『アス』の結末のネタバレがあります。『アス』はジョーダン・ピール監督の2019年の映画で、原題はUsです。
家族を守ったお母さんを応援していたのに、最後の数分で「あれ、最初の女の子は誰?」となるんですよね。顔が同じなので、名前だけ追うとこんがらがる。しかも家族全員にそっくりさんがいるので、誰が誰なのか一度で追うのは大変です。
結末の答えは、1986年に地下の少女が地上の少女に成り代わり、母アデレードとして暮らしていたということ。地下へ連れ去られた元の少女が、赤いつなぎを着たレッドです。あの日の誘拐から、一家への襲撃も、レッドの復讐もつながっています。
結末の母アデレードは地下生まれ、レッドが元の少女

地上で母親になったアデレードは、地下で生まれた分身です。レッドこそ、冒頭で両親と遊園地へ来た地上の少女でした。
入れ替わったのは、襲撃が起きた夜でも、地下の最後の戦いでもありません。二人が初めて出会った1986年のこと。観客が追ってきた大人のアデレードは、最初から他人の人生を奪った側なんです。
| 二人の出自 | 1986年に起きたこと | 大人になった姿 |
|---|---|---|
| 両親と遊園地へ来た少女 | 地下へ連れ去られ、ベッドにつながれる | レッド。地下の集団を率いて地上へ戻る |
| 地下にいた少女の分身 | 相手を閉じ込め、地上でその少女に成り代わる | アデレード。ゲイブと結婚し、二人の子供の母になる |
鏡の小屋で少女が襲われ、人生を奪われる
サンタクルーズの遊園地で、少女アデレードは両親から離れ、鏡が並ぶ小屋へ迷い込みます。そこで出会ったのは、鏡に映った自分とは別の、同じ顔の少女でした。
最後の回想で、その出会いの続きが明らかになります。地下側の少女は地上側の少女の首を絞めて気絶させ、地下施設まで運び、ベッドに手錠で拘束。その後、地上の両親のもとへ戻ったのです。
両親が連れて帰った子供は、実の娘の分身でした! 本当の娘は地下に残され、長い年月を経てレッドになります。
1986年の鏡の小屋から、休暇の夜の襲撃へ
帰ってきた少女は口をきかなくなる
小屋から戻ったあと、両親の前にいる少女は話さなくなり、心の傷を負った子として扱われます。成長した彼女が打ち込むようになるのは、バレエでした。
初めは、怖い目に遭ったために言葉を失ったように見える場面です。けれど結末を知ると、地下で育った少女が、地上で初めて暮らし始めた直後だったと分かる。親が心配している理由と、子供が話せない事情が食い違っていたんですね。
海辺の異変と、家の前に立つ四人
大人になったアデレードは、夫ゲイブ、娘ゾーラ、息子ジェイソンとサンタクルーズへ休暇に来ます。ゲイブはボートを買い、裕福な友人のジョシュとキティ・タイラーに張り合いたがる。旅行先で夫だけ買い物に浮かれている、あの温度差です。
アデレードは、幼い頃の出来事があったこの土地を怖がっています。それでも一家は、ビーチでタイラー夫妻と双子の娘たちに合流。途中では「エレミヤ書11章11節」の看板を持つ男の遺体を見かけ、ジェイソンは砂浜で血のついた両手を広げる別の男を目撃します。
夜、アデレードが幼い頃の出来事をゲイブに話していると、家が停電します。外には、四人の人影。ゲイブが追い払おうとしても立ち去らず、やがて家へ侵入してきました。
四人は、ウィルソン一家と同じ顔をしています。赤いつなぎ姿でハサミを持ち、レッドだけが、かすれた声で言葉を話すのです。一人なら見間違いを疑えますが、一家分そろうのはちょっと無理。
| ウィルソン一家 | 襲ってくる相手 | 対面したときの特徴 |
|---|---|---|
| 母アデレード | レッド | 言葉を使って、一家を追い詰める |
| 父ゲイブ | アブラハム | 力でゲイブをねじ伏せる |
| 娘ゾーラ | アンブラ | 素早く走り、逃げるゾーラを追う |
| 息子ジェイソン | プルート | 火に執着し、ジェイソンの動作をまねる |
レッドは、地上で少女が温かい食事を食べる一方、その「影」は地下で生のウサギを食べていたと語ります。地上のアデレードが結婚し、子供を産むと、地下のレッドもアブラハムと結ばれ、アンブラとプルートを産むことになった。相手の選んだ人生を、望んでいなくてもなぞらされてきたという訴えです。
一家はどう生き残る?ボート、タイラー家、炎上する車

ゲイブの反撃と、ジェイソンが見つけた動作の連動
侵入者たちは家族を引き離します。アデレードはテーブルにつながれ、ゾーラは屋外へ追い立てられ、ジェイソンはプルートと向き合うことに。ゲイブはアブラハムに連れ出されました。
ゲイブはボートの上でアブラハムと争い、最後には船のスクリューで相手を殺します。ゾーラのほうは、追ってきたアンブラから逃走。ジェイソンはプルートが自分の動きをなぞることに気づき、彼を物置に閉じ込めるのです。
アデレードも拘束から脱出し、家族は再び集まります。四人はゲイブのボートで逃げ出しました。買った船がここで役立つとは。購入自慢の時間は、とっくに終了です。
助けを求めたタイラー家も全滅している
一家が向かったのは、昼間に会ったタイラー家。ところがジョシュもキティも双子の娘たちも、すでに自分たちの分身に殺されていました。
