小戸川のタクシーに残ったドライブレコーダーの記録を、警官もアイドルのマネージャーも欲しがっています。客を目的地へ送っただけなのに、運転手まで命を狙われる。迎車料金で済む仕事量を、とっくに超えていますよね。
『オッドタクシー』は、2021年に放送された全13話のTVアニメです。
※三矢ユキ殺害の犯人と、最終回の結末までのネタバレがあります。
三矢ユキを殺したのは誰?二階堂の殺意と和田垣の犯行

三矢ユキを殺した真犯人は、和田垣さくらです。いつも唐揚げの話をしていた、あの少女なんです。
センター交代の話で、二階堂は追い詰められた
ミステリーキッスは、二階堂ルイ、市村しほ、三矢ユキの3人で出発しました。二階堂は自分が一番であることに強くこだわり、センターとして売れる日を目指していました。
ところが、デビューを前にプロデューサーが評価したのは、歌やダンスに秀でた三矢です。三矢をセンターにする方針が出たことで、二階堂の焦りは殺意にまで膨らみます。
二階堂は三矢を事務所に呼び出しました。そこで彼女が対面したのは、すでに殺されていた三矢だったのです。
この食い違いが、事件をややこしくしました。呼び出した本人に殺す気があったうえ、あとから遺体を隠す側にも回る。二階堂の告白には、殺人の実行と取り違えそうになるほどの後ろめたさがあります。
山本が守ろうとしたグループは、ヤノに握られた
マネージャーの山本は、ミステリーキッスの売り出しに執念を燃やしていました。三矢の死を前に、山本と二階堂は警察への通報より、事件を隠す方へ進んでしまいます。
山本が頼ったのは犯罪組織のヤノと関口です。彼らを交えた遺体の処理・遺棄によって、少女の死は失踪として隠され、事務所はヤノたちに弱みを握られました。
二階堂には殺意と遺体隠蔽への関与があり、山本たちも遺棄に関わっています。殺害を実行した人物の判明で、この人たちの罪まで消えるわけではありません。
オーディション4番手の和田垣は、空いた席に収まる
和田垣はオーディションで4番手となり、3人のメンバーに届かなかった少女でした。グループのCDデビューを知ると、そのまま成功していくことを受け入れられず、三矢の殺害に及びます。
メンバーを失った山本は、三矢と容姿の似た和田垣を代役として迎えました。殺人によって、落選していた少女に加入の話が回ってきたのです。
活動名は三矢ユキのまま。二階堂以外の2人が仮面を着ける売り出し方も、入れ替わりを隠す仕掛けでした。デビューという祝い事の裏で、被害者の名前まで使われ続けていたんですね。
なぜ小戸川まで狙われる?乗客たちがつながる理由
事件当日の乗客は和田垣だった
10月4日、小戸川が事務所へ送った少女は和田垣でした。山本はタクシーの乗客を三矢だと思い、事務所に来た足取りが警察に知られることを恐れます。
一方、ドブも失踪事件を探っていました。組織の上にいる黒田から少女の行方を追うよう命じられ、対立するヤノの動きにも目を光らせています。小戸川が持つ乗客の記憶と映像は、双方にとって放っておけないものになりました。
小戸川は、普段から客の特徴をよく覚えています。後半、発見された遺体が三矢だと報じられた際にも、自分が乗せた少女との違いに気づきました。小戸川の記憶には、事務所側の説明を崩す力があるんです。
白川の借金と柿花の恋が、小戸川を動かす
剛力の医院で働く看護師・白川は、ドブへの借金返済のため、医院から薬を持ち出して流していました。小戸川に近づいたのも、当初はドブの指示です。親しくなりかけた相手の裏事情を知り、小戸川は彼女を突き放しました。
それでも、ドブとの交渉では白川の借金を帳消しにし、解放することを協力の条件にします。腹は立っている。それでも放っておけない。この不器用さが小戸川なんですよね。
友人の柿花も、ミステリーキッスを通じて犯罪組織に捕まります。マッチングアプリで収入などを盛った柿花は、市村との交際に舞い上がり、金を借りてまで見栄を張っていました。市村は山本らに指示され、男性から金を巻き上げる役を担っていたのです。
金持ちと思われた柿花はヤノたちに監禁され、小戸川はドブを巻き込んで倉庫から救い出しました。脅されて協力しているだけの運転手から、身近な人を助けるために相手の計画を利用する人へ。小戸川の行動が大きく変わる場面です。
山本にヤノを裏切るよう持ちかけた際には、逆に首を絞められます。この危機を救ったのが、カポエイラで山本を蹴り飛ばした白川でした。公園で聞いた趣味の話が、ずいぶん物騒な実演になったものです。
