翼の印がついた小包が、妙に気になるんですよね。無人島なら水も食料も欲しい。そんなときに、なぜチャックは一箱だけを大切に守るのでしょうか。
結末までのネタバレがあります。
『キャスト・アウェイ』は、ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の2000年の映画です。
チャックは生還しますが、恋人ケリーとの暮らしには戻れず、最後は十字路に立ちます。救助された喜びのすぐ隣に、取り戻せない時間がある。だから、あのラストの笑顔が胸に残るんです。
予定に追われていたチャックが、無人島に取り残される
クリスマスの呼び出しと、ケリーの懐中時計
チャック・ノーランドは、配送会社フェデックスで仕事の効率を改善するため、世界中を飛び回っています。荷物を時間どおりに届けることに厳しく、自分の生活も時計に合わせる人です。
恋人のケリー・フレアーズとは結婚を考えています。ところが、親族と過ごすクリスマスの食事中にも仕事の呼び出しが入り、マレーシアへ向かうことになりました。仕事の電話、せめて食後まで待ってほしいですよね。
空港でケリーが渡したのは、祖父の形見の懐中時計。中には彼女の写真が入っています。チャックも小さなプレゼントの箱を託しました。二人の日常は、そこで途切れます。
墜落後に残ったのは、自分の体と流れ着いた荷物
チャックの乗った貨物機は嵐の中で墜落します。救命ボートで海を漂い、たどり着いたのが無人島でした。
浜には機内の荷物が流れ着き、やがて乗員の遺体も見つかります。チャックはその乗員を埋葬しました。遠くの光を目指してボートで沖へ出ようとしたときには、高波に押し戻され、サンゴで脚を傷つけます。
陸にいるのに、帰る手段がない。飲み水を得ることも、夜をしのぐことも、その日から自分一人の仕事になったんです。
荷物を道具に変え、ウィルソンと4年間を生きる

スケート靴もドレスも、生き延びるために使う
チャックはココナッツを割る方法を試し、飲み水や食べ物を探します。助けを待ちながら保管していた荷物も開封しました。出てきたのは、ビデオテープ、スケート靴、ドレス、バレーボールなどです。
スケート靴の刃は物を切る道具に、ドレスの生地は網になります。すぐに食べられる物が欲しいところにスケート靴。荷ほどきのがっかり感まで、こちらに伝わってきますね。それでも、彼は用途を見つけていくんです。
一方で、翼の印がある箱だけは封をしたまま残します。
火起こしにも苦労しますが、ついに火がつくと、跳びはねるほど喜びます! カニを焼けるようになることが、あんなに大きな勝利になるとは。日頃、コンロのつまみを回すだけで済む身には、ずしんとくる場面です。
血の手形に顔を描くと、話し相手ができた
ウィルソンが生まれるきっかけは、火起こしの最中のけがでした。手を傷つけたチャックが腹を立ててボールを投げ、表面に血の手形がつきます。その跡に顔を描き、ウィルソンと名づけたのです。
彼はウィルソンに話しかけ、ケリーのことを語り、やがて口論までします。相手は無言。それでもチャックには、言葉を向ける相手がいるんですよね。
脱出の準備中、怒りに任せてウィルソンを洞窟の外へ投げてしまった夜には、慌てて捜しに出かけます。見つけると謝り、大事に連れ戻しました。四年間の相棒を、彼自身がどれほど頼りにしているかが伝わります。
体の痛みも厳しく、歯痛に耐えかねて、自分で歯を抜くことにもなります。スケート靴の刃と石を使う抜歯は、痛みの強い場面です。観ている側まで、口元に力が入ってしまいます。
簡易トイレの壁を帆にして脱出し、海でウィルソンを失う
島の外へ出るきっかけは、漂着した壁材
四年が過ぎたころ、簡易トイレのプラスチックの壁材が漂着します。チャックは、それを風を受ける帆にできると考えました。木を組み、ビデオテープなどを結びつける材料にして、いかだを作ります。
最初の脱出を阻んだのは、浜の沖で砕ける大きな波です。今回は風と時期を考え、帆を使ってその波を越える準備をしました。壁材には、守ってきた荷物と同じ翼の印を描きます。
ウィルソンと小包を乗せ、チャックはいかだを漕ぎ出します。波に向かって進み、帆を立てて、ついに沖へ出ました。漂着物を工夫する技術と、風を待つ判断が、島を離れる力になったのです。
泳いでも届かない相棒と、通りかかった船
海上では嵐に遭い、帆を失って、いかだも傷みます。その後、固定が外れたウィルソンが海へ流されてしまいました。
気づいたチャックは海に入り、必死に追いかけます。でも、ウィルソンとの距離は広がるばかり。いかだから離れれば、自分の命も危うくなります。
彼はいかだに戻り、謝りながら泣き崩れました。食料や道具を失う苦しさとは違う、友達との別れです。あれほど会話を重ねてきた相手が、小さく遠ざかっていくのがつらいんですよね。
生きる気力まで失ったチャックは、オールを海へ放します。衰弱して漂う彼のそばを、やがて大きな貨物船が通りかかりました。チャックは救助され、文明のある世界へ戻ります。
ケリーとの再会で直面する、二人に流れた時間

