結末までのネタバレがあります。『スプリット』は、M・ナイト・シャマラン監督による2016年の映画です。
誘拐された3人のうち、生きて保護されるのはケイシーです。ビーストは彼女の身体の傷痕から苦痛を経験した人間だと判断し、自分が信じる「清い者」として命を奪うのをやめました。クレア、マルシア、フレッチャー博士は殺され、犯人のケヴィンは逃亡を続けます。
そして最後の男性は、ブルース・ウィリスが演じる『アンブレイカブル』のデヴィッド・ダン。ケイシーが生還する結末のあとに、二つの映画が同じ世界の出来事だと分かる場面が続きます。
『スプリット』は誰が誰を監禁する映画?
Universal Picturesによる公式予告編です(英語)。
誕生日会の帰り、3人が拉致される
始まりは、クレアの誕生日会が終わったあとの駐車場。クレアと友人のマルシア、同級生のケイシーは、クレアの父の車で帰ることになります。ケイシーは周囲と距離を置いている少女で、ほかの2人と仲のいい3人組というわけではありません。
ところが運転席に乗り込んだのは見知らぬ男でした。男はスプレーで少女たちの意識を奪い、地下の部屋へ連れ去ります。目が覚めても場所は分からず、扉は施錠されたまま。帰りの車が、そのまま監禁への道になってしまったんです。
同じ身体の中に、23の人格がいる
少女たちを監禁した男性の名前はケヴィンです。ジェームズ・マカヴォイが演じ、彼の中には23の人格が存在します。少女たちの前に出てくるのは、厳格で汚れを嫌うデニス、女性の人格パトリシア、9歳の少年の人格ヘドウィグでした。
声も仕草も、少女たちへの接し方も変わります。同じ顔なのに、話す相手は毎回交代。顔を覚えたくらいでは安心できない怖さですね。
人格たちは、身体を動かす主導権を「照明」にたとえて話します。普段はバリーが誰にその権利を渡すか決めていますが、ヘドウィグには自分で奪う力がありました。デニスとパトリシアは彼を味方につけ、ほかの人格を押しのけていきます。
| 人格 | 誘拐事件での役割 |
|---|---|
| デニス | 少女たちを拉致・監禁し、ビーストの出現を準備する。 |
| パトリシア | ビーストを信奉し、少女たちをその食料として確保する。 |
| ヘドウィグ | 9歳の人格。 |
| バリー | 人格の交代を取り仕切る。フレッチャー博士へのSOSにも関わる。 |
| ケヴィン | 元の人格。終盤、本名を呼ばれて一時的に戻る。 |
| ビースト | 24人目。人間離れした身体能力を持ち、少女たちを襲う。 |
パトリシアはデニスが少女たちに手を出すのを止める場面もあります。彼女の目的は、ビーストに差し出すまで少女たちを生かしておくこと。柔らかな話し方にも、監禁を続ける意思があるんです。
脱出を試すたびに、少女たちは引き離される

クレアは通気口へ、マルシアは椅子で反撃
クレアは3人で男に立ち向かうことを提案します。ケイシーは相手の力も状況も分からないため慎重でした。それでも少女たちは部屋の天井に脱出できそうな箇所を見つけ、クレアが通気口を進みます。
ケイシーとマルシアが扉を押さえる間に、クレアは部屋の外へ。しかしデニスに追いつかれ、捕まって別室に閉じ込められました。3人で助け合える時間が、ここで途切れます。
続いてマルシアは、食事を用意しているパトリシアに椅子を振り下ろし、走って逃げようとします。行く先の扉は施錠されていて、彼女も捕らえられることに。脱出の失敗によってクレアとマルシアが個別に監禁され、ケイシーは元の部屋に一人で残されます。
