船の銃声に息をのみ、スマホの通知でようやく息をつく。『MIU404』の最終回は、見ているこちらまで相棒を失いかけた気分になります。飲み物を取りに立つ暇も、なかなかくれません。
※最終話までのネタバレがあります。
『MIU404』は、TBSで2020年に放送された全11話の刑事ドラマです。伊吹藍と志摩一未が久住を追った先には、銃を握る二人の危うさと、仲間の声で動き出す捜査が待っていました。
船内の銃撃から五輪開催へ進む時間は、二人の悪夢

志摩が撃たれ、伊吹が久住を射殺する展開は、薬物の影響で意識を失ったあいだの悪夢です。
悪夢の中では、志摩が久住に銃を向けたところで、久住の仲間に背後から撃たれました。その後に目を覚ました伊吹は、血を流す志摩を見つけ、怒りのまま久住を撃ちます。伊吹が呼びかける相棒は、もう返事をしないんです。
さらに時間が進み、東京五輪が開催される2020年夏へ。ここまでが、現実と食い違う未来につながる流れでした。
現実の時計は、まだ2019年10月15日です。病院で陣馬耕平が意識を取り戻し、九重世人が伊吹のスマホに知らせを送ります。通知をきっかけに起きた伊吹が志摩を起こし、二人は互いの無事を確かめました。相棒が隣で生きている! それだけで、船の空気まで変わったように感じます。
この悪夢を見た二人は、どんなところまで追い詰められていたのでしょうか。前半から続く失敗と後悔が、あの銃口につながっています。
伊吹と志摩が相棒になる一方、成川は久住に拾われる
伊吹と志摩が組むのは、警視庁の第4機動捜査隊。事件が起きた直後に現場へ急ぎ、初動捜査を担う部署です。足と勘で飛び出す伊吹に、観察と先読みで動く志摩。
二人が各地の事件を追う裏で、長く尾を引くのが第3話の虚偽通報事件です。薬物問題で廃部になった高校の陸上部員たちが、警察から逃げ切る遊びを繰り返します。その一人、成川岳は九重の追跡を振り切り、やがて行き場を失いました。
そこで近づくのが久住です。住む場所を紹介し、味方のように振る舞いながら、成川を薬物と犯罪の側へ引き込んでいきます。第7話では、成川がドーナツEPの入ったメロンソーダを口にしました。明るい色の飲み物なのに、見ていて胃が冷える場面です。
九重には、取り逃がした少年への後悔が残ります。一度の追跡で離れた手が、その後の大きな事件にまでつながってしまう。犯人を追う仕事の重さを、新人の九重も身をもって知ることになります。
志摩には香坂、伊吹にはガマさんを救えなかった過去がある
第6話で分かる、香坂の最後の通報
志摩の元相棒・香坂は、捜査で証拠を捏造し、志摩から厳しく責められた後に亡くなりました。志摩は香坂の呼びかけに応じなかった自分を責め続け、周囲には「相棒殺し」という噂まで広がっています。
第6話で伊吹が見つけるのは、香坂の通報によって助かった女性の存在でした。香坂は屋上から住居への侵入者を目撃して110番し、自らも向かおうと階段を急ぐ途中で転落したと分かります。失敗した刑事が、最後に誰かの命を救っていたんです。
志摩にとっては、亡くなった相棒の最後を知り直す出来事でした。伊吹のしつこさが、このときばかりはありがたい。普段なら会話の途中で音量を下げたくなる勢いも、こういう場面では頼もしく感じます。
第8話では、恩人の蒲郡が復讐殺人を犯す
伊吹を立ち直らせ、刑事になる道へ導いた恩人が、ガマさんこと蒲郡です。ところが第8話で、蒲郡は妻をひき逃げで死なせた堀内を殺したと判明します。過去の連続殺人に似せた手口で、復讐を果たしていました。
妻を失った事故で、蒲郡自身も頭を負傷していました。その記憶が戻るにつれて犯人への憎しみを深め、刑事だった自分を捨てても相手を許さないというところまで進んでしまいます。伊吹は、尊敬していた人を逮捕する側に立たされました。
志摩は、自分の隣で崩れる伊吹に手を差し伸べます。かつて香坂の声を受け止められなかった人が、今度は目の前の相棒を支える。ここは、二人が互いを助ける関係に変わった場面だと思います。
麦と成川の救出、エトリの死、偽の爆破映像が続く

第9話で井戸から救い出した二人
久住の世話になっていた成川は、賞金目当てで羽野麦を捜し、エトリへ差し出す役を引き受けます。麦は裏カジノ事件の情報提供者で、エトリから命を狙われ、桔梗ゆづるに保護されていた女性です。
