ここから、クリストファー・ノーラン監督の映画『メメント』(2000年、原題:Memento)の結末までネタバレします。対象は通常の構成で上映される映画本編です。原案の短編『メメント・モリ』や、DVDなどに収録された時系列順の再編集版とは区別しています。
冒頭で撃たれる男と、終盤で首を絞められる男。あれ、どちらが妻を襲った犯人なんでしょう? エンドロールが流れても、すんなりリモコンを置けない映画ですよね。
冒頭でレナードが射殺するのはテディです。映画の最後には、それより前にレナード自身がテディを次の標的に決める場面が映ります。時間を並べ直すと、この二つがつながります。妻の死についてテディが語る内容には、証言と映像の示唆を分けて考える必要もあるんです。
カラーは過去へ、白黒は先へ進む

『メメント』では、カラーの場面が新しい出来事から古い出来事へ戻り、白黒の場面は古い出来事から先へ進みます。両者は交互に挟まれ、ジミーを襲ったあとの写真の場面で合流する仕組みです。
| 映像 | 映画の中での進み方 | 出来事の位置 |
|---|---|---|
| 白黒 | モーテルでの電話から、ジミーとの対面へ進む | カラーで描かれる事件より前 |
| カラー | テディ射殺から、その原因をさかのぼる | ジミーへの襲撃後からテディの死まで |
映画の冒頭が、事件の時系列ではいちばん後ろ。一方、上映上のラストは事件の途中にあたります。そこで示される選択が、すでに観た殺人の原因になるわけですね。
カラーの場面すべてで、人の動作まで逆再生されるわけではありません。写真が薄れて弾丸が銃に戻る冒頭には実際の逆再生がありますが、その後は場面の並びが逆向きで、一つの場面の中では普通に時間が進むと考えると理解できます。
時系列① 妻への襲撃と、レナードが語るサミーの話
レナードが覚えているのは、浴室での襲撃
レナード・シェルビーは、かつて保険会社の調査員でした。彼の回想では、自宅で妻が襲われ、助けに入ったレナードが一人を撃ちます。しかし別の男に頭を打ちつけられ、意識を失ってしまう。
事件後の彼は、新しい出来事を長く覚えていられません。相手と話していた理由も、泊まっている場所も分からなくなります。そこで人物や車、モーテルをポラロイドで撮り、メモを書き、大事な手掛かりは身体にタトゥーとして残しているんです。
レナードが信じているのは、妻は襲撃で殺され、逃げたもう一人の犯人を捜しているという筋書き。名前の手掛かりはジョン、またはジェームズで、姓の頭文字がGというものです。それを「ジョン・G」として追っています。
サミーの妻は、注射を繰り返し頼んだ
白黒の電話場面でレナードが話すサミー・ジェンキスは、保険調査の担当だった男です。レナードの説明では、サミーも事故後に新しい記憶を作れなくなり、調査の結果、保険金の請求は認められませんでした。
サミーの妻は、夫が本当に覚えられないのか確かめようとします。糖尿病の治療に使うインスリン注射を、短い間に何度も夫に頼んだのです。すでに注射したと覚えているなら、途中で拒むはずでした。
ところがサミーはそのつど注射し、妻は過剰投与で亡くなった、とレナードは語ります。彼の手にあるサミーを忘れないためのタトゥーは、この話と結びついていました。ただし、これを客観的に確定したサミー夫妻の過去として受け取ると、終盤の証言を読み違えます。
時系列② ジミーを殺したあと、テディを次の標的にする

テディの案内で、麻薬の売人ジミーと対面する
モーテルでの電話のあと、レナードはロビーでテディと会います。テディは潜入捜査中の警官で、レナードにジミー・グランツという男の居場所を教えました。レナードはジミーが捜していた犯人だと信じ、廃屋へ向かいます。
ジミーは麻薬取引のためにジャガーで現れ、20万ドルを持ってきています。彼が待っていた相手はテディでしたが、そこにいたのはレナード。レナードはジミーの首を絞め、倒れた姿を写真に撮ります。
