外れないシートベルトと、隣に座る担任の先生。『僕だけがいない街』の怖さは、助けを求めた相手の車が、そのまま逃げ場を奪う場所になることです。
三部けいの漫画『僕だけがいない街』は、第8巻で本編が完結しています。犯人の正体から最終話の結末まで、ネタバレがあります。
真犯人は、悟の小学校の担任・八代学。漫画の悟は生き延び、仲間と八代を逮捕へ追い込みます。ただ、その勝利までには15年の昏睡と、もう一度の長い眠りが待っているんです。
そして最後に悟の前へ現れるのは、片桐愛梨。犯人を捕まえた先にある、あの雪の日の再会までが、この物語の決着です。
僕だけがいない街の犯人は八代学――頼れる先生の顔が怖い

八代学は、藤沼悟の小学5年生時代の担任です。子どもの相談に乗り、雛月加代を虐待から救うために大人を動かす。悟が信頼するのも自然でしょう。
その八代が、子どもたちを狙う連続誘拐殺人の真犯人でした。悟が覚えている歴史では加代、中西彩、ヒロミが犠牲になり、悟と親しかった「ユウキさん」こと白鳥潤が犯人に仕立てられます。
2006年に悟の母・佐知子を殺すのも八代。佐知子が昔の事件の真犯人に気づいたため、口封じを図り、その罪を悟へ押しつけるんです。
担任の立場なら、子どもの家庭事情や人間関係に触れられます。加代を助ける行動で信用まで得るのですから、嫌なほど巧妙ですよね。保護者面談で安心できそうな人が、その安心を利用している。ここが八代のいちばんぞっとするところです。
八代の動機は、命にしがみつく相手から得る刺激
八代は少年時代、暴力的な兄に従わされ、兄が女児へ性的な加害をする手助けをしていました。兄が女児を死なせ、その責任を八代になすりつけようとすると、八代は兄を殺し、自殺に見せかけます。
また、沈めたハムスターの中で、ほかの個体を足場にして生き残った一匹を「スパイス」と名づけ、飼い続けました。死の危険に抗う姿から刺激を得る感覚が、八代の内面に根を下ろしていくんです。
八代の目には、殺害の標的となる人の頭上に「蜘蛛の糸」が見えます。そして他人が死に抵抗する様子を見て、自分が生きている実感を得ようとする。犯行を阻止し続ける悟への執着も、この欲望につながります。
悟は加代たちの命を守るために動く。八代は、その必死さから刺激を受ける。二人が同じ事件に向かう理由は、ここまで正反対なんですね。
15年後には「西園」と名乗り、市議になっている
悟が眠っているあいだに、八代は結婚によって姓を変え、西園という名で市議会議員になります。後半で悟へ近づく西園は、昔の担任と同じ男です。
先生から市議へ。よりによって、この男の経歴が立派になっていくんです。社会的な信用を保ったまま、八代は目覚めた悟を再び狙います。
悟はなぜ1988年へ戻る?最初の救出は失敗する
物語の始まりは2006年。29歳の悟は漫画家として行き詰まり、ピザ店で働いています。身の回りで悪い出来事が起こる直前へ時間が巻き戻る現象が「リバイバル」です。
佐知子が殺され、悟自身が容疑者になると、リバイバルは1988年の小学生時代まで時間を戻します。幼い体に、29歳の記憶を持った悟。かつて救えなかった加代たちを守ることが、母のいる未来にもつながると考えて行動を始めました。
誕生日を一緒に迎えても、加代は失踪する
悟は加代へ話しかけ、一緒に過ごす時間を増やします。二人の誕生日は同じ3月2日。その日を無事に迎えられたことで、悟は事件を回避できたと思うんです。
けれど、誕生日のあとに加代は失踪し、救出は失敗します。彼女の母が捨てた荷物の中に、作りかけの手袋を見つける悟。祝った日の先まで、加代を守り続ける必要がありました。
この失敗が痛いですね。予定していた一日が終われば安心、という気持ちは分かります。悟はそこから、加代の日々の暮らしごと変える方法を探すことになります。
2006年の愛梨と澤田が、二度目のやり直しをつなぐ
2006年へ戻った悟を信じて、逃亡を助けるのがバイト仲間の愛梨です。愛梨の家は放火され、悟は火の中から彼女を救い出します。犯人は、悟の味方にも危害を加えてくるんですね。
