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アクロイド殺しネタバレ|犯人は語り手!消えた10分のトリック

アクロイド殺しネタバレ|犯人は語り手!消えた10分のトリック

夜の電話で屋敷に呼び戻された医師が、鍵のかかった書斎で遺体を発見します。頼りになるはずの往診鞄にも、じつはひと仕事あるんです。

犯人と最終章までのネタバレがあります。

『アクロイド殺し』は、アガサ・クリスティーが1926年に発表した完結小説です。

ロジャー・アクロイドを殺したのは、語り手の医師ジェイムズ・シェパード。彼はフェラーズ夫人を恐喝しており、その正体を知らせる手紙がアクロイドに届いたため、口封じに踏み切ります。

事件を記録し、ポアロのそばで捜査に付き添う人が、事件を仕組んだ本人だった。しかも、屋敷での偽装と手記の文章が、別々の方法でこちらを欺く仕掛けです。読み終えてから冒頭へ戻りたくなるのも納得ですね。

フェラーズ夫人の死から、アクロイド殺害まで

恐喝と手紙が口封じにつながる関係

医師が知った秘密を、恐喝の種にする

舞台はイギリスの村キングズ・アボット。シェパードは姉キャロラインと暮らす医師で、近所には引退して野菜を育てているポアロが住んでいます。のどかな村の朝は、フェラーズ夫人の死の知らせで変わりました。

夫人の死因は睡眠薬ヴェロナールの過量摂取です。キャロラインは、前年に亡くなった夫を夫人が毒殺し、その罪悪感から自殺したと考えます。弟はその推測に反発するのですが、本人は恐喝の事情を知っている。朝食の会話から、もう相当ひやひやする立場なんです。

夫人は実際に夫を毒殺しており、アクロイドにもその事実を打ち明けていました。彼女を愛し、結婚を考えていたアクロイドは、さらに、秘密を知る人物から大金を要求されていることも聞かされます。

その恐喝者がシェパードでした。医師として夫の最期に接した彼は、死の秘密を金に換えます。終盤でポアロが暴く金の流れでは、受け取った2万ポンドの多くを投機で失い、夫人への要求を強めていたことまで分かりました。

シェパードがポアロに話した「遺産を受け取った」という説明も、この金をごまかすための作り話です。夫人の死によって、収入源と、自分の秘密を守ってくれる相手を同時に失います。

8時40分の手紙が、シェパードを追い詰める

夫人の死が判明した日の夜、シェパードはアクロイドの屋敷ファンリー・パークで夕食を取ります。食後、二人は書斎へ移り、アクロイドは夫人の告白と恐喝の話を医師に相談しました。

そこへ、亡くなる前に夫人が投函した手紙が届きます。時刻は午後8時40分。恐喝者の名前は、その手紙を読めば分かるところまで来ていました。

アクロイドは一人で読むことを望み、シェパードに退出を求めます。シェパードはすぐ読むよう勧めますが、アクロイドは頑固に拒みました。最後の告白で医師自身が振り返ると、この勧め方には、かえって相手に読むのをやめさせようとする計算が混じっています。

シェパードは午後8時40分から8時50分までの間に、アクロイドを短剣で刺殺し、手紙を持ち去ります。屋敷を出る前から、口封じは済んでいたんです!

凶器は屋敷の陳列台にあったチュニジアの短剣。シェパードは自分の武器も持参していましたが、自分とのつながりを追われにくい短剣に切り替えました。手紙が届いてから慌てて思いついた殺人、というより、危険に備えて準備を持ち込んだ犯行です。

パーカーからの電話で、遺体発見の場に戻る

午後10時15分、自宅に戻っていたシェパードに電話がかかります。彼は姉に、執事パーカーからアクロイド殺害の連絡が来たと告げ、鞄を持って屋敷へ急ぎました。

ところが、出迎えたパーカーは電話について何も知りません。二人が書斎の扉を破ると、椅子に座ったままのアクロイドの遺体が見つかります。扉は内側から施錠され、窓は開いている。夫人の手紙も消えていました。

この電話は、医師が現場へ駆けつける理由を作るための仕込みです。シェパードはパーカーを警察への電話に向かわせ、一人になった書斎で、犯行に使った録音機を鞄へ収めます。いつもの往診鞄で、証拠まで運び出したんですね。