その写真が現像されていくところで、映像は白黒からカラーへ変化します。レナードはジミーの服に着替え、身体を地下へ運ぼうとしました。そこで瀕死のジミーが「サミー」と口にする。
サミーの話を知っているなら、ジミーは自分と以前に会っているのでは? レナードは殺した相手が本当に犯人だったのか疑い始め、やってきたテディを問い詰めます。この殺害でジミーは命を落としました。
「本物の犯人は、もう殺した」とテディが告げる
テディは、レナードの復讐を手助けするついでに麻薬取引の金を得ようとしたと認めます。さらに、本物のジョン・Gは一年以上前に二人で見つけ、レナードが殺したが、その達成を忘れてしまったと話すのです。
テディは、笑顔のレナードが写る写真を、その復讐を終えた直後のものだと説明しました。以後もレナードは犯人捜しをやめられず、テディは「ジョン・G」に当てはまる名前を利用して標的へ誘導してきた、という告白です。
サミーの話についても、テディは別の過去を示します。サミーは実在した詐欺師で、妻はいなかったと話しました。襲撃後に生き残り、夫にインスリンを何度も打たせて亡くなったのは、レナードの妻だったというのです。
レナードは妻が糖尿病だったことを否定します。けれど、サミーが座っていた施設の椅子に、一瞬レナードが座る映像が挟まれる。妻をつねる回想に加え、注射をする短い映像もあり、彼の回想だけを信じるのも難しくなりますね。
忘れる前に、未来の自分をだますメモを書く
テディは、自分の本名もジョン・Gに当てはまると話します。レナードはこの情報を使い、テディを次の復讐相手にすることを選びました。
テディの写真には、彼の嘘を信じるなという警告を残します。そしてテディの車のナンバーを、犯人の車を示す手掛かりとして書き留めました。ジミーの写真と、笑顔の自分の写真は燃やしてしまう。
レナードは、テディが犯人だと確認してから記録したのではありません。テディを犯人だと思い込むための記録を、自分で作ったんです。少し後の自分が、この選択そのものを忘れてしまうことを承知しています。
ジミーのジャガーで走り去ったレナードは、タトゥー店に気づいて車を止めます。ここが映画の最終場面。時系列では、このあとにナタリーやドッドとの出来事が続きます。
時系列③ ナタリーに利用され、ドッドを町から追い払う

ジミーの服とコースターから、ナタリーに出会う
レナードはタトゥー店で、テディの車のナンバーを「事実6」として身体に彫ります。テディが服や車を替えて町を離れるよう警告しても、写真の書き込みを見て、その言葉を信用しません。
着ているジミーの服からは、ナタリーのメッセージがあるバーのコースターが出てきます。服を奪った経緯を忘れているレナードは、それに従って店へ向かいました。ナタリーはジミーの恋人で、彼の車と服を使っている見知らぬ男を不審に思います。
ナタリーはレナードの症状を確かめるため、唾の入ったビールを出します。彼がそのことを忘れて飲むと、記憶障害が本当だと分かりました。その確認方法、ほかになかったんでしょうか。観ているだけで、グラスを洗いたくなります。
ペンを隠し、自分を殴った相手をすり替える
ジミーが金を持って出かけたまま戻らず、取引仲間のドッドはナタリーを疑い、金や麻薬の行方を追及します。彼女は、自宅にいるレナードにドッドの排除を頼みました。
レナードが断ると、ナタリーは彼と妻を罵り、怒ったレナードに殴られます。彼女はあらかじめ部屋のペンをバッグへしまっており、いったん外へ出て、レナードの記憶が薄れるのを待つのです。
レナードは起きたことを書こうとしますが、ペンが見つかりません。さっきまで会話していた相手の悪意を残せず、何があったのかを忘れてしまう。家中のペンを全部集めるとは、ずいぶん手の込んだ嫌がらせですよね。
