好きなバンドが同じだと分かっただけで、相手との距離が急に縮まった気がする。トムの舞い上がり方には、笑う前に身に覚えがあるんですよね。
『(500)日のサマー』は、マーク・ウェブ監督による2009年の映画です。
※ラストまでのネタバレがあります。
映画の日付は前後し、親密だった日と別れたあとの日が交ざって進みます。
出会いからIKEAのデートへ、二人は何を望んでいた?

ザ・スミスとカラオケが近づけた二人
ロサンゼルスのグリーティングカード会社で、カードに載せる言葉を考えているトム。本当は建築家になりたい彼が、社長の新しいアシスタントとして入社したサマーに出会った日から、500日のカウントが始まります。
エレベーターで、トムのヘッドホンから漏れるザ・スミスの曲にサマーが反応しました。同じ音楽が好きだと分かり、トムは彼女にますますひかれていきます。
職場のカラオケでは、二人の恋愛観が早くもぶつかりました。トムは運命の恋を信じる人で、サマーは自由で気軽な関係を望む人です。恋人を求めていない、誰かに縛られたくないという彼女の言葉にも、トムの熱は冷めません。
しかも、好意を尋ねられると、トム自身も友達として好きだとごまかしてしまうんです。恋の話になると急に歯切れが悪くなるの、カラオケの選曲より難しい問題ですね。
コピー室のキスと、家具売り場の家族ごっこ
二人の距離を一気に縮めたのは、職場のコピー室でサマーからしたキスでした。トムにとっては、期待がぐっと大きくなる出来事です。
IKEAでは、展示されたキッチンや家具を使って、一緒に暮らしているような遊びを楽しみます。水の出ない流しを故障扱いして笑い合う姿は、見ているこちらまでにやけるほど。
その一方で、サマーは真剣な交際を求めていないと改めて話しました。トムも気楽にやっていこうと応じ、二人は体の関係を持ちます。
二人が共有していたのは親密な時間で、将来への約束には温度差がありました。
恋人としての安心がほしいトムと、気軽に過ごしたいサマー
丘のベンチで話した建築の夢
トムはサマーを、街の建物を見渡せるお気に入りのベンチへ連れていきます。建築への思いを語りました。普段の仕事では出し切れない、自分のやりたいことを話せる時間です。
サマーの部屋に招かれ、彼女の夢の話も聞くようになったトムは、特別な存在になれたと感じます。
ただ、二人の関係を尋ねると、サマーはお互い幸せなら名前をつけなくてもいいと答えます。トムは笑って受け入れますが、不安は残ったまま。聞きたい答えと違ったときに笑ってしまう感じ、なかなかつらいですね。
バーのけんかで、トムの不安が噴き出す
サマーに言い寄る男にバーでからかわれ、トムは相手を殴ってしまいます。殴り返されて傷を負ったトムは、彼女のためにしたことだと主張しました。
サマーはその行動に腹を立てます。二人が恋人なのかという話にもなり、トムは、デートもキスもしている自分たちはカップルだと訴えるんです。これまで抑えていた、関係をはっきりさせたい気持ちが出てしまいました。
その後、二人は仲直りしました。関係は続き、ベッドで過去の恋愛の話をする時間も戻ります。
同じ冗談が通じなくなり、パンケーキの席で別れが来る
楽しかったIKEAが、気まずい場所になる
282日目のIKEAでは、トムが以前と同じ流しの冗談を言っても、サマーは乗ってきません。家具売り場は同じでも、二人の空気はすっかり変わっていました。
290日目には映画『卒業』を一緒に観たあと、パンケーキを食べる店でサマーが関係を終わらせようとします。けんかが増え、幸せとは言えないというのが彼女の気持ちです。
サマーは親しい友人としてトムに接しようとしますが、彼はやり直したいと願います。別れ話の最中にも食事をする彼女と、話を飲み込めずにいる彼。その落差がきついんですよね。パンケーキの甘さではどうにもなりません。
仕事にも、新しいデートにもサマーが入り込む
サマーは会社を離れ、トムは復縁を望み続けます。彼女からの返事も友達として会うというものでした。
失恋は仕事にも響きます。明るい言葉を考える調子が戻らず、上司はトムに、お悔やみなど悲しみに寄り添うカードを担当させました。気分が仕事内容にここまで直結する職場、逃げ場が少ないです。
友人の紹介でアリソンとデートしても、トムはサマーの愚痴ばかり。目の前にいる相手との時間を楽しむ余裕がなく、デートはうまくいきません。
タイトルの500日は、出会いから別れ後の生活までを含む長さです。
結婚式のダンスから、パーティーの婚約指輪へ

再会でふくらんだ、復縁への期待
402日目、同僚の結婚式へ向かう列車で、トムはサマーと再会します。彼女から声をかけられ、コーヒーを飲みながら話すうちに、久しぶりの気安さが戻りました。
結婚式では一緒に踊り、サマーは自宅のパーティーにトムを誘います。彼は、この親しげな態度を復縁の可能性として受け取ったんです。いったん離れたあとに優しくされると、期待を止めるのは難しいですよね。
画面の左右で離れていく「期待」と「現実」
パーティーでは画面が二つに分かれます。左はトムの期待する展開、右は実際に起きていることです。恋が戻るはずだと思うトムと、友人として彼を迎えるサマーの距離が、同時に進んでいきます。
トムは、サマーが別の男性と婚約したと指輪で知りました。彼は会場を去り、さらに深く落ち込みます。
カード会社を辞め、建築の仕事に向き直る

