池から見つかった、一本の赤いボールペン。『最愛』を観ると、ただの記念品の持ち主があそこまで気になるんですよね。机のペン立てまで疑いたくなる勢いです。
『最愛』は、2021年にTBSで放送され、12月17日の第10話で完結した連続ドラマです。
最終回までのネタバレがあります。性暴力や殺人に関する内容を含みます。
『最愛』で起きた三つの死

渡辺昭を殺した真犯人は、梨央を支えてきた弁護士の加瀬賢一郎です。井浦新さん演じる、あの頼れる加瀬さんでした。
| 亡くなった人物 | 実行者・関与者 | 最終的な真相 |
|---|---|---|
| 渡辺康介 | 刺したのは朝宮優 | 梨央を守ろうとして刺す。達雄と加瀬が遺体を遺棄 |
| 渡辺昭 | 加瀬賢一郎 | 優との争いの後、加瀬に池へ沈められる |
| 橘しおり | 加瀬との交渉中に転落 | 記事の公表をめぐってもみ合い、非常階段から落下 |
なぜ、法で人を守る仕事の加瀬が、ここまで踏み込んだのか。発端は、梨央と優の父・達雄が頭を下げた、2006年の夜にありました。
2006年の事件――優が姉を守り、達雄が加瀬に託すまで
薬学部を目指す梨央と、駅伝を走る大輝
岐阜で暮らす朝宮梨央は、東京の大学の薬学部を目指す高校3年生。父・達雄は白山大学陸上部の男子寮で働き、梨央も弟の優を世話しながら寮生たちと日々を過ごしていました。
梨央と陸上部の宮崎大輝は、お互いに好意を抱いています。大輝は梨央の推薦入試が終わったら告白するつもりで、梨央は彼の走る駅伝を応援する。先の楽しみが、ちゃんとある二人だったんですよね。
優には、幼い頃の事故の後遺症で、記憶の一部が抜け落ちる障害があります。弟を治す薬を作りたい。それが、梨央が薬学部を目指す理由でした。
2006年の刺傷事件と父の告白動画
達雄が寮を留守にした夜、渡辺康介が梨央を襲います。姉を助けようとした優は、康介の腹をテント用のペグで刺してしまいました。
混乱した優から電話を受けた達雄は、急いで寮へ戻ります。そのとき一緒にいたのが、梨央の母・真田梓の用件で達雄に会っていた加瀬だったんです。
現場を見た加瀬は、警察へ連絡しようとします。ところが達雄は、子どもたちが世間から責められ、将来を奪われることを恐れて、隠してほしいと懇願しました。
加瀬が康介の遺体遺棄に加わったのは、達雄から姉弟の将来を守ってほしいと頼まれたためです。二人は遺体を山へ運び、事件の痕跡を隠します。
達雄はその後に亡くなり、梨央は梓に引き取られて東京へ。残された携帯電話の動画から、梨央は優が康介を刺したことを知りました。
さらに、後に梨央と優が見つける父の告白動画では、達雄が自分の犯行だと語っています。実際の刺傷と父の告白が食い違うのは、達雄が優の罪まで背負おうとしたからでした。
子どもを守りたい。その願いを受け取った加瀬は、真田家の弁護士として、梨央の生活と仕事を長く支えていくことになります。
2021年、優はなぜ昭殺害を認めた?記録動画と二つの池

梨央と大輝は、重要参考人と刑事として再会する
15年後、梨央は「真田ウェルネス」の社長となり、創薬事業を進めています。失踪していた康介の遺体が見つかり、その行方を追ってきた父・昭も殺害されました。
事件を捜査する刑事になっていたのが大輝です。昔は入試後の告白を待っていた二人が、今度は事情を聞く側と聞かれる側として向き合う。再会の場所としては、あまりにしんどいですよね。
それでも、馴染みの鉄板焼き店で話すと、昔の距離感が少し戻ります。ただ、梨央には弟の秘密があり、大輝には捜査する立場がある。その間に立つ加瀬は、梨央が一人で警察と会うことを心配していました。
いざというときは警察対応まで任せられる。こちらまで、加瀬さんの連絡先が欲しくなる頼もしさです。
失踪した弟は、後藤の情報屋になっていた