悟は佐知子の残したメモを頼りに、記者の澤田と接触しました。澤田も昔の誘拐事件を追っており、悟は真犯人を探る手がかりを得ます。
その後、橋の下で愛梨と会った悟は、彼女を追ってきた警察に捕まります。そこで再びリバイバルが起き、1988年へ。悟にとっては、元の人生も合わせて三度目の小学5年生です。今度は同じ後悔を繰り返せません。
加代・ヒロミ・彩を救う鍵は、ひとりにしないこと
二度目のやり直しで、悟は仲間に助けを求めます。悟の変化を見抜いていたケンヤが協力し、ヒロミも加わりました。一人で先回りしようとしていた悟に、頼れる相手が増えるんです。
焦った悟は、加代を虐待する母親へ暴力を振るおうとしますが、ケンヤが止めます。そこで選ぶのが、加代を家から離し、使われていないバスにかくまう方法でした。
バスの隠れ家から、佐知子のいる家へ
悟たちはバスを隠れ家にして、加代の安全を守ろうとします。ところが、夜に何者かが乗り込んでくる。隠れ家が危険だと判断した悟は、加代を自宅へ連れていきました。
佐知子は子どもたちを温かく迎え、翌朝、加代は用意された朝食を見て涙を流します。食卓に自分のごはんがあり、迎えてくれる人がいる。その普通の朝が、加代にとってどれほど遠かったかが伝わる場面です。
忙しい朝には、ごはんを出して、時間を気にして、つい小言も出ますよね。ここでは、その食卓があるだけで胸にきます。加代を守るとは、こういう朝を取り戻すことでもあるんですね。
佐知子や八代、児童相談所の職員が動き、加代の祖母も加わります。加代は母親の虐待から離れ、祖母のもとで暮らすことに。加代の救出は、誘拐を防ぎ、安全に暮らせる場所へ移すことで実現します。
そのあと、加代は悟たちの学校へ戻ってきます。この日常を続けられることがうれしいんです。
ヒロミと彩にも仲間をつくり、ユウキさんの冤罪を防ぐ
悟たちは、次の犠牲者となるヒロミを一人にしないように行動します。別の小学校に通う中西彩にも声をかけ、仲間とのつながりをつくりました。
彩は最初、悟たちの誘いを断ります。そこへカズの言葉が届き、みんなのアジトに顔を出すようになるんです。犯人が狙う孤立した時間を減らし、ヒロミと彩の命も守ります。
こうして子どもたちの未来が変わり、ユウキさんも連続誘拐殺人の冤罪から救われます。悟は、かつて自分に優しくしてくれた人へ、ようやく助けを返せました。
八代の車で正体が判明――悟は15年の昏睡へ
加代たちの安全が確保されると、悟は別の子が狙われる危険を考えます。気になったのは、クラスで孤立し始めた柳原美里。加代に給食費を盗んだ疑いをかけた、あの同級生です。
アイスホッケーの試合会場で、美里がトイレへ行ったきり姿を消します。白鳥食品の車を見かけた悟は、八代に頼んで後を追いました。ユウキさんの家の車と、助けを求めた担任。八代は、悟が反応する材料をそろえていたんです。
車内で八代は犯行を認めます。美里を使った罠の本当の標的は、事件を先回りして阻止する悟でした。
シートベルトには細工があり、悟は席から逃れられません。八代は自分だけ車を降り、ボールでアクセルを固定し、悟を乗せたまま車を冷たい水の中へ走らせます。信用して乗った車から、助けを呼ぶことさえ難しい。隣にいたのは、頼りにしていた先生なんですよね。
2003年に目覚めるが、事件の記憶を失っている
悟は救助され、一命を取り留めます。1988年から15年間昏睡し、目を覚ますのは2003年です。その間、佐知子は悟を看病し、体のケアを続けていました。
ただ、目覚めた悟は、事件やリバイバルに関する記憶を失っています。八代の正体を知ったはずの自分が、その名前へたどり着けない。生還したあとにも、戦うための準備が必要なんですね。
病室には大人になった友だちが訪れます。ケンヤは弁護士に、ヒロミは医師になり、加代は赤ちゃんを抱いていました。十五年分の近況報告を、病室で一気に受け取るような再会です。情報量がすごい。
加代の夫はヒロミ。悟は二人の子どもと会い、加代が幸せに生きていることを喜びます。救えた命が、次の命につながっているんです!
