ここからは、クリント・イーストウッド監督の2003年映画『ミスティック・リバー』劇場公開版の結末までのネタバレです。原作はデニス・ルヘインの小説で、映画とは別の作品です。
最後のパレードで「ジミー、普通にそこに立っていていいの?」と引っかかりますよね。犯人は分かったはずなのに、エンドロールが流れてもリモコンを置いて考えたくなる。ずいぶん後片付けの難しい映画です。
ケイティを殺したのはレイ・ハリス・ジュニアとジョン。ジミーに殺されたデイヴは、ケイティ殺害の犯人ではありません。この取り違えが、事件解決のあとまで重く残ります。
真犯人はレイとジョン。ブレンダンとデイヴは何をした?

犯人のレイ・ハリス・ジュニア(Ray Harris Jr.)は、ケイティの恋人ブレンダンの弟です。普段は話さず、「サイレント・レイ」と呼ばれる少年。その友人ジョン(John O'Shea)とともにケイティを殺害し、警察に捕まります。
ややこしいのは、レイという名前が父と息子の両方に出てくること。字幕を追っているうちに、頭の中で家族の名札を付け直したくなりますね。
| 人物 | 事件との関わり |
|---|---|
| レイ・ジュニアとジョン | ケイティ殺害の実行犯2人。ブレンダンの弟とその友人です。 |
| ブレンダン | ケイティの恋人。弟たちの関与に気づき、問い詰めます。 |
| デイヴ | 事件の夜、少年に性的虐待を加えていた別の男を殺しています。 |
| ジミー | 娘ケイティの父親。デイヴを犯人と思い込み、殺害します。 |
| 父親のレイ | ブレンダンとレイ・ジュニアの父。過去にジミーに殺されています。 |
ケイティの事件だけを追うと、デイヴの血もジミーの過去も、同じ殺人の手がかりに見えます。でも、彼らが隠しているのはそれぞれ別の出来事なんです。
幼い日の誘拐から、ケイティの死で3人が再会するまで

デイヴだけが車に乗せられた日
ボストンで育ったジミー、ショーン、デイヴは幼なじみでした。道路でホッケーをしていた3人が、まだ固まっていない歩道のコンクリートに名前を書いていると、警官を装った男たちの車がやって来ます。
連れ去られたのはデイヴだけ。男たちに監禁されて性的虐待を受け、4日後に逃げ出しました。車に乗った少年と、残された2人の関係は、この日から変わってしまいます。
25年後、ジミーは前科を持つ雑貨店の主人、ショーンは刑事になり、デイヴにも妻セレステと息子マイケルがいます。家族ができても、デイヴの幼い日の傷は消えていません。
ケイティはブレンダンと町を出るつもりだった
ジミーの19歳の娘ケイティは、ブレンダンと秘密で交際し、ラスベガスへ駆け落ちする計画を立てていました。ジミーはその交際を嫌い、ケイティは父の知らないところで新しい生活を選ぼうとしていたのです。
ところが、友人たちとバーで過ごした夜にケイティは殺されます。翌日、公園で遺体が見つかり、ショーンと相棒のホワイティ・パワーズが捜査を担当。娘の車を見つけたジミーは、現場の警官に抑えられるほど取り乱しました。
ショーンが証拠を追う一方で、ジミーは昔からの仲間サベッジ兄弟に犯人捜しをさせます。幼なじみの再会は、父親、刑事、疑われる男という立場で始まったんですね。
血まみれの夜、デイヴは誰を殺したのか?
デイヴはケイティがいたバーに居合わせ、その夜、けがをして血まみれで帰宅します。妻には、強盗に襲われて反撃し、相手を殺したかもしれないと説明しました。
ところが、セレステが新聞を探しても、その強盗の事件は見つかりません。ケイティの死が分かり、夫の様子もおかしい。帰宅したときの血が、妻には娘を殺した証拠のように見えてしまいます。
警察やジミーへの説明でも、デイヴは手のけがの理由を変えます。強盗との争い、ゴミ処理機によるけがなど、話が食い違えば疑いは強まりますよね。ホワイティもデイヴを疑い、本人の言葉がますます信用されなくなるのです。
本当の相手は、少年を虐待していた男
あの夜、デイヴが殴り殺したのは、少年に性的虐待を加えていた男です。その男が少年にしていたことは、デイヴ自身が子どものころにされたことと重なります。
デイヴは、この殺人を強盗との争いに置き換えて話していたんです。血まみれだった理由はある。でも、ケイティの事件とは違う。ここが分からないまま、周囲の疑いだけが育ちます。
さらにデイヴは、セレステに幼いころの自分は地下室で死んだという趣旨の話をし、吸血鬼のような存在になぞらえて苦しみを語ります。私には、長く抱えた傷があふれ出した場面に見えたんです。けれど、夫の言葉を怖がるセレステには、ますます危険な告白に聞こえるでしょう。
セレステは息子と家を離れ、ジミーに夫への疑いを打ち明けました。デイヴがケイティを殺したところを見た人はいません。それでも、娘を失った父は妻の疑いを信じてしまいます。
ケイティはなぜ殺された?銃と通報が少年2人につながる