優は15歳で梨央の前から姿を消し、9年間離れて暮らしていました。現在、真田ウェルネスの専務・後藤信介のもとで動く情報屋「生田誠」が、成長した優です。
再会した優は、携帯電話の記録を見せ、自分の罪を梨央に打ち明けます。康介の件に加え、昭の命も自分が奪ったと思い込んでいたんです。
公園で昭と争い、首を絞めて池へ落とした様子は、優のイヤホン型カメラに残っていました。記憶が途切れる優にとって、その動画は自分の行動を知る重い手がかりになっていたのでした。
梨央と優は故郷へ向かい、達雄の告白に触れます。その後、優は警察へ連行され、加瀬が弁護に当たりました。
昭は池から上がっていた――優は不起訴になる
加瀬は動画の解析を依頼し、大輝たちも現場の聞き込みを進めます。そこで浮かんだのが、公園に二つある池の食い違いです。
優が昭を落とした池と、遺体が見つかった池は別の池でした。さらに、ずぶ濡れの昭が池から上がり、歩いていたという目撃証言が得られます。
昭は優と別れた後も生きており、優は不起訴で釈放されます。姉弟は一緒に暮らし始め、優は新薬の治験を受けると決めました。
ここで、優の弁護をしていた加瀬自身が、昭の死の真相を抱えていたことになります。初見では頼もしさに救われた場面ほど、最終回の後には胸がざわつくんですよね。
昭の殺害としおりの転落の経緯
昭は康介の性暴力を正当化し、加瀬の怒りを招く
昭がいる公園へ、梨央を気にかけた加瀬も駆けつけていました。そこで昭は、康介を死なせたのが梨央の弟だと口にします。
加瀬は、康介の行為によって梨央たちの人生が壊れたことを訴えます。それに対し昭は、息子の性暴力を軽く扱い、被害を受けた女性たちの側に責任を押しつけました。
その言葉に怒った加瀬は、昭を池に落とし、水中へ押さえつけます。息子を探し続けてきた父親を殺すという行動へ、加瀬が自ら踏み込んだ瞬間でした。
昭の発言には、観ているこちらも腹が立ちます。ただ、その怒りと、加瀬が命を奪った重さは、どちらも残るんです。
しおりも康介の被害者で、梨央への複雑な思いを抱えていた
フリーライターの橘しおりは、大学時代には「松村栞」という名前でした。白山大学との合同合宿に参加し、康介から性暴力の被害を受けています。
当時、しおりは梨央に助けを求めようとしていましたが、梨央はその危機に気づけませんでした。事件後も苦しんできたしおりの目には、注目を集める社長となった梨央の姿が、不公平なものとして映っていたんです。
しおりは真田グループの不正を追い、後藤が関わる寄付金詐欺へ近づきます。追及の先には、梨央の家族と15年前の事件もありました。
記事を止めようとした交渉が、非常階段でのもみ合いになる
加瀬はしおりに会い、新薬が承認されるまで記事の公表を待ってほしいと頼みます。しおりは拒み、二人は記事の原稿をめぐって争いました。
しおりの死は、加瀬とのもみ合いの中で起きた非常階段からの転落です。
真田家の経営はどうなる?梓の出頭と梨央の社長退任

会社では、後藤による寄付金詐欺が表面化します。梓は記者会見で責任を引き受け、梨央の関与を否定したうえで警察へ出頭しました。
梨央は、創業家が経営から退くことで会社の信用を回復する道を選びます。兄の政信を説得し、自らも社長を辞め、一社員として研究を続けることになりました。
肩書がなくなっても、弟のために薬を作るという目標は続く。社長室までたどり着いた梨央が、自分のやりたかった仕事を選び直す場面でもあるんです。
梓は詐欺罪で起訴され、後藤は面会の席で、自分のしたことを告白する意思を伝えます。守られるまま秘密を抱えて生きることに、後藤も耐えきれなくなっていました。
しおりの転落死は事件性がないと判断され、捜査が打ち切られます。昭の事件も行き詰まります。会社の不正が明るみに出ても、加瀬へたどり着く捜査は、まだ続いていたのでした。
最終回の決め手は死亡推定時刻。加瀬はなぜ姿を消した?

