キーワード: 社会不適合、ルームシェア、本格アクション、ていねいな暮らし(への憧れ)
コンセプトの勝利:日常と非日常のミルフィーユ
「女子高生殺し屋」という設定自体は、アニメや漫画で手垢がついたものです。
でも、この映画が画期的だったのは、彼女たちの悩みが徹底して「地味」で「リアル」だったこと。
主人公のちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)は、殺しの腕は超一流。
でも、社会人としてのスキルは壊滅的です。
組織から「表向きの社会人として生活すること」を命じられ、バイトの面接に行けばうまく笑えずに落とされ、公共料金の振込を忘れ、部屋の片付けで喧嘩する。
「殺し屋」という仕事と、「生活」という現実。
この二つを完全に別の
「メンタル・アカウンティング(心の家計簿)」
で管理している感じが、今の若い子たち(そして私たち大人も)の感覚にすごく近いんです。
仕事はちゃんとやるけど、それ以外の面倒くさいことは全部パスしたい。
その究極形がここにあります。
ここで腹筋崩壊:ダラダラ会話からの超速アクション
この映画の魅力は、なんといっても「緩急」です。
日常パートでは、本当に台本があるのか疑いたくなるような、ゆる~い会話が延々と続きます。
「てかさー、今日晩ごはん何?」
「えー、なんでもいいよ」
「じゃあコロッケ」
「えー、揚げんのめんどい」
私の家でも昨日まったく同じ会話をしましたよ。
この「生産性ゼロ」の会話劇。これが観客の脳のスイッチを完全にオフにします。
ところが、次の瞬間。
伊澤彩織さん演じるまひろが、襲いかかってくる男たちを秒殺するんです。
伊澤さんは本職のスタントパフォーマー。
その動きは日本映画のレベルを超えています。
さっきまで「コロッケめんどい」と言っていた子が、関節を極め、ナイフを捌き、銃をぶっ放す。
この「コントラスト効果」が強烈すぎて、脳がバグります。
「強すぎるだろ!」とツッコミながら、あまりの爽快感にドーパミンがドバドバ出る。
アクション映画のカタルシスと、日常系コメディの癒やしが同時に襲ってくる、唯一無二の体験です。
鬼の分析:「現状維持」でいいじゃない
この映画が多くの人の心を掴んで離さないのは、
「現状維持バイアス(変化を嫌う心理)」
を全肯定してくれるからだと思います。
普通の映画なら、ダメな主人公が成長して、立派な社会人になる過程を描きますよね。
でも、この二人は成長しません。
社会に適合しようとして失敗し、結局「ま、今のままでいっか」と開き直る。
「何者かにならなきゃいけない」
「成長しなきゃいけない」
そんなプレッシャーに押しつぶされそうな現代人にとって、彼女たちの「諦め」に近い現状肯定は、どんな自己啓発本よりも効く精神安定剤なんです。
シリーズを重ねるごとに、彼女たちの関係性は深まり、アクションの規模も大きくなっています。
でも、根本にある
「働きたくない」
「美味しいもの食べたい」
という欲求は変わらない。
だからこそ、私たちは安心して彼女たちの物語に帰ってこられるんです。
実家に帰ったときのような安心感が、そこにはあります。
スポンサーリンク
第2位:『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』 (2023年)ディスりは愛の裏返し。分断社会を繋ぐ「自虐」という最強の武器

作品データ
- 監督: 武内英樹
- 脚本: 徳永友一
- 出演: GACKT、二階堂ふみ、杏、片岡愛之助 ほか
- 公開: 2023年
- キーワード: 埼玉、滋賀、地域格差、とび出しとび太
なぜ、人は「悪口」で笑うのか
2019年に社会現象になった前作の続編。
今回は関東を飛び出し、関西を舞台に「滋賀県」などを巻き込んだ壮大なディスり合戦が繰り広げられます。
現代社会において、特定の属性をいじること、いわゆる差別や偏見はタブーです。
でも、この映画はあえてそこに踏み込むことで、逆説的に地域の連帯感を生み出しています。
これは社会心理学でいう
「内集団バイアス」
を逆手に取ったものです。
人は自分の所属する集団(内集団)を優遇し、他(外集団)を差別しがち。
でも、その「差別される要素」を極端に誇張して「ネタ」にしてしまうことで、攻撃性を無効化しているんです。
これを「フレーミング効果」と言います。
「滋賀には何もない」というネガティブな事実を、「滋賀こそが水を止める権利を持つ最強の県」というフレームに書き換えることで、劣等感を誇りに変えてしまったわけです。
ストーリーの核心:琵琶湖の水、止めたろか!