ヘドウィグの「窓」とトランシーバー
ケイシーはヘドウィグに近づき、会話を重ねます。彼は自分の部屋に窓があると話し、やがてケイシーを部屋へ連れていきました。外へ逃げられるかもしれない。ところが、その窓は壁に描いた絵です。
ヘドウィグは音楽に合わせて踊り始めます。脱出の相談をしたいのに、ダンスのお披露目まで始まる。この噛み合わなさが、少年の無邪気さとケイシーの切迫感を一緒に突きつけてきますね。
それでも彼女は、部屋にあるトランシーバーで外部へ助けを求めます。通信相手には訴えを信じてもらえず、ケイシーは再び部屋へ戻されました。窓も無線も、生還への道になりそうなものが次々に塞がっていきます。
フレッチャー博士は異変を見抜き、監禁場所へ向かう
カレン・フレッチャー博士は、ケヴィンの人格たちを長く診ている心理学者です。バリーから急いで会いたいというメールが届くのに、診察に来た相手は落ち着いている。博士はこの食い違いを気にしていました。
訪ねてきた人格はバリーを名乗りますが、実際はデニスでした。ほかの人格が送ったSOSを、彼が取り繕っていたんです。博士はやがてデニス本人と話し、彼とパトリシアがケヴィンを守ろうとしていること、ビーストを強く信じていることを知ります。
ケヴィン自身にも、幼いころ母親から虐待された過去があります。デニスは自分たちを守る存在として振る舞い、さらに強いビーストを待ち望んでいました。博士は人格によって身体にも変化が起こる可能性を研究する一方、デニスのいう24人目には懐疑的です。
その夜、SOSのメールが相次ぎ、博士はケヴィンの住居へ向かいます。そこで施錠された部屋の少女を見つけ、誘拐事件の現場だと気づきました。しかしデニスにスプレーで意識を奪われ、博士も捕らわれてしまいます。
診察室での違和感が、実際の監禁へつながった瞬間です。私はこの流れがつらいです。異変に気づいた人が現場まで来てくれたのに、その人まで危険にさらされてしまう。
24人目のビーストが現れ、博士と2人の少女を殺す

列車で変わる身体、地下で起こる殺害
デニスは駅へ向かい、乗客のいなくなった列車に乗ります。そこで現れるのが24人目の人格ビーストでした。筋肉が盛り上がり、動きも獣のように変わっていきます。
地下へ戻ったビーストは、フレッチャー博士を締めつけて殺します。さらにマルシアとクレアを襲い、食べてしまうのです。ケイシーを除く2人の少女と、助けに来た博士は、この夜に命を落とします。
ビーストは、苦痛を知らず守られてきた人間を「不純」と決めつけ、食料にする価値観を持っています。デニスたちが少女たちを監禁していたのは、このビーストに差し出すためでした。
ケイシーは人格の録画から鍵を見つける
その間にケイシーは元の部屋を出て、パソコンのある部屋へたどり着きます。そこには人格たちが自分のことを話す録画が保存されていました。バリーの映像に鍵を取る動作があり、彼女は実際の室内で同じ場所から鍵を見つけます。
鍵を手に廊下へ出たケイシーが目にするのは、倒れたマルシアと、ビーストに襲われるクレアでした。逃げ道を探していた時間の裏で、ほかの部屋では殺害が進んでいたんです。
さらに博士の遺体のそばには、ケヴィンの本名を呼ぶよう書いたメモが残っていました。この最後の手がかりが、迫ってくるビーストへの対抗手段になります。
本名を呼ぶとケヴィンが戻るのに、なぜ止まらない?
