『キル・ビル』の黄色いジャージを見ると、まず刀を振るう花嫁が浮かびます。あの花嫁の、怒りの奥には何があるのでしょう?
結末と主要人物の生死に触れるネタバレがあります。
『キル・ビル』は、2003年の『Vol.1』と2004年の『Vol.2』からなる映画二部作です。
花嫁の本名はベアトリクス・キドー。ビルが率いる毒蛇暗殺団の元メンバーで、コードネームはブラックマンバでした。彼女の復讐を動かすのは、頭に受けた一発と、おなかから失ったと思っていた子どもへの思いです。
花嫁はなぜ襲われた?妊娠から礼拝堂の銃撃まで

妊娠検査薬が変えた暗殺者の暮らし
ビルは暗殺団の首領であり、ベアトリクスの恋人でもありました。二人の関係が変わるきっかけは、彼女が仕事で訪れたロサンゼルスのホテルです。
妊娠検査薬に陽性反応が出た直後、敵の刺客カレン・キムが部屋に踏み込み、銃撃が始まります。ベアトリクスは妊娠を告げ、検査薬を示して説得しました。カレンはその結果を確かめ、彼女を殺す仕事を取りやめて去っていきます。
命を狙う相手に、おなかの子のために生きたいと訴える。ベアトリクスにとって、そこで守ろうとした命は、いつもの仕事の報酬よりずっと重いものになったんです。
彼女は子どもを暗殺者の暮らしから遠ざけるため、ビルへの連絡を断ち、別の男性との結婚を決めます。その新生活をビルに見つけられたのが、テキサス州エルパソの礼拝堂でした。
結婚式のリハーサルが襲撃現場に変わる
銃撃が起きたのは、結婚式のリハーサル中です。現れたビルは花嫁と話し、婚約者の前では父親のふりをしました。その穏やかな顔の裏で、暗殺団の仲間たちが礼拝堂へ向かっていたんです。
襲撃で婚約者や参列者が殺され、花嫁も重傷を負います。倒れた彼女は、おなかの子がビルの子であることを口にしました。その直後、ビルが彼女の頭を撃ちます。
病院へ運ばれた花嫁は昏睡状態になりました。暗殺団のエル・ドライバーが看護師に扮して毒を注射しようとした際には、ビルが電話で中止を命じます。無抵抗の彼女を殺すのは不名誉だ、という理屈です。礼拝堂での行為と並べると、勝手な線引きに腹が立ちますね。
目を覚ますまでに過ぎた時間は4年でした。花嫁は小さくなったおなかに触れ、子どもを失ったと思い込みます。さらに病院の職員バックが、眠っている彼女への性暴力に加担していたと知るんです。
花嫁は襲いかかる男とバックを殺し、バックの車を奪います。長い昏睡で動かしにくくなった脚を車内で取り戻し、かつての仲間への復讐に出発しました。
Vol.1の日本編|半蔵の刀とオーレンとの決闘
最初の標的はオーレン・イシイです。幼いころにヤクザに両親を殺された彼女は、自らも復讐を果たし、暗殺者を経て東京の裏社会の頂点に立っていました。復讐する花嫁の前に、かつて復讐した女がいる。この配置が、刀の勝負を一段苦くしています。
花嫁は先に沖縄へ渡り、刀鍛冶の服部半蔵を訪ねました。半蔵は刀作りをやめていましたが、標的がかつての弟子ビルだと知って協力します。花嫁に授けたのは、自ら作り上げた一振りの日本刀です。
寿司店を訪ねた話が、いつの間にか命懸けの刀の注文になる。お品書きの外にもほどがありますね!ここで手にした刀を携え、花嫁は東京の店「青葉屋」に乗り込みます。
GOGO夕張とクレイジー88を突破する
花嫁はオーレンの側近ソフィ・ファタールの腕を斬り、オーレンを呼び出しました。立ちはだかるのは、護衛の女子高生GOGO夕張と、戦闘集団クレイジー88です。
鎖付きの鉄球を操るGOGOとの戦いに勝ち、花嫁は押し寄せるクレイジー88も倒していきます。黄色い服、黒いスーツ、床に広がる血。あの大乱闘の華やかさには、かなりえげつない痛みが混ざっているんです。
最後に待つのは、雪の積もる庭でのオーレンとの一騎打ちでした。負傷した花嫁はさらに斬られ、追い詰められます。それでも刀を振り抜き、オーレンの頭頂部を斬り落として決着をつけました。
オーレンは最後に刀が本物の半蔵の作だと認め、倒れて死にます。花嫁が戦いをくぐり抜けた証しと、半蔵が引き受けた責任が、一つの刃に重なる場面です。
負傷したソフィからは、ほかの暗殺団員の情報を聞き出しました。花嫁は彼女を病院へ運び、生かしたままビルへの伝言役にします。ソフィはオーレンの側近で、復讐の標的となる元団員たちとは立場が違うんです。
ヴァニータとの対決|台所のシリアル箱に隠された銃
オーレンの次に狙われるのが、ヴァニータ・グリーンでした。映画の構成ではこの家での対決が先に登場しますが、出来事の時系列では日本での決闘が先です。時間を行き来する構成なので、花嫁の復讐がもう進んでいる状態から物語に飛び込む形になります。