関係者の秘密が、ラルフへの疑いを膨らませる

捜査で強く疑われるのは、アクロイドの義理の息子ラルフ・ペイトンです。屋敷付近の足跡が彼の靴と合い、本人も姿を消しています。姪フローラはラルフの無実を信じ、近所のポアロに調査を依頼しました。

ポアロはシェパードを伴って屋敷を訪れ、証言と部屋の様子を調べます。関係者には、殺人以外にも隠していることが山ほどありました。こんなときくらい正直に、と言いたくなりますよね。

ラルフは、使用人アーシュラとすでに結婚していた

ラルフにはフローラという婚約者がいます。しかし、彼は屋敷の使用人アーシュラ・ボーンと、すでに秘密の結婚をしていました。アーシュラはラルフの妻になってからも、使用人として働いています。

ラルフは借金を抱え、資産家の義父に結婚を反対されることを恐れていました。生活を立て直してから報告するつもりでいたところへ、義父がフローラとの縁談を進めます。借金の解決を期待したラルフは、その婚約にも応じてしまう。先延ばしが、とうとう二重生活になったんです。

婚約の知らせを知ったアーシュラは、事件当日の午後、アクロイドに結婚の事実を話します。アクロイドは欺かれたことに激怒し、その夜、ラルフとアーシュラも庭の東屋で言い争いました。

ラルフがその晩、屋敷の敷地にいた理由は、この妻との約束です。池で見つかる結婚指輪も、二人の関係につながります。秘密を告白すれば義父との争いまで表に出るため、アーシュラの口は重くなりました。

ポアロが新聞にラルフ逮捕の記事を載せると、アーシュラは彼のもとへ駆け込み、結婚と当日の争いを打ち明けます。逮捕記事は、ポアロが仕込んだ虚報でした。夫を救いたいという気持ちが、秘密を守る気持ちを上回ったんです。

さらに、ラルフの逃亡を手助けしたのがシェパードでした。医師は彼を偽名で療養施設へ入れ、居場所を知りながら捜査に付き添います。ラルフには味方に見える人が、裏では彼の不在を長引かせている。助けてもらった側ほど疑いにくいですよね。

フローラの9時45分の目撃証言は、盗みを隠す嘘だった

フローラは、午後9時45分ごろに伯父へおやすみを言った、と証言します。これが本当なら、アクロイドはその時刻まで生きていたことになる。警察が犯行可能な時間を狭く考える、大きな理由でした。

実際のフローラは、伯父の寝室から40ポンドを盗んでいました。階段を下りてきたときにパーカーが近づく気配を聞き、書斎の前に移動して、伯父と会っていたように装います。

パーカーが見たのは、書斎の扉の前に立つフローラです。部屋から出る姿を直接見たのかという違いを、ポアロは再現によって確かめました。ドアのそばに立っていた人を見たら、つい、その奥から出てきたと思いますよね。

盗みを認めたフローラの告白によって、「9時45分まで生存」という前提が崩れます。本人は金のことで追い詰められ、伯父を夕食後に見たという証言を撤回しました。

フローラを愛するブラント少佐は、金は自分が受け取ったのだと言って彼女をかばいます。ポアロはその嘘も見抜き、フローラへの気持ちを本人に話すようブラントを促しました。二人はその後、婚約します。

不審な男チャールズ・ケントは、ラッセルの息子

シェパードが屋敷の門付近で出会う見知らぬ男も、捜査を複雑にします。男はチャールズ・ケントで、家政婦ラッセルの息子でした。薬物の問題を抱え、母親に金を求めて訪ねてきています。

ラッセルがシェパードに薬物依存の治療を尋ねたのも、息子を案じていたからです。東屋に残った吸引用の道具はケントにつながり、母は親子関係を守ろうとして事情を隠しました。

ケントには、捜査で想定された犯行時間帯に酒場にいたという証言があります。一方、執事パーカーは恐喝の話を盗み聞きし、秘書レイモンドは金に困っていました。アクロイドの義妹は遺言の内容を探っています。

ポアロは、こうした秘密を一つずつ表に出し、殺害に直結する行動を絞ります。他人の隠し事が次々に見つかるあいだ、記録するシェパード自身の隠し事は、いちばん近くに置かれたままでした。

録音機・靴・電話は、どう一つのトリックになった?