愛梨との出会いで記憶が戻り、決戦は2005年になる

リハビリを続ける悟は、病院で少女・久美と親しくなります。そこへ、記憶を取り戻すきっかけになる愛梨も現れるんです。
愛梨は、悟や久美を追う取材陣から二人を守ります。悟には、初めて会ったはずの彼女の言葉や振る舞いが、深くなじんだものとして響きました。2006年に自分を信じてくれた愛梨との記憶が、少しずつ動き始めます。
愛梨の夢を聞いたあと、さらに一年余り眠る
悟は愛梨と話し、空の写真を撮りながら各地を旅したいという夢を聞きます。それをきっかけに記憶が押し寄せ、再び意識を失いました。
次に目覚めるまで、さらに一年余りが過ぎます。最初の15年の昏睡に、この期間と回復の日々が重なるため、八代との最終対決は2005年になるんです。
佐知子にとって、また待つ時間が始まる。見守る側の日々まで考えると、悟が元気に戻ってきてほしいという気持ちが強くなりますね。
駅で愛梨を見つけ、八代の正体まで思い出す
2005年、悟は駅で愛梨を見つけ、リバイバルを含む記憶を取り戻します。かつて火事に遭わせてしまったことも思い出し、今度は彼女を危険から遠ざけようと決めました。
声をかける代わりに、悟は離れた場所から手を振ります。会いたくて向かった相手に、その場で別れを選ぶ。ここは苦いですね。
悟はケンヤへ記憶の回復を知らせ、澤田も交えて八代に備えます。一方、八代は盗聴で彼らの動きを探っていました。
それを承知したケンヤと澤田は、悟の記憶が戻っていないように会話します。子どものころに悟を助けたケンヤが、大人の知恵で再び支えるんです。
さざんかの集いの二重の罠と、吊り橋での最終決戦

八代は久美のキャンプへ行きたいという願いを盗聴し、市議の立場を利用して交流会「さざんかの集い」を用意します。療養中の人と小学生が参加する行事を、自分の殺害計画に使うんです。
2005年8月、悟や久美、佐知子はその会場へ向かいます。ケンヤと澤田も協力し、八代の罠を予測して備えていました。悟を追い詰めるため、八代が狙うのは久美です。
偽メールの呼び出し先を、悟が書き換える
八代は佐知子の携帯電話を盗み、彼女になりすまして久美へ呼び出しメールを送ります。受け取る側が信じやすいところが嫌ですね。
悟はこの手口を予測し、久美へのメールが自分を経由するように備えました。八代が指定した「やまぶき荘」を「りんどう荘」に変えて転送し、二人が別の場所へ向かうようにします。
八代を空振りさせることに成功! ところが、久美を狙う仕掛けはもう一つ用意されていました。
予定表と悟の水筒で、久美をボートへ誘導する
八代は久美に渡した予定表にも細工をし、ほかの参加者より早く「さざんか荘」へ向かわせます。そこに置かれていたのは、悟のものに見せかけたメモと、盗んだ悟の水筒でした。
久美はメモの指示に従って、ボートの場所へ向かいます。ケンヤから久美が集合場所に来ていないと連絡を受け、佐知子から水筒が消えたと聞いた悟は、もう一つの罠に気づきました。
悟は1988年に美里を使って自分をおびき出した手口を思い出します。今回も、少女の危機で悟を動かそうとしている。そう読み切り、八代の予想より早く吊り橋へたどり着くんです。
悟は八代を抱えて飛び込み、仲間が二人を救う
吊り橋で向き合った悟は、自分が未来から来て、小学5年生の一年を繰り返したことを八代へ話します。八代はそれを信じました。悟が事件を先読みしていた理由が、彼には納得できるんですね。
八代は、他人の死に抗う悟に執着しています。久美を助けようとする悟の抵抗も、八代の求めた刺激でした。悟は八代へ犯行を終えるよう求めますが、八代は悟とともに死ぬことを選び、火をつけます。
ここで、悟が隠していた回復ぶりが明らかになります。すでに十分動けるようになっていた悟は、八代を抱え、燃える体ごと吊り橋から水面へ飛び込みました。
下では、ケンヤと澤田がボートで待機しています。二人は悟と八代を救助し、久美も無事に守られました。八代は逮捕されます。
悟の勝因は、記憶を取り戻したことに加え、仲間へ作戦と救助を任せられたことです。車に閉じ込められたときは一人だった悟が、今度は橋の下に味方を待たせている。この変化が頼もしいんです。