帰還を迎えたのは、ケリーの夫だった
帰国したチャックを、フェデックスの人々は盛大に迎えます。ところが、彼の前に現れたのはケリーの夫、ジェリーでした。ケリーは動揺が大きく、その場でチャックに会える状態ではなかったのです。
世間では、チャックは亡くなったと思われていました。その間にケリーは結婚し、娘を育てています。チャックが島で一日ずつ命をつないでいた間、彼女も喪失を抱えながら生活を続けていたんですね。
懐中時計と車を返し合い、雨の中で抱き合う
その夜、チャックはケリーの家を訪ねます。コーヒーを飲みながら話し、祖父の形見だから家族のもとにあるほうがいいと、懐中時計を返しました。ケリーの写真は手元に残しています。
ケリーは捜索の場所などを書き込んだ地図を見せ、チャックの車も保管していたことを明かしました。
車の鍵を受け取ったチャックが去ろうとすると、ケリーは雨の中を追いかけます。二人は抱き合ってキスをし、今も愛していると確かめ合いました。
ただ、ケリーには夫と娘がいます。二人は愛情を残したまま別れ、ケリーは家族のいる家へ戻ります。チャックは、彼女が築いた生活を尊重しました。
ここは本当に苦いですね。好きな気持ちが通じれば一緒に帰れる、と期待してしまう。けれど、家の中には娘が眠っているんです。どちらの人生にも、簡単に置き去りにできる人がいません。
スタンへの告白で分かる、チャックの絶望と希望
その後、チャックは友人のスタンに、島で自死を考えるほど追い詰められた経験を打ち明けます。思いどおりにならない状況に絶望し、それでも生き続けたこと。壁材が流れ着き、脱出に希望を持てたことも話しました。
ケリーを思う時間が、島の彼を支えていたのです。チャックは、明日にはまた日が昇り、潮が何を運んでくるか分からない、と語ります。壁材の漂着を体験した人の言葉だから、私はこの先の希望を信じたくなりました。
最後の配達と十字路――女性の車にあった翼の印

小包を届けた先は、差出人の家
チャックは、島から運んできた小包を返すため、テキサスへ車を走らせます。向かった先は、荷物を送った差出人の家です。
家の主は不在でした。彼は玄関先に箱を置き、命を救われたことへの感謝をメモに残します。生きるために守っていた荷物が、ようやく人の暮らす場所へ届いたんです。
箱を抱えていた人が、箱から手を離して先へ進む。この静かな配達には、嵐を越えたときとは違う安堵を感じます。
道を教えた女性は、翼の荷物を送った人だった
配達後、チャックは近くの十字路で立ち止まります。そこへピックアップトラックに乗った女性が現れ、それぞれの道がどこへ続くかを教えてくれました。
女性が走り去ると、その車の後ろに、小包と同じ翼の印が見えます。彼女は箱の差出人、ベッティーナ・ピーターソンです。
チャックは交差する道を見渡し、女性が去った方向を向いて微笑みます。結末のチャックは、十字路に立ったまま、新しい出会いのほうへ顔を向けているのです。
私にはこの笑顔が、好奇心を取り戻した瞬間に見えます。「この先、何があるんだろう」と思えること。その小さな変化を、私は希望として受け取りました。
翼の箱の中身は? ラストの恋をどう考えるか
中身は不明でも、「届ける仕事」が残っていた【考察】
翼の箱の中身は不明です。最後の配達でも、封はされたままでした。
私が気になるのは、チャックに「まだ済んでいない仕事」があったことです。いつかこの荷物を人に返す。その目標には、島の外にいる誰かと再びつながる未来があります。
箱を守る行為は、配送の仕事をしていた自分を保つ支えだった、とも考えられます。便利な道具は体を助け、未完了の配達は先の予定を残した。そんな役割の違いを感じるんです。
女性との恋は、これからへの期待【考察】
ベッティーナとの出会いには、新しい恋の始まりを期待したくなりますよね。
二人が付き合うか、結婚するかは、その先の想像です。チャックの人生には、彼女との恋も、別の出会いもありえます。
四つの道は、自分で行き先を選べる自由の象徴、と私は考えます。島では風と波に阻まれていた人が、今度は広い陸の上で迷っている。迷える場所まで来たんですよね。
公式予告で、チャックの声と表情を見返す
20th Century Studios公式の『キャスト・アウェイ』予告です。
もう一度観るなら、火を起こした夜の声と、ウィルソンを呼ぶ声を聞き比べたいです。得意げな大声と、届いてほしい叫び。同じ人の声なのに、こちらの胸への響き方がまるで違います。
FAQ
ウィルソンという名前は、どこから?
バレーボールのメーカー、ウィルソンが由来です。製品の名前を、そのまま友達の名前にしたんですね。
ケリーの夫ジェリーは、チャックと面識がある?
ジェリー・ロベットは、以前チャックの歯を治療した歯科医です。帰還後の対面は、知っている相手から思いがけない関係を告げられる、複雑な再会でもありました。
救助されてから帰国まで、どれくらい?
救助された四週間後に帰国します。
まとめ
冒頭で分単位の速さを求めていた配達が、最後には何年越しの感謝を届ける行為に変わります。チャックが仕事に向ける気持ちまで変わったようで、私はこの締め方が好きです。
あの十字路には、予定表の空欄を怖がらずにいられる人が立っている。喪失の大きい映画の最後に、そんな穏やかさを感じました。