録音機・靴・電話による偽装の役割

シェパードの計画は、殺害時刻を遅く見せ、ラルフへ疑いを向け、自分で証拠を回収するという組み合わせです。文章の仕掛けと別に、屋敷でも具体的な偽装を重ねています。

9時半の声は、時限式の録音機から流れた

秘書レイモンドやブラントが午後9時半に聞いたのは、アクロイドの声でした。シェパードはその時間、自宅にいるため、声が被害者の生存証明になると、医師は疑いから遠ざかります。

声の正体は、アクロイドが仕事に使う録音機「ディクタフォン」の再生音。シェパードは修理のために預かった装置を改造し、目覚まし時計の仕組みを応用して、9時半に動き出すよう設定しました。

アクロイドの声で、金の要求を断るような言葉が流れます。聞いた人は、部屋の中に相手がいて、会話をしていると受け取りました。声を聞いた時刻と、本人が生きていた時刻は、録音によって食い違います。

シェパードは録音機を窓際のテーブルに置き、高い背もたれの椅子を動かして、扉から見えにくくしました。声には働いてもらい、装置は目隠し。ずいぶん手間のかかる留守番です。

ラルフの靴を履き、窓から戻って施錠する

殺害後、シェパードは8時50分に屋敷を退出した姿をパーカーに見せます。その後、持参していたラルフの靴に履き替え、泥を踏んで書斎の窓へ回りました。

彼は窓から室内へ戻り、扉を内側から施錠して、再び窓から外へ出ます。窓付近に残る靴跡は、ラルフに疑いをかけるためのものです。窓を事前にきちんと閉めたという説明も、シェパード自身の申告に支えられていました。

ラルフには似た靴が二足あり、警察が確保した一足は事件の夜に手入れ中でした。ポアロは、もう一足を誰かが使った可能性を調べます。姉キャロラインの聞き込みを経て、ラルフが別にブーツを持っていたことも分かりました。

後に本人を問いただすと、ラルフはその夜、ブーツを履いていたと答えます。足跡と本人の服装がつながらなくなる、具体的な答えです。

本当にかかった電話を、殺人の連絡にすり替える

電話をかけたのは、その朝シェパードの診察を受けた船員です。医師は用事を頼み、その返事を駅から電話するよう依頼していました。船員は駅で電話をかけ、用事の結果を返しただけです。

姉は電話が鳴り、弟が応対するところを見ています。ただし、受話器の向こうの言葉を、アクロイド殺害の知らせに変えて説明したのはシェパードでした。実在する着信と、偽の伝言を組み合わせたんです。

この連絡を利用して屋敷へ戻ったシェパードは、パーカーと書斎の扉を破って遺体を発見します。翌朝まで発見が遅れれば、録音機を誰かに見つけられる危険が高まる。発見時刻を自分で決めることも、計画の一部でした。

事件当日の時刻と、終盤で明らかになる行動はこうつながります。

時刻実際の出来事・仕込み
午後8時40分フェラーズ夫人の手紙が書斎に届く。
8時40分〜8時50分シェパードが殺害し、手紙を奪う。録音機と椅子を配置する。
8時50分〜9時退出後にラルフの靴で窓へ戻り、書斎を内側から施錠。靴を履き替え、門を通る。
9時30分仕掛けた録音機がアクロイドの声を再生する。
9時45分ごろフローラが、伯父に会っていたようにパーカーへ話す。
10時15分船員の電話を受けたシェパードが、殺人の知らせとして姉に説明する。
屋敷への再訪後扉を破って遺体を発見。パーカーが警察へ電話する間に、録音機を回収する。

叙述トリックは、手記から「自分の行動」を抜くこと

手紙到着と退出の間で省かれた行動

屋敷の偽装が登場人物を欺く一方、手記の書き方は読者を欺きます。出来事の書き方で思い込みを誘う、いわゆる叙述トリックです。シェパードは、調査を手伝う医師として自分を紹介し、犯行に当たる動作を省いていきました。

殺害した10分間を、二つの文の間に隠す

手紙が届いたのは8時40分、退出したのは8時50分。手記はその二つを続けて述べるため、読者は手紙の読み方でもめたあと、医師がそのまま帰ったように受け取ります。

実際には、その間に殺害と録音機の設置が入ります。最終章のシェパードは、二つの文の間に区切りを入れていたら、空白の10分を怪しまれたかもしれない、と自分の文章を評しました。