樺沢はバズを追い、ドブ本人に追い詰められる
大学生の樺沢は、小戸川と撮った自撮り写真の背景にドブが写り込んだことで注目を集めました。その勢いでドブの追及を始めます。
しかし、港で本人と向き合うと、樺沢の威勢はしぼみました。ドブに屈して発信をやめ、のちには就職活動へ戻ります。犯人探しで有名になりたいという軽さが、実際の暴力にぶつかってしまったんですね。
田中はなぜ小戸川を撃とうとした?消しゴムから続く執着

田中の恨みの始まりは、子どものころの消しゴム集めでした。周囲に認められたくて、落語家・呑楽の珍しい消しゴムをネットオークションで落札します。代金10万円を払ったのに、品物は届きませんでした。
大人になると、田中はスマホゲーム『ズーデン』にのめり込みます。大金をつぎ込み、ようやくレアなドードーを引き当てた直後、小戸川のタクシーを避けようとしてスマホを溝に落としました。手に入れたばかりのデータまで失い、田中は小戸川を恨むようになります。
さらに、飼っていたインコが死に、埋葬しようと土を掘ったところ、ドブが隠していた拳銃を発見。田中はこれを復讐への巡り合わせと受け取り、小戸川を追い始めたのでした。
小戸川が連れていかれたキャバクラへの乱入、自宅への発砲、車での追跡へと、田中の行動は激しくなります。田中が追っているのは、ゲームの喪失を小戸川のせいだとする私怨です。失踪事件とは違う動機の襲撃が、同じタクシーに集中していたんですね。
認められたい、今度こそ手に入れたい。田中の気持ちには身近な部分もあって、だから銃を持つところまで進んだ姿がつらいです。消しゴムやガチャの小さな画面から、他人の命を狙うところまで来てしまいました。
10億円強奪はどうなった?ドブの計画と小戸川の逆襲
ヤノが奪う金を、ドブがさらに横取りする
ミステリーキッスのファン・今井は、小戸川から聞いた数字で宝くじを買い、10億円を当てます。当選をSNSに載せたことで、今井の金にヤノたちが目をつけました。
ドブはこの横取りを、さらに横から奪う作戦を組みます。買収した銀行員を使い、ヤノ側に渡す10個のケースのうち9個を偽札にすり替え、本物の9億円を別に確保。残る本物の1億円は、ヤノたちの車に積まれます。
そこへドブと組んだ警官の大門兄が検問を仕掛け、足止めと混乱を起こしました。その隙にドブが1億円を積んだ車を奪う。これが「オッドタクシー」と名づけた作戦です。
小戸川は今井と連絡を取り、金を本人に返しながらドブやヤノを捕まえさせるつもりでした。自分のタクシーに仕込まれていた追跡装置も、ドブの9億円を積んだ車へ移します。自分を追う田中まで、計画の中に引き込んだんです。
第12話でドブを撃つ田中。弾が残っていた理由は?
駐車場で田中と向き合った小戸川は、タクシーの件を謝ります。頭を下げた拍子に、胸ポケットから呑楽の消しゴムが落ちました。白川から小戸川へ渡った品物で、元をたどるとドブの持ち物です。
この消しゴムをきっかけに、オークションで田中をだました相手「ditch-11」がドブだったことまで明らかになります。小戸川への怒りの前に、昔からの恨みの相手が現れたのでした。
ドブは田中の拳銃が弾切れだと考え、余裕を見せます。ところが、銃には一発が残っていて、田中はドブの腹を撃ちました。港で先にドブの脚を撃ったのは大門弟で、ドブはそれを田中の発砲として数えていたのです。
10億円の強奪を組み立てた男が、昔の消しゴムと一発の数え違いで倒れる。こんなところで文房具の存在感を思い知るとは! 田中自身も発砲に動揺し、逃げ去ります。
大門弟は兄の不正を知り、小戸川は追われる
偽札に気づいたヤノと関口は、大門兄とドブのつながりを見抜きました。兄は襲われ、パトカーを奪われます。
弟は兄がドブに協力していたと知り、涙を流しました。
ドブが倒れたあと、小戸川は9億円を今井に戻そうとします。しかしヤノたちが現れ、残る1億円を載せたタクシーで逃走することになりました。追い詰められた末、小戸川は途切れた道路から車ごと海へ飛び込みます。
宙を舞う車から札束が散り、その光景を、街にいる乗客や知人たちが見上げる。ここでそれぞれの小さな欲や後悔が、一つの派手な出来事に集まってきます。
最終回で人間に見えるのはなぜ?小戸川の過去と生還
動物の姿は、小戸川が認識していた人々の姿
海へ沈んだ小戸川を助けたのは白川です。意識を取り戻した小戸川の目には、剛力も白川も人間の姿で見えました。
登場人物たちはもともと人間で、小戸川には周囲の人や自分が動物に見えていました。セイウチの運転手やゴリラの医師として見てきた姿は、彼の認知を通した景色だったんです。