ケイシーはメモにある本名、Kevin Wendell Crumbを呼びます。するとビーストの勢いが止まり、元のケヴィンが身体の主導権を取り戻しました。
ケヴィンは、目の前で起きていることに戸惑います。長くほかの人格に身体を支配され、自分が何をしたか把握していなかったんです。博士を殺したのが自分の身体だと知ると、銃と弾の場所をケイシーに教え、自分を殺してほしいと頼みます。
ここで初めて、犯人の顔から必死に事件を止めようとする人が現れる。ケイシーが向き合う相手が変わるので、単純に憎む気持ちだけでは追いつかなくなりますよね。
しかし複数の人格が次々に現れ、パトリシアが主導権を握ります。彼女はケヴィンを深く眠らせたと告げ、再びビーストに身体を渡しました。本名によってケヴィンを呼び戻せたのは一時的で、人格の交代を止める力はパトリシアたちが握ったままです。
ケイシーはショットガンと弾を確保し、追ってくるビーストから逃げます。ようやく対抗できる武器を得た彼女が、最後にたどり着くのは鉄格子の檻でした。
ケイシーだけが助かる理由は、傷痕を見たビーストの判断

父との狩り、叔父ジョンからの虐待
幼いころ、ケイシーは父から狩りを教わっていました。回想では父や叔父と森に出ています。この経験は、監禁中の慎重さや終盤の銃の扱いと重なって見えるんです。
同じ回想の中で、叔父ジョンによる性的虐待が明らかになります。幼いケイシーは叔父に銃を向けるほど追い詰められていました。やがて父が亡くなり、その叔父が彼女の保護者になります。
頼る相手として差し出されたのが、彼女を傷つける大人だった。この経緯を知ると、人から距離を置くケイシーの姿がつらく感じられます。身近な大人を信用することさえ、彼女には難しかったのでしょう。
銃撃に耐えたビーストが、傷痕で襲撃をやめる
檻の中に逃げ込んだケイシーは、ビーストに銃を向けます。弾を当ててもビーストは動き続け、素手で鉄格子を曲げ始めました。銃と檻がそろっても追い詰められる。もう何を頼ればいいのか、と思う場面です。
その手が止まったのは、ケイシーの身体にある古い傷痕に気づいたとき。ビーストは彼女が苦痛を知る人間だと受け取り、「清い者」として見逃します。
叔父から受けた虐待という過去と、身体に傷痕があるという事実が、この場面で重なります。ビーストは傷痕から苦しみを読み取りますが、その判断をしているのは人を食べる怪物。ここが、助かったのに素直に喜びきれないところですね。
動物園で保護されたあと、叔父が迎えに来る
翌朝、職員が檻にいるケイシーを発見します。職員に助け出されて外へ出ると、監禁場所は動物園の地下でした。ずっと出口を探していた閉鎖空間が、人の出入りする施設の足元にあったと分かる結末です。
ケイシーは警察に保護され、パトカーに座っています。そこで女性警官が、叔父が迎えに来たと告げました。彼女はすぐに車から出ようとせず、険しい表情で警官を見つめます。
迎えの大人が来た、と聞けば普通はほっとしますよね。ケイシーにとっては、その迎えが虐待の加害者です。生きて地上へ戻れたことと、安心して帰れることの距離が、このやりとりで突きつけられます。
考察としては、警官への視線を、叔父のもとへ戻ることへの抵抗の始まりと受け取れます。彼女は危険な相手の前で息を潜めてきました。保護された今、その顔つきが警官の注意を引いているところに、私はわずかな希望を感じます。
一方、別の隠れ家では、デニス、パトリシア、ヘドウィグがビーストの力を確信しています。少女の生還と並行して、彼らは自分たちの強さを世の中に示そうと話すのでした。
ラストの男性はデヴィッド・ダン。「ミスター・ガラス」の意味

最後は飲食店へ場面が移り、客たちがテレビの事件報道を見ています。報道では、複数の人格を持つ犯人に「群れ」を意味するホードという呼び名が付いていました。
その報道を聞いた女性が、以前にもあだ名を付けられた車椅子の犯人がいたと思い出します。名前を思い出せずにいると、隣の男性が「ミスター・ガラス」と答えました。その男性がデヴィッド・ダンです。
ダンは、2000年の映画『アンブレイカブル』の主人公で、演じるのはブルース・ウィリス。彼の登場によって、ケヴィンとダンが同じ世界に存在することが明かされます。名前だけ聞いて戸惑った人も、この人物の正体が分かれば、最後の会話の意味がつながるでしょう。
それまでの誘拐と監禁の物語が、超人的な存在のいる世界へつながる。ビーストの異様な強さにも、その世界の出来事としての意味が加わります。店の隣席から別の映画の主人公が出てくるのだから、最後の客まで気が抜けませんね!
