食堂のテーブルに置かれた黒いケースが、映画の最後まで気になります。『パルプ・フィクション』は、クエンティン・タランティーノ監督による1994年の映画です。結末までのネタバレがあります。
ラストの食堂はヴィンセントが撃たれる前の朝で、時系列で最後に来るのはブッチとファビアンの逃亡です。上映中は死んだ人物が再び登場するので、「え、さっきの銃声は?」とリモコンを止めたくなりますよね。
ジュールスの転機、ミアが倒れた夜、ブッチが命がけで戻った理由。ばらばらに見えた事件は、マーセルスという同じボスの周りでつながっています。
時系列と上映順は、こんなふうにずれています

映画は食堂の強盗で始まり、途中でミアの夜とブッチの逃亡を挟んでから、ケース回収の日の続きへ戻ります。出来事が起きた順に並べた対応表です。
| 時間の前後 | 出来事 | 上映中の位置 |
|---|---|---|
| 幼少期 | ブッチが父の金時計を受け取る | 金時計の章の前、回想 |
| 成人後・最初の朝 | ケース回収と車内の誤射 | 回収は序盤、誤射は終盤 |
| 同じ朝 | ジミー宅での後始末 | 終盤 |
| 後始末のあと | 食堂での朝食と強盗 | 冒頭と終幕 |
| 朝食のあと | ケース返却とブッチの八百長契約 | 序盤 |
| それより後の夜 | ヴィンセントとミアの外出 | 前半 |
| ブッチの試合から翌朝 | 金時計の回収、質屋の事件、バイクでの出発 | 中盤 |
中盤でブッチの話が決着したあと、映画はヴィンセントとジュールスが青年たちの部屋にいる時間へ戻るんです。そこで回収されるのは、序盤で途中まで進んだ仕事の残り。映画の終盤に配置された出来事ほど新しい、という作りとは逆ですね。
ケースを奪い返した朝、ジュールスの考えが揺らぐ
ブレットたちへの制裁と、全弾が外れる銃撃
ヴィンセントとジュールスは、ギャングのボスであるマーセルスからブリーフケースを取り戻す仕事を命じられます。相手はマーセルスを裏切ったブレットたちでした。
部屋に入ったジュールスは、ブレットたちを追い詰め、仲間の一人を撃ちます。朝食のハンバーガーを前に、食欲がすっと消える空気です。その後、聖書の言葉を口にして、ヴィンセントとともにブレットを射殺しました。
ところが、トイレに隠れていた別の男が飛び出し、二人へ銃を乱射します。弾はすべて外れ、二人は反撃して男を殺しました。ケースは取り戻せましたが、ジュールスは命拾いしたことに強く揺さぶられます。
マーヴィンの誤射で、仕事が後始末に変わる
二人は生き残ったマーヴィンを車に乗せ、部屋を離れました。車内でヴィンセントがマーヴィンを誤射し、マーヴィンが死亡します。
血まみれの車で街を走り続けるのは危険なので、ジュールスは友人ジミーの家に逃げ込みます。ジミーは、妻ボニーが帰宅する前の片づけを迫りました。ギャング二人が恐れるのが友人の妻の帰宅時刻、という妙に身近な締め切りです。
マーセルスが送り込んだのは、後始末の専門家ウルフ。二人に車内の清掃、遺体の処理、着替えを指示します。ウルフの段取りで車は処分場へ運ばれ、二人はようやく朝食に向かいました。
ミアとの夜は、ダンスから命の危機へ

ボスの妻を楽しませる仕事
マーセルスは留守中の妻ミアの相手を、ヴィンセントに頼んでいます。外出前、ヴィンセントは売人ランスからヘロインを買い、自分でも使いました。
二人が出かけたのは、1950年代風のレストラン「ジャック・ラビット・スリムズ」です。食事をし、ツイストのダンスコンテストに参加します。ミアの勢いにヴィンセントも乗せられ、仕事で付き添った夜が少しずつ親密な時間に変わっていきました。
ヘロインの取り違えと、二人だけの秘密
帰宅後、ヴィンセントがトイレにいる間に、ミアは彼の上着から薬物を見つけます。コカインだと思って吸ったものはヘロインで、ミアは過剰摂取によって意識を失いました。さっきまでのダンスの余韻が、一気に吹き飛ぶ場面です。
ヴィンセントはミアをランスの家へ運び、救命を頼みます。ランスが用意したアドレナリンをヴィンセントがミアの心臓へ注射すると、彼女は息を吹き返しました!
その後、二人はこの騒ぎをマーセルスに黙っていることで合意します。ボスの妻との距離に気をもんでいたヴィンセントは、その妻を死なせかけた秘密まで抱えることになりました。
ブッチはなぜ、父の金時計を取りに戻ったのか
負ける約束を破り、勝ち金とともに逃げる
ボクサーのブッチは、マーセルスから金を受け取る代わりに、次の試合で負ける約束をします。マーセルスにとっては、試合の結果を金で買う取引でした。
ブッチはその約束を破って勝利し、対戦相手は試合で死亡します。自分の勝利に賭けた金も手にする計画で、マーセルスの怒りを買うことまで承知の逃亡です。
モーテルでは恋人のファビアンが待っています。二人は町を離れるつもりでしたが、翌朝、ファビアンが金時計をアパートに置き忘れたと分かります。時計を取りに行くため、逃亡をいったん中断しました。
父とクーンズが守った時計だから、置いていけない
この時計は、ブッチの家で代々受け継がれてきた品です。幼いブッチに届けたのは、父と同じ捕虜収容所にいたクーンズでした。
父は時計を奪われないよう尻に隠し、亡くなる前にクーンズへ託します。クーンズもそれを尻に隠して持ち帰り、ブッチに渡しました。話の内容はかなり強烈ですが、父から息子へ時計を届けるという約束は守られたんです。
だからブッチにとっては、売って金に換えられる腕時計よりずっと重い品でした。追っ手がいると知りながら帰宅する無茶にも、この回想がつながります。危ないと分かっていても、家族の品は簡単に諦められないですよね。
待ち伏せしていたヴィンセントを射殺する
ブッチはアパートで時計を回収し、台所に置かれた銃を見つけます。トイレから出てきたのは、彼を待ち伏せしていたヴィンセントでした。
ブッチはその銃でヴィンセントを撃ち殺します。ヴィンセントは、八百長の裏切りを罰するためにマーセルスから派遣されていました。
質屋で敵を助けたブッチに、逃亡の道ができる