藤井が追った協力者と、しおりの薬から崩れるアリバイ
富山県警の藤井隼人が気にしていたのは、達雄の遺体遺棄を手伝った人物でした。元マネージャーの青木は、事件の夜に達雄が誰かと話していたと証言します。
藤井から疑いを向けられた大輝は、はっきりと関与を否定しました。
2022年冬、捜査一課に復帰した大輝は、しおりの母と出会います。母との会話から、しおりが服用していた薬を調べ直し、副作用による発熱が死亡推定時刻に影響していたと突き止めました。
時刻がずれると、それまで成立していたアリバイも変わります。新たな時間帯にアリバイを失ったのが加瀬でした。
新薬承認の日、大輝は加瀬を追い、梨央は喜びに包まれる
大輝は加瀬へ電話をかけ、過去の遺体遺棄と、昭・しおりの件を追及します。加瀬はショッピングモールにいて、大輝は通話を続けながら追跡していました。
そこで加瀬のもとへ届くのが、梨央からの新薬承認の知らせです。長く支えてきた梨央の願いが実ったと知り、加瀬は安堵します。
大輝に理由を問われた加瀬の答えは、「法律では守れないものがあるからです」でした。
加瀬は、梨央と優に穏やかな人生を送ってほしいと願い、ようやく得た幸せを壊さないでほしいと大輝に託しました。そして警察の追跡をかわし、姉弟の前からも姿を消します。
私は、加瀬が自分の関与によって梨央たちが傷つくことまで避けようとした、と受け取りました。身の回りのことまで気にかけていた人が、最後には自分自身を遠ざける。その不器用さに、やりきれなくなります。
一方の大輝には、梨央から喜びの電話がかかってきました。幸せだと話す梨央の声を聞き、大輝は涙を流します。同じ承認の知らせを、こんな違う気持ちで受け取るなんて。
優は、これからの日々を覚えていける
終盤、優は薬について尋ねられ、失った昔の記憶は戻らなくても、これからのことは覚えておけると答えます。過去を取り戻すことより、未来を過ごす喜びが感じられる表情でした。
加瀬のような弁護士になりたいという夢も、優にはあります。救ってもらった経験が、自分も誰かを助ける仕事をしたいという願いへつながったんです。
墓参りのラストで、梨央は加瀬のことを察する
最後に梨央と大輝は、達雄の墓へ手を合わせます。梨央は加瀬について薄々察していると話し、大輝は何のことかとはぐらかしました。
二人は手をつなぎ、互いの手の小ささや温かさを言葉にしながら歩きます。ようやく、事件の話をしながらでも一緒に帰れる二人になったんですよね。
私は、この手つなぎを、抱えたものごと一緒に生きていく二人の意思だと感じました。優の治療へつながる薬ができ、梨央の隣には大輝がいる。その明るさの中に、加瀬への思いも残る終わり方です。
結末を考えるとき、しおりの痛みも残る
加瀬の気持ちに近づくほど、私はしおりへの受け止め方も考えてしまいます。取材のしつこさに身構え、梨央へ近づくたびに「また来た」と感じる。その見方で、彼女の痛みまで遠ざけていなかったかと。しおりに対する自分の冷たさにも、はっとする結末でした。
また、梨央の開発した治療薬や優の症状は、物語の設定です。薬の承認という達成が、事件の発覚と同じ日に重なる構成には、本当に容赦がないですよね。
もう一度あの空気を味わうなら、各話のあらすじと主題歌
振り返るときには、『最愛』第1話の公式あらすじと、そこからたどれる各話のページがあります。若い二人の生活から再び始めると、事件前にあった楽しみまで惜しく感じるはずです。
そして、宇多田ヒカルさんの「君に夢中」。イントロを耳にするだけで、登場人物たちの顔が浮かぶ人もいるでしょう。曲だけ聴くつもりが、またドラマのことを考えてしまうんですよね!
『最愛』主題歌、宇多田ヒカル「君に夢中」の公式ミュージックビデオです。
FAQ
池から見つかった赤いペンは、誰が持っていたもの?
ウェルネスホーム設立の記念に梓が作った特注品で、持っていたのは梓、梨央、政信、後藤、加瀬の5人です。限られた人へ贈った品が、真田グループの身近な人物を疑う手がかりになりました。
梨央の手についた血は、誰の血だった?
階段から転落した後藤の血です。梨央が助けようとしたときに手につき、その後の警察による事情聴取へつながります。冒頭の不穏な梨央の姿が、この出来事と結びつく仕掛けでした。
『最愛』には原作小説がある?
奥寺佐渡子さんと清水友佳子さんによるオリジナル脚本のドラマです。放送後の2022年9月16日には、百瀬しのぶさんによるノベライズが発売されました。
まとめ
『最愛』は、味方だと信じていた人の行動を知った後も、その人に助けられた記憶が残るドラマでした。頼れる人だった加瀬と、罪を犯した加瀬が、同じ一人の人間として心に居続けるんです。
誰が犯人か分かった後のほうが、ふとした気遣いの場面を思い出してしまう。そんな厄介な余韻まで、この作品の魅力だと私は思います。