物語は、埼玉解放戦線の麻実麗(GACKT)が、日本埼玉化計画の一環として関西へ向かうところから始まります。
そこで彼が見たのは、大阪府知事(片岡愛之助)によって虐げられる滋賀、和歌山、奈良の県民たち。
滋賀県民は「ゲジゲジ」と罵られ、和歌山県民は秘境で行方不明になり、奈良県民は鹿と共生している。
このステレオタイプ全開の設定、関西出身の友人に聞いたら
「あながち間違ってないのが悔しい」
と言っていました。
ここで腹筋崩壊:豪華キャストの「本気の茶番」
この映画の面白さは、GACKTさんや片岡愛之助さん、二階堂ふみさん、杏さんといったトップスターたちが、誰一人としてふざけていないことです。
全員が大真面目に、シェイクスピア劇のようなテンションで「埼玉」や「滋賀」の話をしている。
特に片岡愛之助さんの大阪府知事は圧巻。
コテコテの大阪弁と歌舞伎の見得を切るような動きで他県を罵倒する姿は、伝統芸能の無駄遣い(褒め言葉)です。
そしてクライマックスの「琵琶湖の水門」を巡る攻防。
滋賀県民の伝家の宝刀「琵琶湖の水、止めたろか!」が、物理的な攻撃手段として映像化されるシーンでは、劇場のあちこちから「嘘でしょw」という悲鳴交じりの爆笑が起こりました。
無駄に壮大な音楽、無駄に多いエキストラ、無駄に高いCGクオリティ。
制作陣がこの「茶番」にかけた
「サンクコスト(埋没費用)」
が可視化されることで、観客は「ここまでやるなら笑うしかない」とひれ伏すのです。
長崎出身の私としては、「九州編」もぜひやってほしい。
他県の人には通じないローカルな自虐ネタで笑い合うことって、実はすごく高度なコミュニケーションなんですよね。
スポンサーリンク
第1位:『今日から俺は!!劇場版』 (2020年)思考停止こそが最高の贅沢。昭和のヤンキーが令和の憂鬱をぶっ飛ばす

作品データ
- 監督・脚本: 福田雄一
- 出演: 賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀 ほか
- 公開: 2020年7月
- キーワード: 80年代、ツッパリ、顔芸、アドリブ
なぜ、1位なのか?
2020年代コメディのベスト1位。
いろいろ悩みましたが、やっぱりこの作品を外すわけにはいきません。
公開されたのは2020年7月。
コロナ禍の第一波が明け、映画館がようやく再開した直後でした。
世の中全体が自粛ムードで、正解のない不安に押しつぶされそうになっていた時期。
そんな時に現れたこの映画は、観客動員390万人、興行収入53.7億円という驚異的な数字を叩き出しました。
理屈じゃありません。
みんな、ただただ「バカみたいに笑いたかった」んです。
この映画が提供したのは、行動経済学でいう「認知的容易性(Cognitive Ease)」です。
人間は、疲れている時や不安な時、複雑な情報を処理できません。
わかりやすい善悪、予想通りの展開、馴染みのある役者たち。
これらは脳に負荷をかけず、快楽だけを与えてくれます。
難しい考察なんて要らない。
ただ座っていれば笑わせてくれる。
当時の私たちにとって、それは高級フレンチよりも価値のある「脳の流動食」だったんです。
ストーリーの核心:卑怯は正義
原作は80年代の伝説的ヤンキー漫画。
金髪パーマの三橋貴志(賀来賢人)と、トゲトゲ頭の伊藤真司(伊藤健太郎)の最強コンビが、隣町から来た極悪高校と揉める話です。
でも、ストーリーなんてあってないようなもの。
重要なのは、主人公の三橋が「卑怯」であることです。
彼は正々堂々となんて戦いません。
目潰し、不意打ち、嘘泣き。
勝つためなら何でもやる。
これ、実はすごく
「合理的経済人(ホモ・エコノミクス)」
の振る舞いなんですよね。
無駄に傷つくリスクを避けて、最小のコストで勝利という利益を得る。
道徳的にはアウトですが、生存戦略としては正しい。
現代社会のルールに縛られた私たちにとって、彼の自由すぎる振る舞いは、ある種の憧れ(エージェンシー)として映ります。
ここで腹筋崩壊:予定調和という安心感
福田雄一監督作品、いわゆる「福田組」の特徴であるアドリブと顔芸。
これが本作でも炸裂しています。
賀来賢人さんの、人体の構造を無視したような奇妙な動き。
橋本環奈さんの、1000年に一人の美少女とは思えない白目変顔。
そして、仲野太賀さん演じるライバル・今井の不憫すぎる扱い。
これらは全て「お約束」です。
「ここで変顔くるぞ……キター!」
という、予測通りに予測通りのことが起きる快感。
これは
「単純接触効果」
の応用でもあり、繰り返されることで親近感と好意が増幅していきます。
特に今井が、三橋の罠にハマって廃ビルでひどい目に遭うシーン。