成川は麦を危険にさらした末、自分もエトリに井戸へ落とされました。助けを求める二人の声を伊吹が捉え、4機捜が救出にたどり着きます。九重も井戸へ入り、今度こそ成川の手をつかみました。成川は救助後、麦を誘い出したことや薬物を売ったことを話し、九重はその告白を受け止めます。
逮捕されたエトリには、久住が操るドローンが接近。護送車が爆発し、エトリは死亡しました。大物を捕まえてようやくひと息、というところにこれです。久住は警察にも暴力団にも容赦なく手を伸ばします。
第10話のデマは、人の命に届いてしまう
動画配信者のRECは、エトリの死や4機捜をめぐる陰謀論を広げ、久住にも利用されます。伊吹と志摩はRECを介して久住へ接触し、居場所を追いますが、久住は偽の同時多発爆破映像を拡散させました。
二人は病院が爆破されたという情報を受け、救助へ向かいます。その間に久住は逃走。薬物工場を調べていた陣馬は、ドーナツEPを運ぶトラックにはねられます。
爆破映像は偽物でも、通報の混乱による救急搬送の遅れは現実に起き、陣馬の容体を悪化させました。志摩は判断を誤ったと自分を責め、九重も相棒のそばにいられなかったことを悔やみます。
メロンパン号までテロに関係する車として拡散され、伊吹と志摩は別の車両へ。仕事用の車をここまで覚えられたら、覆面どころじゃないですよね。桔梗は隊長を退くことになり、4機捜は人も気持ちもばらばらになっていきました。
スマホケースを追った志摩と、先回りした伊吹が船へ向かう
志摩は、釈放されたRECの情報収集力を借り、久住が持つ特殊なスマホケースの販売経路を調べます。九重の協力で購入者の情報を得ると、東京湾マリーナが浮かび上がりました。顔も住所もつかみにくい相手に、持ち物から迫ったんです。
伊吹は、様子のおかしい志摩を盗聴していました。ところが、相棒を信じた自分への後悔を口にする部分で聞くのをやめてしまいます。志摩がその後に続けた、伊吹を正しい刑事だと認める言葉まで耳に入れば、二人の動きも変わったかもしれません。
腹を立てた伊吹は単独でマリーナへ向かい、久住と対面します。久住を許せるかを自分で見極めようとする伊吹と、警察の規則から外れてでも捕まえようとする志摩。性格は正反対なのに、二人とも一人で決着をつける方向へ寄っていたのが怖いところです。
久住を追って船へ入った伊吹は、薬物の製造室に閉じ込められました。遅れて駆けつけた志摩は伊吹を引きずり出しますが、自分も薬物を吸わされ、意識を失います。相手に背を向けていた二人が、同じ船で倒れるところまで追い込まれたのでした。
現実の決着は屋形船。久住を逮捕し、傷の手当てをする

桔梗の指揮と九重の運転で、追跡がつながる
覚醒後、伊吹と志摩は海へ飛び込み、別の船に助けられて陸へ戻ります。状況を知った桔梗は我孫子を説得し、久住を追う指揮を取りました。海上の警戒も強まり、久住は陸へ逃れます。
二人を迎えに来るのは、メロンパン号を運転する九重です。志摩も単独で動こうとしたことを伊吹に謝り、捜査は仲間との協力で再開されました。今度は、桔梗が動かす捜査網も、九重の車もあります。
屋形船にいる久住を見つけると、伊吹は走り、志摩は自転車で追いかけました。九重も車で逃げ道をふさぎます。伊吹、そこまで速く走れるんですか! 座って見ている側まで息切れする追跡です。
久住が頼った相手は、ドーナツEPで酔っていた
追い詰められた久住は橋に頭をぶつけ、額から血を流します。そして船内へ逃げ込み、警察に殺されると叫びました。傷を警察の暴力のせいにし、周囲を自分の味方につけようとしたんです。
ところが、貸し切りの船の客たちはドーナツEPで酔い、血を流す久住を笑って眺めます。薬物を広め、人を軽蔑してきた久住が、自分の助けを求める声まで届かない場所へ追い込まれました。派手に人を操っていた男の、あまりに寒々しい行き止まりです。
伊吹は久住を許さないまま、生きた状態で逮捕する道を選びます。志摩は流れる血を拭い、傷を押さえました。目の前の相手がどれほど憎くても、二人の手は命をつなぐために動きます。
ガマさんの復讐を見た伊吹が、殺すことと許すことの間に、自分の答えをつくった。私はこの手当てに、銃撃戦以上の決着を感じます。怒りを抱えた刑事が、なお刑事として相手に触れる場面でした。
久住の正体は身元不明。泥水の発言は何を意味する?