ヴァニータはジーニー・ベルと名乗り、娘ニッキーのいる家庭で暮らしていました。玄関先で花嫁の顔を見た瞬間、二人は激しい殴り合いとナイフの勝負に突入します。
ところが娘が帰宅すると、二人は刃物を隠して大人の顔に戻りました。さっきまで家を壊す勢いで戦っていたのに、子どもの前では取り繕う。散らかった部屋だけが、その無理を引き受けています。
ヴァニータは娘のいる暮らしを守ろうとし、花嫁に命を助けてほしいと頼みます。花嫁の怒りは収まらず、二人は台所で向き合いました。そこでヴァニータがシリアル箱に隠した銃を撃つと、花嫁はとっさにナイフを投げ、彼女を殺します。
ニッキーは母が死ぬ場面を目撃していました。花嫁は、大人になっても復讐したければ自分を探すように告げ、家を去ります。自分が奪われたものを取り返す途中で、今度は子どもから母を奪ってしまった。その重さを抱えたまま、復讐は続くんです。
そして『Vol.1』の最後、ビルはソフィに、花嫁が娘の生存を知っているか尋ねます。娘は生きている。花嫁がまだ知らない事実が、前編の終わりで観客に届きます。
Vol.2のバドとエル|生き埋めから二つの決着へ

バドは花嫁を撃ち、棺ごと埋める
ビルの弟バドは、トレーラーハウスで暮らし、酒場で働いていました。兄から復讐の警告を受けており、夜に忍び寄った花嫁を岩塩入りの散弾で迎え撃ちます。
花嫁は動けなくなり、さらに鎮静剤を打たれました。バドは奪った半蔵の刀をエルへ売る話を持ちかけ、100万ドルで取引を決めます。刀を作った半蔵の思いまで、ここでは売り物にされるんです。
バドは花嫁を縛って棺に閉じ込め、地中に埋めます。彼女に与えたのは懐中電灯でした。目の前に蓋、体の周囲に土。大人数を相手にした剣の腕も、この狭さでは振るえません。
パイ・メイの修業が、棺を破る拳になる
土の中で花嫁が思い出すのは、ビルに紹介された武術の師パイ・メイとの修業です。高慢で容赦のない師匠に徹底して鍛えられ、彼女は短い距離から木を打ち抜く拳を身につけていました。
手を傷め、箸で食事をすることさえつらい日々でした。それでも修業を重ね、師の信頼を得ていきます。立派な剣士の物語に、米を口へ運ぶ苦労が入ってくるのが好きです。腕前って、こういう地味なところにも出ますよね。
花嫁は隠していたナイフで拘束を解き、蓋へ拳を打ち続けました。木を砕き、土をかき分け、ついに地上へ這い上がります!
墓から出た彼女は店で水を求め、その後バドの家へ戻りました。極限の脱出のあとに欲しいものが一杯の水というのは、妙に身に迫ります。
バドを殺すエルと、奪われる最後の片目
エルが持参した刀の代金には、毒蛇ブラックマンバが潜んでいました。札束に手を伸ばしたバドは蛇に噛まれ、死にます。花嫁のコードネームと同じ蛇を使うところまで、嫌な手口ですね。
エルはビルに電話し、バドを殺したのは花嫁だと偽りました。
そこへ戻った花嫁との戦いが始まりました。エルの手には買い取った花嫁の刀。花嫁はバドが持っていたもう一振りの半蔵の刀を見つけ、応戦します。バドはそれを質に入れたと話していましたが、実際には手元に残していたんです。
二人は狭いトレーラーの中で激しくぶつかり合います。その最中、エルは眼帯の理由とパイ・メイの死について明かしました。師を侮辱して片目を奪われ、その恨みから彼の食事に毒を入れて殺したのです。
師の最期を知った花嫁は、エルに残っていた片目を奪いました。両目を失ったエルは、毒蛇のいるトレーラーに取り残されます。エルのその後の生死は不明です。
娘B.B.との再会|ビルは父親でもあった
最後の標的を探す花嫁はメキシコへ向かい、ビルの父親代わりだったエステバンから居場所を聞き出します。銃を構えてたどり着いた先で出会ったのは、ビルと一緒に遊ぶ4歳の娘B.B.でした。
B.B.はビルに育てられ、目の前の女性が母親だと知っていたんです。娘はおもちゃの銃を向け、花嫁はその遊びに付き合って倒れたふりをします。本当の銃を構えて来た母が、娘のごっこ遊びでは撃たれ役になる。ここで急に、花嫁の体から戦いの力が抜けたように感じます。
再会した母娘は抱き合いました。ビルもその時間を保ち、花嫁は娘と一緒に過ごして寝かしつけます。B.B.が眠るまでは、復讐相手と家族の時間を共有するという、ひどくねじれた団らんです。
娘に接するビルの顔が穏やかだから、花嫁の胸中まで簡単には割り切れないんですよね。愛した相手への情と、その相手から受けた仕打ちへの怒りが、同じ部屋に置かれています。
ビルの最期と浴室の涙|花嫁は何を取り戻した?