ダンは店で事件を知る人物として現れます。ケイシーを檻から助け出すのは動物園の職員でした。少女が生き延びるまでの闘いのあとで、ダンのいる世界へ物語がつながる、という二段の結末なんです。
「苦しんだ者は清い」というビーストの考えの怖さ
ビーストは苦痛の経験を基準に、人を生かすか殺すか決めています。クレアとマルシアを「不純」と決めつけ、ケイシーを「清い」と認める。生き延びた少女への理解と、ほかの少女たちへの殺意が、同じ信念から出ているんです。
ケイシーの苦痛は、彼女が他人を観察し、自分を守ろうとしてきた背景でもあります。その過去を肯定するような言葉をかける相手が、目の前で人を殺したビーストだというのが苦しいですね。
私は、この結末を「虐待が彼女を強くして救った」と受け取ると、彼女の長い苦痛まで褒めることになってしまうと感じます。助かった喜びと、怪物の価値観への嫌悪が同時に残る。生存理由が分かっても、胸の重さが残る映画です。
もう一度観ると、ケイシーの待つ姿勢が気になる
再鑑賞では、クレアがすぐ反撃しようとする場面と、ケイシーが相手を観察する場面の温度差が気になります。父から狩りを教わった記憶と、叔父に傷つけられた過去がよみがえる。その二つが、彼女の静かさに重なって見えるんです。
博士の診察も、事情を知ったあとでは緊張が変わります。バリーを名乗るデニスの受け答えを、博士がどこから疑っているか。部屋で少女たちを監視する顔と、診察室で別の人格を装う顔が、一人の俳優の演技で続いています。
顔と声の演技まで味わいたくなったら、『スプリット』の作品ページに本編の視聴案内があります。最後の店の一言が気になった人には『アンブレイカブル』もありますね。店にいたダンが、あちらでは物語の主人公です。
FAQ
ケイシーは最後に死にますか?
ケイシーは生存し、動物園の職員の助けを受けて警察の保護下に入ります。最後の彼女はパトカーの中で、迎えに来た叔父について警官から声をかけられる場面です。
クレアとマルシアはどうなりますか?
クレアもマルシアも、ビーストに襲われて死亡します。別々の部屋へ閉じ込められたあとに襲われ、ケイシーはマルシアの遺体と、クレアが襲われるところを目にしました。
ビーストは銃で倒されたのでしょうか?
ビーストは銃弾を受けたあとも生きていて、ケイシーの前から去ります。その後、デニスたちは隠れ家で自分たちの力について話しています。
ブルース・ウィリスの役は誰ですか?
役名はデヴィッド・ダンで、『アンブレイカブル』から登場する人物です。「ミスター・ガラス」と答える台詞が、別々に見えていた2作品を結びます。
2016年と2017年、どちらの映画ですか?
映画祭で初めて上映されたのが2016年、アメリカや日本の一般公開は2017年です。年の表記が異なる作品ページも、シャマラン監督の同じ『スプリット』を指しています。
まとめ
『スプリット』の結末は、傷ついたケイシーの生還と、ビーストの逃亡が同時に進む形です。博士のメモ、本名の呼びかけ、銃での抵抗を経て、最後に怪物が彼女を生かす判断を下します。
ただ、保護された彼女を迎えに来るのは叔父ジョン。ケイシーは険しい表情で警官を見つめます。
そしてデヴィッド・ダンの一言で、『アンブレイカブル』と同じ世界へつながります。地下室から出てやっと息をついたところで、世界の広さが変わる。少女の生存と怪物の誕生、その両方を残すラストです。