逮捕後も、本名や戸籍は不明のままでした。生い立ちを尋ねる刑事に対し、久住は相手が欲しがる不幸話を選ばせるような言い方をし、「俺はお前たちの物語にはならない」と告げて黙秘します。
一方、破壊的な考えは本人の言葉に表れています。薬物に溺れる人々を軽蔑し、皆が泥水で流されればいいと語り、神は一瞬で人や町を消すほど残酷だとも口にしました。他人の破滅を、離れた場所から眺めるような姿勢です。
久住を災害の被災者とする説は、泥水や町が消えるという発言を手がかりにした考察です。災害を連想させる言葉の不穏さと、刑事の質問をはぐらかす態度が同居しています。
動機に同情できる事情を探したくなるのは、見ているこちらも同じですよね。その気持ちまで先回りして、生い立ちを選ばせようとするのが久住の嫌らしさです。私は、最後の取調べにも人を操ろうとする癖を感じました。
陣馬・九重・桔梗のその後と、2020年夏の東京

事件が終わると、4機捜の仲間たちにもそれぞれの生活が戻ってきます。結成時と同じ席に全員が座り続ける形から、それぞれの場所で仕事を続ける形へ変わりました。
| 人物 | その後 |
|---|---|
| 陣馬耕平 | 退院できるまでに回復。現場復帰へ向かいます。 |
| 九重世人 | 異動先の警察庁で、情報提供者の保護制度などの改革案を提出しました。 |
| 桔梗ゆづる | 西武蔵野署の署長に就きます。 |
そしてラストは、新型コロナの流行で五輪が延期された2020年夏の東京です。マスク姿の伊吹と志摩が、国立競技場のそばを走ります。二人はこれからも判断を間違えるかもしれないと話し、それでもそこからやり直すことを認め合いました。
最後の無線は「機捜404。ゼロ地点から向かいます」。先の見えない街へ、再び二人で出動します。
明日の失敗を気にする会話は、毎日判断をしくじりながら仕事をする側にも近いんです。大きな事件を解決した後なのに、二人はいつもの調子でぼやきます。明日の勤務もあるんですよね。
見返したくなるのは、事件の合間にある二人の軽口
終盤を知ってからの第6話「リフレイン」では、伊吹が自分の生命線の長さを持ち出して志摩を和ませるやり取りに、妙にほっとします。そんな手相で保証されても困るのに、志摩にはあの勢いがありがたかったのでしょう。
第8話「君の笑顔」と並べると、普段のからかい合いの中にある気遣いも気になります。大事件の説明をしているときより、くだらないことを言い合っている二人を、もう少し見ていたくなるんですよね。
二人の掛け合いや特典映像を紹介する、『MIU404 -ディレクターズカット版-』DVD&Blu-rayの公式PVです。
FAQ
最終回はいつ放送され、サブタイトルは何でしたか?
2020年9月4日放送の第11話で、サブタイトルは「ゼロ」です。放送前には空欄で予告されていた題名が、最後の言葉と重なりました。
原作の小説や漫画はありますか?
野木亜紀子によるオリジナル脚本のドラマです。二人の性格や個々の事件を通じて、最悪の事態が起きる前に人を救えるかという問いを積み上げています。
まとめ
『MIU404』の結末で救いを感じるのは、助ける側と助けられる側が入れ替わることです。仲間たちが声を掛け合い、迎えに行き、指揮を取り、走ります。その積み重ねでようやく届いた逮捕だから、二人の軽口が戻ることまでうれしいんですよね。
あの車が近くを通ったら、まず中の言い合いに気づきそうです。それでも、困ったときには来てほしい。そんな刑事たちとして終わるところが、このドラマの好きなところです。