剛力が調べた小戸川の過去には、いじめや家庭でのつらい生活がありました。人を怖がる小戸川にとって、動物図鑑や動物園は安らげる場所です。
母親は、父親と小戸川を乗せた車を海へ走らせ、無理心中を図りました。両親は亡くなり、小戸川だけが生き残ります。事故後から人が動物に見えるようになった経緯が、作中では「視覚失認」という設定と結びついています。
動物の姿には、人を怖がる小戸川が他人と接しやすくなる面もありました。そんな彼を、人間の姿の友人たちが囲んでいる。私はこの変化に、ずっと守ってもらいたかった子ども時代まで救われるような気持ちになりました。
押し入れの住人は、本物の黒猫だった
帰宅した小戸川が確かめた押し入れには、本物の黒猫がいました。それまで家で話しかけていた相手です。
小戸川には人も動物に見えていたので、自宅にいる猫についても、人間かもしれないという心配がありました。人を人として見られるようになってからも、その姿は猫のまま。ここで彼はほっと息をつけるのです。
今井のお礼は黒田へ。周りの人も生活へ戻る
今井は、タクシーに残っていた1億円を小戸川へお礼として渡しました。小戸川がその金を持って向かったのは、黒田のいるサウナです。
黒田は犯罪組織を率いる一方、親を失った子どもたちを支える活動に関わっていました。小戸川もその支援で暮らしてきた一人だったのです。小戸川は世話になった礼を伝え、1億円を黒田へ渡します。
事件のあと、二階堂は殺人などの容疑で逮捕され、山本、ヤノ、関口も遺体遺棄への関与で逮捕されました。ドブは生き延び、入院先で大門弟と話し、その後は身柄を拘束されます。
田中は『ズーデン』を削除し、会社での生活へ。柿花は工事現場でも働きながら借金を返します。
解散寸前だった芸人コンビ・ホモサピエンスの柴垣と馬場も、2人で漫才を続けることを選びました。こんな普通の暮らしに戻るまでが、ずいぶん長かったですね。
最後の和田垣の笑顔は何を意味する?口封じの危うさ

終盤、母親との電話で和田垣が喜ぶのは、二階堂の逮捕で自分が目立つ機会を得たことです。さらにメンバーを減らしてソロになることまで口にします。夢をかなえるための犠牲を、こんなに軽く話せてしまうんですね。
そして、事件の日に乗ったタクシーを探していた和田垣は、小戸川の車を見つけます。普段どおり客を迎える小戸川に、彼女が笑顔を向けたところがTV版の最後です。
考察:証言できる小戸川を消したい、と読む理由
和田垣にとって、小戸川は自分の当日の移動を覚えている運転手です。彼女は三矢の名で活動する立場を得たあとも、夢のためなら他人を排除する発想を口にしています。その直後に目撃者を探し当てるため、私はこの乗車を、口封じを狙った接近と読みます。
TV版の終点は、殺人犯と重要な証言者が同じ車内にいる瞬間です。その先の勝敗は、開かれた結末として残ります。
視聴者は乗客の危険さを知っているのに、小戸川は営業中の顔で迎えている。この知っていることの差が、最後の笑顔を恐ろしくするんですよね。やっと安心して見送れると思ったところで、後部座席が気になって仕方なくなりました。
あの会話の調子をもう一度。公式ティザーPV
TVアニメ『オッドタクシー』の公式ティザーPVです。
文章で事件を追ったあとだと、小戸川のぼそっとした返しや会話の間にも耳が向きます。早口で事情を説明してくれそうにない運転手と、どうにも一筋縄でいかない客たち。この温度のまま物騒な話へ進むところに、何度でも引き寄せられますね。
FAQ
失踪した三矢ユキの父親は誰ですか?
落語家の笑風亭呑楽です。呑楽と黒田は旧知の仲で、娘の捜索を頼んだことが、組織が動く背景にあります。
最終話のタイトルと放送日は?
第13話のタイトルは「どちらまで?」でした。テレビ東京の放送日表記は2021年6月28日深夜で、暦日では6月29日に当たります。
原作は漫画ですか?
企画・原作をP.I.C.S.、脚本を此元和津也が担うオリジナルアニメです。肋家竹一による漫画は、アニメのコミカライズに当たります。
まとめ
『オッドタクシー』の面白さは、話している本人にも、自分の何げない言葉の重さが分かっていないところにあります。おしゃべりを聞いて笑っていた時間ごと、ぞっとする記憶に変わる。私はこの、笑ったあとに居心地が悪くなる感じが好きでした。
誰もが自分の事情を抱えて乗ってくるタクシー。小戸川のぶっきらぼうな相づちが、妙に恋しくなる作品です。