マーセルスと出くわし、二人とも拘束される
時計を取り戻してモーテルへ向かう途中、ブッチは道路を横切るマーセルスと遭遇します。ブッチは車で彼をはねました。
追いかけてきたマーセルスと争いながら質屋に入ると、店主メイナードが銃を向けます。二人は地下で拘束され、メイナードが呼んだゼッドも加わりました。追う側と逃げる側が、同じ場所で捕まってしまうんです。
ゼッドたちはマーセルスを別室へ連れていき、性的暴行を加えます。ブッチは拘束から脱しました。店の外へ逃げられるところまで、たどり着きます。
逃げられるブッチが、刀を手に戻る
ブッチはそこで立ち止まり、マーセルスを助けるために地下へ戻りました。質屋の商品から日本刀を選び、メイナードを殺します。自由になったマーセルスは銃でゼッドを撃ち、報復を告げました。
助けるときにはまだ、八百長の件を許してもらえる約束さえありません。その一度の引き返しで、二人の関係が変わります。
マーセルスは、質屋の事件を口外せず、ロサンゼルスを去って戻らない条件でブッチを許しました。ブッチはゼッドのバイクを持ち出し、ファビアンを迎えに行きます。
ファビアンを乗せたブッチは、二人で走り去りました。
食堂のラストで、ジュールスは「撃たずに帰す」を選ぶ

パンプキンが欲しがったケースを守る
映画は時間を巻き戻し、ジミーの家で後始末を済ませた二人の朝食へ戻ります。同じ食堂では、パンプキンとハニー・バニーが強盗を始めました。冒頭にいたカップルです。
パンプキンは客から財布を集め、ジュールスのケースにも狙いをつけます。ジュールスは隙を突いてパンプキンを銃で制しました。ハニー・バニーはジュールスに銃を向け、トイレから戻ったヴィンセントも彼女を狙います。
誰かが指を動かせば、全員が撃ち合いかねない状況です。でも、ジュールスはヴィンセントを抑え、パンプキンを座らせて話します。朝食の席でここまで胃が縮むのも、なかなかです。
自分の金を渡すのは、相手を殺さずに済ませるため
ジュールスはパンプキンに、自分の財布に入った約1500ドルを与えます。ケースはマーセルスの物なので渡せないと告げました。金を差し出した理由は、パンプキンの命を買い、殺さずに済ませることです。
その朝、弾が当たらず助かったことを、ジュールスは神の介入だと受け止めています。ヴィンセントは偶然だと考えていましたが、ジュールスは殺し屋稼業をやめ、各地を歩いて暮らす意思を固めました。
そして、ブレットを殺す前にも口にした聖書の言葉を、パンプキンに語ります。以前は相手を怖がらせるために使っていた文句でした。今度はその中の「弱い者」「悪しき者」「羊飼い」に、自分と目の前の男を重ねます。
ジュールスは自分を人を脅かす側に置き、弱い者を助ける羊飼いになろうとしています。同じ言葉が、ブレットの部屋では殺害へ、食堂では強盗二人の生還へつながるんです。
パンプキンとハニー・バニーは生きて店を出ました。ジュールスとヴィンセントもケースを持って席を立ちます。
ケースの中身は謎のまま。魂説はファンの考察です
ケースから漏れるのは金色の光で、暗証番号は「666」です。マーセルスは首に絆創膏を貼っています。
中身が彼の魂だという説は、ファンの考察です。その説では、首の絆創膏を魂が抜けた痕と考えます。
あの光だけで、何か途方もなく価値のある品を想像してしまうんですよね。正体は謎のままなのに、ケースをのぞく人物の驚きに、こちらまでつられてしまいます。
食堂の対話をもう一度味わえる、Miramaxの公式クリップ
銃を向け合う食堂で、ジュールスが流血を避ける方法を提案する本編映像です(Miramax公式・英語音声)。
FAQ
パンプキンとリンゴ、ハニー・バニーとヨランダは同じ人?
パンプキンはリンゴ、ハニー・バニーはヨランダとも呼ばれる同じ二人です。カップルの呼び名と、食堂の対話で使われる名前が重なっています。
ジュールスの言葉は、聖書の一節をそのまま読んだもの?
「エゼキエル書25章17節」として語る長い文句は、映画用の脚色が加わったものです。聖書の該当節との共通部分に、正しい者の道や羊飼いについての文言を足しています。
まとめ
登場人物はよく喋りますが、人生の大きな決断は急にやってきます。予定が何度も崩れる中で、たった一度の選択が他人の生死まで変える。笑って聞いていた軽口まで思い出したくなるのは、その怖さが残るからだと思います。