あまりにも理不尽で可哀想なんですが、仲野太賀さんの哀愁漂う表情が絶妙すぎて、同情よりも先に笑いが込み上げてくる。
「他人の不幸は蜜の味」なんて言いますが、フィクションの中での安全な
「シャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ感情)」
は、ストレス解消に最適なんです。
時代の空気を変えた一作
この映画には、社会的なメッセージも、高尚なテーマもありません。
でも、だからこそ救われたんです。
マスクをして、距離を取って、息を潜めていた私たちに、「でっかい声で笑っていいんだよ」と教えてくれた。
映画館を出た後、久しぶりに空が青く見えたことを覚えています。
思考を停止させて、ただ笑う。
それがどれほど贅沢で、必要なことだったか。
この映画はその事実を歴史に刻み込みました。
スポンサーリンク
コラム人生のスパイスになる、惜しくもランク外の傑作たち

ベスト5には入りきりませんでしたが、私のライターとしてのプライドにかけて「これも観て!」と言いたい作品を少しだけ紹介させてください。
これは
「機会費用(それを選ばなかったことで失う利益)」
を最小化するための、私からのおせっかいなアドバイスです。
『新解釈・三國志』 (2020年)
同じく福田雄一監督作。
大泉洋さんが劉備を演じているんですが、もう完全に「大泉洋」そのもの。
ずっとボヤいてます。
歴史の教科書に出てくる英雄たちを、私たちの目線の高さまで引きずり下ろす「権威勾配」のフラット化。
歴史ファンからは怒られましたが、私は渡辺直美さんのダンスシーンだけで元が取れたと思いました。
何も考えずに観られる、最高の時間泥棒です。
『ウェディング・ハイ』 (2022年)
バカリズム脚本の真骨頂。
結婚式という「絶対に失敗できない場」で、参列者たちのエゴがぶつかり合う群像劇です。
前半に撒かれた無数の伏線が、後半で怒涛のように回収されていく快感。
パズルがパチパチとはまっていくような知的興奮(アハ体験)を味わいたいならこれです。
結婚式というイベントの裏側にあるカオス、既婚者なら「あるある」と頷きすぎて首が痛くなるはず。
『地獄の花園』 (2021年)
OLの派閥争いを、ヤンキー漫画の物理的な暴力で描くという怪作。
永野芽郁さんが特攻服で暴れ回ります。
これ、会社という組織の「マウンティング」や「同調圧力」を可視化したものなんですよね。
見えないストレスを見える暴力に変換して発散させる。
働く女性の必修科目にしたいくらいです。
帰りの電車で上司の顔を思い浮かべながら観ると、効果倍増ですよ。
『コンフィデンスマンJP 英雄編』 (2022年)
長澤まさみさん主演の詐欺師映画第3弾。
このシリーズの醍醐味は、観客が「騙されたがっている」ことです。
私たちは、自分の予想が裏切られる瞬間の快感にお金を払っている。
「確証バイアス」
を逆手に取ったトリックに、まんまと引っかかる幸せ。
マルタ島の美しい景色も相まって、旅行気分も味わえます。
日常を忘れるには最高の舞台装置です。
スポンサーリンク
結論笑いは、不確実な時代を生き抜くための「武器」だ
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
もしあなたが、「最近、心から笑ってないな」と感じているなら。
それは脳が「省エネモード」に入って、感情の動きを制限しているサインかもしれません。
危険信号です。
行動経済学的に見れば、コメディ映画を観るという行為は一見非合理です。
2時間拘束され、安くない料金を払い、何かを学ぶわけでもない。
でも、その「無駄」こそが、効率化と最適化に追い詰められた現代人の脳が必要としているバッファ(緩衝材)なんです。
- 『侍タイムスリッパー』で、自分の価値観をリセットする。
- 『カラオケ行こ!』で、肩書きや権威を笑い飛ばす。
- 『ベイビーわるきゅーれ』で、ダメな自分を肯定する。
- 『翔んで埼玉』で、コンプレックスを愛する。
- 『今日から俺は!!』で、頭を空っぽにする。
これらは単なる現実逃避ではありません。
凝り固まった脳のバイアスを揺さぶり、再起動させるためのメンテナンスです。
いわば、心のサウナみたいなもの。
さあ、今度の週末は映画館に行きませんか?
あるいは、配信サービスでポチッとするだけでもいい。
ポップコーンとコーラ(ビールでも可!)を用意して、部屋を暗くして。
腹筋が崩壊するほど笑った後、あなたの明日が少しだけ、軽やかになっていることを約束します。
さて、私もそろそろ夕飯の支度に戻らなきゃ。
今日は豚バラともやし炒め。
手抜き?
いえいえ、これもまた、我が家の平和を守るための「合理的選択」であり「生存戦略」ですからね。