自白剤を使うビルと、襲撃の理由
娘が眠ったあと、ビルは花嫁に自白剤を打ち、なぜ自分から去ったのか尋ねます。彼は彼女が消えたとき、仕事中に死んだと思って捜していました。見つけた先で別の男性との結婚準備をしていたため、裏切られたと受け止めたんです。
しかもビルは、礼拝堂にいた時点ではおなかの子を婚約者の子だと思っていました。失った恋人を見つけた喜びより、自分が捨てられた怒りが勝ち、襲撃に至ります。
ベアトリクスは、妊娠したときに子どものための暮らしを選んだ気持ちを話しました。ビルへの説明を避けたのも、娘と離されることを恐れたからです。二人が欲しかった将来の違いが、ようやく言葉になります。
私はこの会話のビルがいちばん怖いと思います。静かに話しながらも、相手の本心を聞くために薬まで使ってしまう。そばに置きたい人の意思を、自分の手で管理しようとする怖さです。
五点掌爆心拳で、ビルは五歩目に死ぬ
二人は刀を交え、花嫁はビルの攻撃をかわして体へ技を打ち込みました。決着の技は、パイ・メイから教わった五点掌爆心拳です。受けた者が五歩進むと命を落とすという秘伝でした。
パイ・メイがベアトリクスにこの技を教えていたと知り、ビルは驚きました。
ビルは立ち上がり、ゆっくり歩き出しました。一歩ずつ進み、五歩目で倒れて死にます。花嫁は娘を連れ、その場所を去りました。
あれほど派手な剣戟を重ねた二部作が、最後の相手とは座ったままの短い攻防で決まる。刀の見せ場を期待していた気持ちごと、静かな別れに連れていかれるんです。
泣き笑いには、安堵と悲しみが一緒にある
最後に、花嫁はホテルの浴室の床で泣き、笑いながら何度も感謝の言葉を口にします。そのあとB.B.のもとへ戻り、娘を抱きしめました。
あの涙には、娘を自分の腕に取り戻した安堵、戦いを終えた疲れ、愛していたビルを殺した悲しみが、いっぺんに押し寄せているのだと思います。喜ぶ顔と悲しむ顔をきれいに分けるほうが、むしろ難しいですよね。
母親になるために飛び出した人生で、自分の体も時間も奪われた。その4年を取り返すような感情が、ようやく一人になれた浴室であふれるんです。勝者の堂々とした顔より、こちらのほうがずっと身近に感じます。
日本版と米国版の違い、暴力描写の注意点
『Vol.1』の日本公開版と米国公開版では、青葉屋の大乱闘の色彩や暴力描写に差があります。米国版は戦闘の一部がモノクロになり、日本版はその部分もカラーです。日本版には暴力描写を増やした編集もあります。
作品には大量の流血、身体の切断、性暴力、生き埋めといった強い表現があります。軽快な音楽や漫画のような勢いもあって、ぱっと見の楽しさと刺激の強さには大きな差がある映画です。家族で気軽に流す一本としては、かなり手ごわいですね。
FAQ
花嫁の婚約者トミーは、何をしている人ですか?
レコード店を営む男性です。ベアトリクスはアーリーンという名前で新生活を送り、彼と結婚する予定でした。音楽の話をして暮らせる店というのは、暗殺の仕事から離れた彼女の望みを想像させます。
B.B.と寝る前に見ていた映画は何ですか?
『Shogun Assassin』です。日本の『子連れ狼』映画を再編集した作品でした。寝る前の一本としてはずいぶん血の気が多い選択ですが、母娘の場面に親子の映画を重ねるあたり、最後まで映画好きの遊び心が濃いですね。
まとめ
花嫁は五点掌爆心拳でビルを倒し、娘B.B.を連れて去ります。ホテルの浴室では泣き笑いしながら感謝を繰り返し、そのあと娘を抱きしめました。