退出前に、やり残したことがないか部屋を振り返る動作も同じです。初めは、患者や友人を気づかう医師の確認に見える。真相を知ると、録音機と椅子の配置を点検する犯人の行動になります。

遺体のそばの処置に、録音機の回収を紛れ込ませる

遺体発見後にも、シェパードは、必要なわずかなことをしたという曖昧な言い方で、自分の行動を短く済ませます。医師が死体のそばにいれば、こちらは診察や確認を想像しますよね。

その短い記述の中で実行したのは、録音機を鞄に入れることと、椅子を元へ戻すことでした。手記は犯人に都合のよい省略を重ね、読者に「医師ならこうしたはず」と補わせます。

シェパードはラルフの居場所を知りながら、捜査に付き添っています。事件について多くを語る人が、自分が握っている情報を選んで隠す。この距離感が、長く犯人への疑いを遅らせるんです。

シェパードが他人の秘密を知って驚く場面には、本当に事情を知らずに驚いているものもあります。フローラの目撃証言は、犯人本人にとっても予想外でした。彼の戸惑いまで全部を芝居にしてしまうと、この手記の巧さが薄まります。

ポアロは、どの矛盾からシェパードにたどり着いた?

椅子と電話から、回収する物があったと考える

ポアロが気にするのは、高い背もたれの椅子の位置です。パーカーが最初に気づいたときと、その後で位置が変わっていました。遺体発見の混乱の中でも、執事は家具の変化を覚えていたんです。

椅子の背もたれは、窓際のテーブルを隠します。ポアロはそこに、犯人が殺害時には残し、発見後に回収したい物があったと考えました。その推理を、電話の目的とつなげます。

電話のおかげで、事件はその夜のうちに発見されました。犯人が発見の場に居合わせるためだったと考えると、椅子の陰の物を持ち去る機会も説明できます。

アクロイドが録音機を購入していたことが判明すると、9時半の声も再検討されます。装置を扱う知識があり、現場へすぐ来て、装置の入る鞄を携え、書斎で一人になれた人。条件がシェパードに重なりました。

消えたラルフを連れてきて、五分の遠回りも突く

ポアロは関係者を集める前に、シェパードの手記を読みます。調査の記録として差し出された文章を、語り手が何を省いているかという点からも確かめました。

そして集まりの席で、ラルフを登場させます。ポアロはキャロラインから、弟が患者を紹介する療養施設を聞き出し、偽名で入ったラルフを見つけていました。ラルフが話すことで、医師の「親切」が捜査から彼を遠ざけた事実も表に出ます。

皆が帰ったあと、ポアロはシェパードを残し、真犯人だと指摘します。録音機を運ぶ鞄、靴を入手する機会、短剣を取る機会がそろううえ、退出から門を通るまでの時間にも余分がありました。

屋敷から門までは通常五分ほどなのに、シェパードは8時50分に退出し、9時に門を通っています。ポアロが窓への往復と靴の交換を再現すると、十分で収まりました。あの五分の余分には、足跡と施錠の仕事が詰まっていたんです。

駅から電話した船員にも問い合わせ、医師が電話を頼んだことを確かめます。シェパードは反論を続けますが、ポアロは翌朝、ラグラン警部へ真実を渡すと告げました。

結末は、キャロラインを思うポアロと犯人の最後の手記

最後の告白と手記を託す準備、自死の意思

ポアロが差し出すのは、睡眠薬による自死という選択

ポアロはラルフの潔白を明らかにすることを求め、シェパードにも、手記を率直に書き終えるよう促します。そのうえで姉キャロラインのため、睡眠薬の過量摂取という別の退き方を示しました。

医師は自分の正体を隠して暮らし、姉は弟を信じ、誇りにも思っています。公に犯行が暴かれる前に自分で最期を選ぶ猶予が、ポアロの配慮として与えられる。解決したあとに、ずしんと来るやり取りです。

シェパードは自宅へ帰り、午前五時まで手記を書き続けます。ここで語りは、捜査の記録から、犯人自身の告白へ変わりました。

ヴェロナールを選び、ポアロ宛てに手記を残す

最終章でシェパードは、殺害の準備、録音機の配置、文章で省いた行動を認めます。もともとは、ポアロの失敗を記した本として、いつか手記を出すつもりでした。犯人が探偵の失敗談まで出版する気だったとは、なかなかの厚かましさですね!