ウィルソン一家はそこで、タイラー家の分身とも戦います。助けてもらうはずの家で、再びアデレードが捕まり、ゲイブや子供たちも応戦。激しい争いの末、タイラー家の分身を全員倒しました。
テレビのニュースを見て、襲撃はウィルソン家だけの事件ではなく、各地で地上の人々が分身に殺されていると分かります。赤い服の集団は、相手を襲ったあと、手をつないで列を作っていました。
一家はタイラー家の車を使い、メキシコへ逃れることを目指します。大きな家へ避難すれば終わり、とはいかなかったんですね。逃走中も、ウィルソン家を狙う三人は残っています。
ゾーラがアンブラを倒し、プルートは炎の中へ
車で逃げようとすると、アンブラが車体に飛び乗ります。運転するゾーラは急ブレーキをかけ、アンブラを振り落としました。木に衝突したアンブラは、その傷で命を落とします。
アデレードは車を降り、死にかけたアンブラに寄り添います。自分の娘と同じ顔をした相手の最期。この時点でもつらい場面ですが、母自身も地下出身だったと知ると、地下の人々に対する感情も重なって見えますね。これは、彼女の出自を知ったうえでの解釈です。
サンタクルーズの遊歩道へ戻ると、今度は炎上する車の近くでプルートが待ち構えています。ジェイソンは罠に気づき、家族を車から降ろす。自分が後ろへ歩くとプルートも後ろへ進み、そのまま炎の中に入って焼死しました。
ところが、その最期に家族が気を取られている間に、レッドがジェイソンをさらいます。アデレードは息子を追い、1986年に二人が出会った鏡の小屋へ戻るのです。
地下でレッドが明かすテザードの正体
小屋の奥には地下へ続く通路があり、アデレードはウサギが歩き回る施設へたどり着きます。レッドが待つのは、その奥の部屋。家族を襲っていた相手には、地上と結びついた地下の生活がありました。
レッドの説明では、テザードは、地上の人間を操るために造られた複製です。計画が失敗したあとも、地下に置き去りにされていました。肉体は複製できても魂は複製できず、二つの体で一つの魂を共有するという仕組みです。
地下の人々は、地上の相手の動作を繰り返し、生のウサギを食べて生き延びます。地上の舞台で踊るアデレードに対し、レッドが踊るのは地下の通路です。レッドの家族の話も、この強い結びつきによるものでした。
バレエをきっかけに、レッドが地下の指導者になる
地上のアデレードがバレエを踊ると、地下のレッドも踊ります。ほかのテザードと違う彼女の姿が、地下の集団から特別な存在として認められるきっかけになりました。レッドは長い時間をかけ、地上の相手を襲う蜂起を準備します。
結末で出自が判明すると、レッドが異質だった理由も分かるでしょう。彼女は元から地上の言葉を知り、かつて別の生活を送っていた人間です。地下だけを知るほかのテザードとは、失ったものへの実感が違っていました。
それでもレッドが率いたのは、地上の家族を殺して回る蜂起です。自分の人生を奪った相手への怒りが、各地の人々を巻き込む復讐へ広がったのです。
地下の決着から、最後の人間の鎖まで

アデレードがレッドを殺し、ジェイソンを救い出す
アデレードとレッドは地下で戦います。アデレードが手にしているのは、暖炉の火かき棒。激しい攻防の合間に、二人が若い頃に踊った場面が映ります。
最後にアデレードは、火かき棒をレッドに突き刺します。まだ息のあるレッドは、幼い頃の鏡の小屋で吹いていた曲を口笛で吹く。その後、アデレードはレッドの首を絞め、殺してしまうのです。
元の地上の少女は、この対決で亡くなりました。一方、地上の生活を奪った分身は生き残り、ロッカーにいたジェイソンを見つけて救出。二人は地下を離れ、ゲイブとゾーラに合流します。
子供を取り戻した場面だけなら、母親が危険を乗り越えた結末に見えますよね。ところがその直後に、少女時代の入れ替わりが明かされる。ほっとしたところで、応援していた人の過去を突きつけられます。
一家は逃げるが、地上の惨劇は終わっていない
一家は救急車で町を離れます。アデレードが運転し、ジェイソンは母をじっと見つめる。母が笑みを返すと、息子は顔にマスクをかぶせました。
続いて、赤いつなぎ姿の人々が手をつないだ長い列が、丘の向こうまで続く景色になります。ウィルソン一家の四人は生存しますが、レッドの死によって各地のテザードが消えるわけではありません。本編は、人間の鎖が地上に残るところで終わります。
この列の形は、冒頭のテレビで流れていた「ハンズ・アクロス・アメリカ」とつながっています。1986年に実際に行われた、米国内の貧困の解消を目的とする慈善イベントで、人々が手をつないで米国を横断する人間の鎖を目指したものでした。
レッドは子供の頃に知ったその光景を、テザードの蜂起に使っています。助け合いを掲げた催しの形が、大勢を殺したあとにも再現される。手をつなぐ姿が、これほど安心できない映画もなかなかありません。
注意:2019年映画本編で確定することと、考察が分かれること
入れ替わりは本編の回想で明かされますが、登場人物の内心や計画の細部には、描かれない部分もあります。
ジェイソンは母の正体に気づいた?