妹レイチェルが気づかせた、思い出の偏り
トムは部屋にこもり、酒とジャンクフードに頼る生活になります。仕事への意欲も失い、出社しても、カードに載るきれいな言葉や同僚の案への不満をぶつけてしまいました。ついには、その場で会社を辞めます。
そんな兄に妹のレイチェルが指摘するのは、いい思い出ばかり選んでいることでした。トムは過去を振り返り、見過ごしていた二人のかみ合わなさも思い出していきます。
失恋した本人より、妹のほうがずいぶん頼もしい。慰めてもらうつもりが、自分の思い出の編集まで見抜かれるんですから。
待っていた夢を、自分で仕事にしようとする
トムは建築の仕事を目指し、応募用の作品集を作ります。建築事務所に仕事を求め、面接を受ける生活へ進みました。
恋愛の相手が決まるのを待たずに、自分のやりたかったことに手をつける。ここは、私はうれしくなるところでした!
この時期、サマーも結婚式を挙げます。二人の生活は、それぞれ違う方向へ進んでいるんです。
488日目のベンチで、サマーが結婚を選んだ理由が分かる
お気に入りのベンチで再会したとき、サマーはすでに結婚しています。トムは、真剣な関係を望んでいなかった彼女が、なぜ妻になったのかを尋ねました。
サマーの答えは、トムに対しては持てなかった確信を、夫には持てたというものでした。
彼女は、本を読んでいた店で夫に話しかけられた出会いを、運命だったと感じています。トムは、それまで信じていた運命や愛など嘘だったとこぼしますが、サマーは、彼の考えは正しかったと答えました。
サマーが立ち去るとき、トムは彼女の幸せを願う言葉をかけました。笑顔で応じるサマー。引き留め続けていた彼が、今度は彼女を送り出す場面です。
500日目、建築事務所で出会った女性はオータム

最後の舞台は、建築事務所の面接の待合室です。トムは、同じ仕事に応募している女性と話し始めます。
二人は、街を見渡すあのお気に入りの場所の話で意気投合しました。
トムは彼女をコーヒーに誘います。最初は断った彼女も、考え直して誘いを受けました。自己紹介で明かした名前は、オータムです。
日数の表示が新しい「1日目」に切り替わり、映画は終わります。
結末の考察――サマーを責めたくなる気持ちと、オータムへの期待
「最初に言ったから」で、傷つく気持ちは片づかない
サマーに腹が立つ人の気持ちは分かります。軽い関係という言葉を知っていても、キスをしたり、秘密を聞いたりすれば、期待まできれいに割り切るのは難しいでしょう。
私は、トムの傷つき方には共感しつつ、彼の望む未来にサマーを合わせようとする危うさも感じます。強く好きになればなるほど、相手も同じ気持ちでいてほしい。その願いが強すぎると、返ってきた言葉まで自分に都合よく聞こえてしまうんですよね。
監督のマーク・ウェブは、サマーの内面に十分な関心を向けていないのはトムのほうだという制作意図を語っています。私は、主人公の痛みに近づくほど、相手への想像力が試される映画だと感じました。
夏から秋へ。希望と「また同じこと?」が残る
サマーは夏、オータムは秋を意味する名前です。季節が移るように、トムの生活にも変化が訪れたと受け取れます。
ただ、日数がまた数え始められることで、同じ恋の思い込みを繰り返すのでは、という解釈もできます。名前の気の利いた偶然に、こちらまで運命を感じたくなるのが面白いところですね。
私には、新しい相手をこれから知っていける余地が、このラストの希望に思えます。コーヒーの約束一つで胸が弾むくらいの、小さな始まり。その先を幸せにできるかは、二人が重ねる時間にかかっているのでしょう。
もう一度観たくなったら、公式予告の音楽も楽しい
配給元サーチライト・ピクチャーズの公式予告です(英語)。
本編でトムが上機嫌で踊る場面の曲は、ホール&オーツの「ユー・メイク・マイ・ドリームス」です。街の人まで踊り出す、あの浮かれっぷりがたまりません。出勤の足取りにあれだけ差が出ると、本人が黙っていても何かあったと分かりそうです!
映画を観直すなら、曲が鳴る瞬間の気分にもつい耳が向きます。失恋の映画なのに、音楽をまた聴きたくなる楽しさもあるんですよね。
FAQ
なぜ『卒業』の結末をトムが誤解したと言われるのですか?
冒頭のナレーションで、トムが映画『卒業』を読み違えたと紹介されるからです。私は、恋が実った瞬間を幸せの完成として受け取りたがる、彼の性格につながる表現だと解釈しています。
実際の恋愛経験が元になっているのですか?
脚本を共同執筆したスコット・ノイスタッター自身の失恋経験が、着想の元になりました。
トムとサマーを演じているのは誰ですか?
トム役はジョセフ・ゴードン=レヴィット、サマー役はズーイー・デシャネルです。
まとめ
誰かと別れた記憶を、ずっと失敗の一言で呼び続けるのはしんどいですよね。私は、あの500日にも値打ちがあったと思いたくなる、この映画の少し照れくさい後味が好きです。
好きだったことまで、なかったことにしなくていい。観終わると、そんな気持ちになる映画でした。