2012年の結末――八代の死刑と、悟が取り戻す日常

最終話は2012年1月。逮捕された八代には死刑判決が下り、収監されています。悟の母も、救った友だちも生きる未来が続いていました。
決戦後の日々には、久美の高校合格と悟の高卒認定という知らせも届きました。病院で出会った二人が、それぞれ自分の生活を進めているんですね。
悟は漫画家として成功し、作品はアニメ化されます。佐知子が大切に持っていた古い文集には、悟が子どものころに抱いていた漫画家の夢がありました。
十五年を失った息子が、夢を実現して机に向かっている。母にとっては、忙しい仕事場の物音さえうれしいでしょう。締め切りのある生活が、こんなにもありがたく感じられるとは。
最後は雪の橋の下で、愛梨と再会する
悟は雪の降る日に、かつて2006年の世界で逮捕された橋の下へ来ます。そこへ愛梨が駆け込み、一緒に雪宿りしてよいかと声をかけました。
2005年には、危険に巻き込むことを恐れて離れた愛梨。八代との戦いを終えた悟は、2012年に彼女と再会します。二人が出会う場所まで重なる、この終わり方がいいんです。
未来を変えるために走り続けた物語が、最後には誰かと雪を避ける時間へ着地する。派手な勝利のあとに、この静けさが待っているんですね。
考察:題名の「僕だけがいない街」が、宝物になる理由
悟が眠っているあいだにも、加代たちは生きて、大人になり、家族をつくります。その時間を、悟は自分の宝物として受け止めました。
私はこの題名に、悟が救った人たちの人生が、悟の留守中にも続いていたことの重みを感じます。病室で加代の子どもと会う場面も、その実感につながりますね。
悟が守った先で、加代たちは自分の幸せを育てる。その未来を喜べる悟だから、加代とヒロミの家族も、最後の愛梨との再会も、温かく受け止められるんです。
漫画本編は8巻で完結し、テレビアニメは全12話です
漫画の本編は第8巻で完結し、第9巻は外伝『Re』を収めた巻です。全9巻のセットでも、本編の最終決戦と雪の日の再会は8巻に入っています。
2016年のテレビアニメは全12話。終盤の構成には漫画との違いがあり、悟と八代が決着をつける経緯も変わります。漫画では悟が2003年に目覚め、2005年に八代と対決し、最終話の舞台は2012年になります。
テレビアニメの雰囲気が分かる、アニプレックス公式の第1弾PVです。
犯人が分かったあと、読み返したくなるのは6〜8巻
6巻には八代の過去と昏睡後の悟、7巻には愛梨を通じた記憶の回復、8巻にはさざんかの集いと決着が続きます。犯人の顔を知っていると、先生の親切や、何気ない会話に別の怖さが出ますね。
とくに好きなのは、ケンヤと澤田が盗聴を承知で会話するくだりです。子どものころの仲間が、今度は相手に聞かせる言葉まで考えて悟を支える。再読すると、大人になった二人の頼もしさを感じます。
最終巻の書籍情報は、KADOKAWAの『僕だけがいない街(8)』にまとまっています。
FAQ|犯人と漫画の結末で気になること
犯人は誰ですか?西園と八代は同一人物?
連続事件を起こしたのは担任教師の八代学です。後年、姓を西園へ変え、市議の立場で悟へ近づきます。
漫画の最後で悟は死にますか?
悟は生存し、吊り橋での危機を仲間の救助で乗り切ります。最終話の彼は、漫画の仕事を続ける日常に戻っているんです。
加代は誰と結婚しますか?
結婚相手は同級生のヒロミ。二人の赤ちゃんと会い、悟は自分が変えた未来を実感します。
漫画は8巻と9巻、どちらが最終巻ですか?
刊行された単行本は外伝まで合わせて9巻。本編の結末が収録されているのは8巻で、9巻には『Re』が入っています。
まとめ
信頼を武器に子どもを狙った八代に対し、悟は友だちや母を頼ることで命を守ります。15年の眠りと記憶の回復を経て、2005年の吊り橋でその戦いは決着しました。
救われた加代たちは自分の人生を進め、悟も漫画家の夢をかなえます。そして2012年、雪を避けた橋の下には愛梨がいる。犯人を突き止めた先で、悟が誰かと生きる未来を取り戻す結末です。