彼は自分の文章の巧さを褒め、フェラーズ夫人への同情を拒みます。恐喝で追い詰めた相手の死についても、夫人自身の行動の結果だと言い張りました。自分の犯罪を認めても、責任の取り方は最後まで身勝手です。

気にかけるのは、姉が真実を知って傷つくこと。手記を封筒に入れてポアロ宛てにするつもりだと書き、死の方法にヴェロナールを選びます。夫人の死に使われたのと同じ睡眠薬が、犯人自身の最後の選択になるんです。

原作の終わりは、シェパードがヴェロナールで自殺する意思を固め、告白を書き終える形です。締めくくりには、ポアロが引退してこの村へ野菜を育てに来たことを恨む言葉が残ります。

ラルフの無実を示す真相と、医師の犯行の記録を、シェパードはポアロへ託そうとします。読み手が頼りにしていた文章は、そのまま犯人の最後の手紙になりました。

「手記が全部嘘」「ポアロが見逃した」と考えるとずれる

シェパードは、着信した電話を殺人の知らせとして説明し、窓についても都合のよい申告をします。その一方で、殺害前後の記述には、事実を短く並べて肝心な行動を省く工夫もあります。嘘と省略の組み合わせが、この犯人の書き方です。

また、ポアロは真犯人を特定し、警察へ報告する期限まで告げています。シェパードに与えた猶予は、姉を思って死の選択を示す場面につながります。

私は、手記の省略が巧みだと感じる一方で、犯人の自殺を促す解決には重さを感じるんです。ラルフを救うことと、キャロラインを傷つけまいとすることを、ポアロが一緒に引き受けるからです。

犯人が分かった爽快さのあとにも、姉への優しさと、犯人の都合のよさが残ります。その居心地の悪さまで含めて、最後の章を読みたくなる作品ですね。

再読すると、最初の朝食から不穏です

第1章のキャロラインは、夫人が告白の手紙を残したはずだと考えます。シェパードは手紙の有無を気にしており、姉にそのことを見抜かれました。犯人を知ったあとの朝食は、卵とベーコンの向こうで秘密の探り合いが進んでいるように感じます。

第4章には、手紙の到着と退出の間の10分。第5章には、パーカーを電話へ向かわせたあとの短い処置。第27章は、その二か所でシェパードが何をしていたかを本人の言葉で明かします。

初読で自然につなげた文章が、再読では少し引っかかる。その小さな違和感を味わえるのが、犯人を知ってから読む楽しみです。医師の落ち着いた口調にも、つい警戒してしまいます。

日本語版には、羽田詩津子訳の『アクロイド殺し』(クリスティー文庫)があります。

FAQ|アクロイド殺しの犯人・トリック・結末

犯人は誰ですか?

事件を一人称で語るジェイムズ・シェパード医師です。フェラーズ夫人への恐喝が露見するのを恐れ、アクロイドの口を封じました。

ラルフ・ペイトンの足跡があるのはなぜ?

シェパードが彼の靴を持ち出し、履き替えて窓の周囲に痕跡を作ったからです。ラルフ本人は、その夜はブーツを履いていたとポアロに答えます。

パーカーは電話の共犯者ですか?

着信を入れたのは、医師から用事を頼まれた船員です。パーカーが殺人を知らせたという説明は、受話器を取ったシェパードが作りました。

シェパードは最後にどうなりますか?

犯行を告白した文章を仕上げ、ポアロへ託す準備をします。姉への思いを書いたあと、死に用いる薬をヴェロナールに決めて語りを閉じる結末です。

叙述トリックの「消えた10分」はどこですか?

第4章の、午後8時40分の手紙到着から8時50分の退出までに当たります。第27章で、その間の殺害と偽装を語り手自身が明かしました。

まとめ

『アクロイド殺し』では、恐喝者シェパードが殺人を行い、録音した声で時刻をずらし、靴跡でラルフに疑いを向けます。さらに手記では、犯行に使った時間と、自分の決定的な動作を省いていました。

椅子、電話、鞄、門までの移動時間をつないだポアロが、その正体を突き止めます。最後に医師が選ぶのは、告白を残してヴェロナールで命を絶つ道です。

事件を教えてくれる人の文章に、事件を隠す細工がある。犯人の名前を知ったあとも、あの普通に見えた一文へ戻りたくなるんです。

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