最後の視線とマスクから、ジェイソンが母の異様な一面を感じ取った、と考えることはできます。助けてくれた母を警戒しているようにも、母の秘密を察しながら受け入れたようにも見えるでしょう。
ただ、ジェイソンが1986年の入れ替わりの全事情を知ったと語る台詞はありません。観客に見せられた回想を、息子も同じように知ったわけではないんです。マスクを下ろす理由は、観る人によって解釈が分かれます。
息子もプルートと入れ替わっていた、という考察もあります。
テザードを造ったのは誰?
レッドは、人間が複製を造って地上の人々を操ろうとした経緯を説明します。けれど、実行した組織や責任者の名前は出てきません。
赤いつなぎやハサミをどう大量にそろえたか、全国の地下施設がどう運営されていたかも、詳しい説明はありません。彼らが置き去りにされたことと、レッドが蜂起を組織したことが、物語で明かされる経緯です。
母が分身なら悪者で、レッドが本物なら善人?
そう簡単には分けられません。アデレードは子供の頃に一人の人生を奪いましたが、大人になって家族を守ったことも本当。レッドは人生を奪われた被害者でありながら、無関係な人々も殺す蜂起を率いています。
ここからは考察ですが、同じ顔の二人が別々の環境で育つことで、格差や特権の問題を描いた映画として読めます。地下出身の少女も、地上で育てば言葉を話し、踊り、家族を持てた。その事実があるので、テザードを最初から人間らしさのない怪物と片づけるのは難しいでしょう。
私は、母が息子を助けに戻る姿を見ると、それでも応援してしまいます。けれど、レッドからすれば、その母は人生を奪った相手。どちらの生活を先に見たかで、応援する気持ちまで変わってしまうのが、この結末の嫌なところです。
本編を見返すなら、二人の言葉と踊りを見比べたい
もう一度観るときは、1986年の少女が小屋へ入る場面と、帰ってから両親の前で話さない場面を続けて見たいですね。怖い体験の前後に見えていた二つの場面が、実は別々の少女の行動だったと分かります。
バレエの場面では、地上の舞台と地下の通路で踊る二人を見比べる。その後の対決で同じような体の動きが繰り返されるので、言葉で説明される結びつきを、動作でも追えます。
そして最後は、ジェイソンの表情だけでなく、母の笑顔と、救急車の外に続く赤い列も。
公式予告で、赤いつなぎの一家と二人の声を見比べる
ユニバーサル・ピクチャーズ公式の『アス』90秒予告です。
FAQ
レッドだけが言葉を話せるのはなぜ?
地下へ閉じ込められる前に、地上の家庭で暮らしていたからです。ほかのテザードとは育ちが違います。声がかすれている原因については、本編に医学的な説明はありません。
地下のウサギは何のためにいる?
地下の人々にとっては食料です。台詞で語られるのは食料としての役割だけで、実験動物や繁殖力の象徴と読むのは考察です。
一家は最後にメキシコへ着いた?
家族がそろって救急車で移動するところまでで、その後の暮らしや安全は描かれていないのです。
まとめ
『アス』の最後で助かった母は、幼い日に別の少女を地下へ押し込めた本人でした。奪われた人生を取り戻そうとしたレッドは亡くなり、母は子供たちと生き延びます。
一台の救急車には家族の再会があり、その外には赤い人間の鎖が残る。家族を救った安堵と、母の過去への引っかかりを、両方抱えたまま終わる映画です。