戻ってきたナタリーは、顔の傷をドッドにつけられたと嘘をつきます。レナードは自分が殴ったことを覚えていないため、その説明を信じ、彼女を助けようと動きました。殴打そのものと、傷の原因を偽る行為は別々の出来事です。
妻との夜を再現しようとして、遺品を燃やす
ドッドに会う前の夜、レナードはモーテルへ女性を呼び、妻の遺品を部屋に並べてもらいます。自分が寝たあとに浴室のドアを大きな音で閉めるよう頼む。目を覚ました彼が浴室へ行っても、そこに妻はいません。
そのあと、レナードは本やブラシなどの遺品を燃やしました。私には、妻がいた夜をもう一度感じたい気持ちと、忘れたい気持ちがぶつかる場面に見えます。写真を焼いて復讐の記録を消した場面とは、また違う痛ましさがあるんです。
ドッドは殺されず、テディの手も借りて追い出される
ドッドは、ジミーの車に乗るレナードを追い、銃を向けます。逃れたレナードは、ドッドのモーテルの部屋で待ち伏せしますが、待っている間に目的を忘れ、自分の部屋だと思ってシャワーを浴びてしまう。ドッドが帰ってきて争いになり、レナードが彼を倒しました。
レナードはドッドを拘束し、写真とメモを残してテディを呼びます。二人でドッドを町から追い出すため、ドッドの結末は死亡ではありません。ナタリーへの直接の脅しは、この段階で退けられました。
レナードはナタリーの家へ戻り、彼女も恋人を失ったと聞いて一緒に過ごします。彼女の写真には、同じ悲しみを持ち、同情から協力してくれる相手だという理解を残しました。あのペン隠しを知っているこちらは、素直にうなずけないところです。
ナタリーはレナードのタトゥーにある車のナンバーを調べると約束します。ドッドを追い払った行動へのお返しが、テディの身元を突き止める資料につながりました。
時系列④ ナタリーの資料を信じ、テディを射殺する

ナタリーはレナードとレストランで会い、車のナンバーから調べた持ち主の資料を渡します。免許証のコピーにある名前はジョン・エドワード・ギャメルで、写真の男はテディでした。人気のない廃屋の住所も教えます。
レナードにとっては、名前のジョン・G、車のナンバー、テディを信用するなという自分のメモがそろいます。そこでテディの写真に、犯人であることと殺害の指示を書き加え、彼を呼び出しました。
でも、車のナンバーを犯人の手掛かりにしたのはレナード自身です。ナタリーの資料でテディの身元が分かっても、それだけで妻への襲撃の犯人だという証明にはなりません。同じ人物を指していることと、その人物が犯行をしたことは違います。
レナードはテディと、ジミーを殺した廃屋へ向かいます。テディは地下へ行けば分かると訴えますが、レナードは頭を撃ち抜いて殺害。これが、映画冒頭に映った殺人です。
一連の事件ではジミーとテディが死亡し、ドッドは町を去りました。ナタリーはドッドから解放され、テディにつながる情報を渡しています。レナードは生きていますが、テディを標的にしたときの本当の理由を、射殺時には覚えていません。
結末を考察すると、怖いのはレナードが嘘を選ぶ瞬間
写真とタトゥーは、書いた内容の正しさを保証しない
レナードは写真やタトゥーを頼りに生きています。紙をなくす心配があるなら身体に残す。その工夫自体には、必死さが感じられますよね。
ただ、記録に嘘を入れたらどうなるでしょう? この映画では、嘘を書いた経緯が忘れられ、書かれた結論だけが残ります。レナードが「事実」として扱うナンバーも、その一つです。
私の解釈では、ラストは妻のために復讐する自分を続けるため、レナードが都合の悪い説明を消し、次の相手を作る場面です。テディへの怒りと、復讐を生きる目的にしたい気持ちが重なっています。
テディやナタリーにだまされるだけなら、彼は一方的な被害者でしょう。ところが、テディを狙うための嘘は本人が選んだもの。忘れてしまうからこそ、忘れる前の行動が恐ろしいんです。ここで最初の殺人の意味が変わります!
妻と「やり遂げた」のタトゥーは、幸福な後日談ではない
終盤には、妻が寄り添い、レナードの左胸に「やり遂げた」を意味する英語のタトゥーがある短い映像が挟まれます。通常の場面では空白の箇所で、復讐を終えたことと妻の存在が一緒に描かれているのです。
私はこれを、復讐が終わり、妻もそばにいてくれる世界を求めるレナードの願いとして読みます。幻想なのか、書き換わった記憶なのかまで一つに決めるより、テディを殺したあとに妻と再会した場面ではないという時間の位置を押さえたいところです。
テディの死後、レナードが犯人捜しをやめられたのか、別の標的を探したのかは描かれません。殺人までの因果はつながりますが、その後の人生まで決着する結末ではないんですね。
注意:妻の死の真相と、2000年映画の範囲
妻が襲撃を生き延び、インスリンの過剰投与で死んだという説明は、テディの証言です。施設の椅子でサミーがレナードに変わる映像などは、その説明を支える示唆ですが、客観的な記録によって妻の死因が完全に確定する場面はありません。
同様に、最初のジョン・Gをすでに殺したという過去は、テディの説明と笑顔の写真によって示されます。一方、現在の事件でレナードがメモを作り、ナタリーが傷の原因を偽り、最後にテディが撃たれる流れは、実際の場面として描かれました。曖昧な過去のために、この因果までぼかす必要はないでしょう。
ナタリーについても、ドッドを排除するための嘘は明らかですが、どの段階でジミー殺害の全容を知り、テディの死まで計算していたのかは解釈が入り込みます。資料を渡した事実と、彼女の頭の中の計画は同じようには扱えません。
ここでたどったのは、2000年製作の映画本編にある出来事です。原案の短編『メメント・モリ』、一部DVDに収録された時系列順の編集、続編やリメイクに関する話は別の範囲にあたります。特典付きでも、どの商品も同じ編集を収録しているわけではありません。
もう一度観るなら、メモを書いた直前を確かめる
再鑑賞では、写真の文章を読むだけでなく、その文章を書いたとき、レナードは何を知っていたかに注目すると面白くなります。疑う相手が、テディだけではなくなるんです。
- ジミーが倒れたあとの写真では、白黒からカラーへ変わる瞬間を確かめる。
- ナタリーの家では、ペンが消える場面と、傷の説明が変わる場面を見比べる。
- テディの車のナンバーを書くときのレナードの考えを、免許証のコピーを受け取ったときの確信と比べる。
『メメント』の公式予告編です。写真やタトゥーを頼りにする主人公の姿を、短い映像で振り返れます(英語)。
FAQ:『メメント』の結末で気になること
テディの正体は、妻を襲ったジョン・Gですか?
テディの本名の頭文字はジョン・Gに一致しますが、襲撃犯だと確定する証拠はありません。彼が現在の標的になったのは、レナードが自分の記録に仕掛けをした結果です。
サミーはレナードと同じ人物なのでしょうか?
テディは、サミーという詐欺師は実在し、妻への注射の話はレナード自身の過去だと説明します。「サミーもすべて架空だった」と一括りにするより、実在した男と、彼に重ねられた家族の話を分けるほうが、その証言に沿っています。
ジミーを殺した理由と、テディを殺した理由は同じですか?
ジミーへの襲撃はテディに与えられた情報を信じたため。テディへの攻撃は、先にレナードが作った偽の手掛かりを、記憶を失った本人が信じたためです。どちらも本人には復讐ですが、標的が選ばれた経緯が異なります。
ドッドは最後にどうなりましたか?
拘束されたあと、レナードとテディに町の外へ追いやられます。本編には、彼が殺されたという結末は出てきません。
映画の最後から、また冒頭に時間が戻るのですか?
時間が循環する現象は起きていません。タトゥー店での停車から、ナタリーとの接触などを経て、冒頭の廃屋での射殺へ進む関係です。上映上の並びが、その前後を入れ替えています。
まとめ
『メメント』は、テディが撃たれる結果を先に見せ、レナードがその相手を選んだ理由を最後に明かす映画です。ジミーから奪った服と車がナタリーへつながり、ドッドの件を経て得た身元資料が、仕込まれた復讐を実行させました。
妻とサミーの過去には、テディの説明と不確かな回想が重なります。それでも、未来の自分を誘導する記録を作る選択は、目の前で描かれる。私は、本人が忘れたあともその選択だけが働き続けるところに、この結末の怖さを感じます。