父親の銃と、被害者を「女性」と知っていた通報者
捜査で、ケイティを撃った銃は、昔の酒店強盗でも使われていたと分かります。その銃が結びつくのは、長く行方不明になっているブレンダンの父親レイ。デイヴの不審な様子だけでは、銃の持ち主まで説明できません。
ブレンダンはケイティ殺害の容疑から外れますが、父親の銃については知らないふりをしていました。家に隠されていた銃がなくなっていると気づき、弟のレイとジョンを問い詰めます。
警察が注目したもう一つの手がかりは、血の付いた車を知らせる通報の録音です。少年の通報者は、殺害を見ていないという話なのに、被害者が女性だと知っている。単に車を見つけただけなら、なぜそのことが分かるのでしょうか?
銃と通報の手がかりから少年たちに行き着いたショーンとホワイティは、ブレンダンが2人に暴力を振るう現場へ駆けつけます。ジョンは銃をブレンダンに向けますが、刑事たちが取り押さえ、レイとジョンを逮捕しました。
最初の発砲のあと、口封じの殺害へ進んだ
少年たちは銃で遊び、ケイティを脅かそうとしていました。その最中に発砲が起き、事態が変わります。ケイティに話されることを恐れた2人は、逃げた彼女を追って殺害しました。ケイティは銃撃と殴打を受けていたのです。
ケイティの死は、最初の誤射だけで終わった事故ではありません。少年たちは口封じのために殺害まで進んでいます。翌朝、ショーンがジミーに知らせるのは、逮捕された2人が犯行を認めたという真相でした。
壮大な復讐計画がなくても、人は殺されてしまう。私は、そのあまりの釣り合わなさがこの事件の怖さだと思います。娘を失ったジミーが「そんなことで?」と受け止めきれないのも、苦しいところですね。
ジミーがデイヴを殺した夜と、遅すぎた真相

「認めれば生かす」という約束で、嘘の自白を引き出す
少年たちに警察が迫るころ、サベッジ兄弟はデイヴを川辺のバーへ誘い、酒を飲ませていました。そこにジミーが加わり、バーの裏で娘を殺したのかと迫ります。
デイヴは、少年を虐待していた男を殺したと話しました。ジミーは信じず、ケイティを殺したと認めれば生かすと持ちかけます。デイヴは助かろうとして、やっていない殺人を自分の犯行だと答えてしまったのです。
その際、ケイティに自分が持てなかった青春を見たという趣旨の言葉も口にします。失われた青春の話が悲痛でも、彼女を殺した証明にはなりません。
デイヴの自白は、命を助けてもらうためについた嘘でした。ジミーは約束を破り、デイヴを刺したあと銃で撃ち、遺体をミスティック川へ沈めます。
幼いころは知らない男たちに連れ去られ、大人になってからは昔の友人に殺される。デイヴがここまで追い詰められたあとで真犯人が分かるので、観ている側も「間に合って!」という気持ちを置き去りにされます。
ジミーは、ブレンダンの父親も殺していた
川辺の対話では、ジミーの古い罪も明らかになります。ブレンダンの父親レイは、強盗事件でジミーを警察に売った男でした。ジミーは出所後にレイを殺し、その遺体も川に沈めています。
ブレンダンは、行方不明の父から毎月お金が届いていると信じていました。送っていたのはジミー。父親を奪った男が、その子どもの家に送金していたわけです。
そして今度は、父親レイの銃を使った少年たちの犯行で、ジミーが娘を失います。私は、昔の殺人が家族をまたいで戻ってきたように感じます。ただ、少年たちの供述に出てくるのは銃の悪ふざけと口封じで、父の敵討ちという計画ではありません。
翌朝、デイヴの説明まで裏付けられる
道路脇に座るジミーのもとへ、ショーンがやって来ます。レイとジョンを捕まえたうえ、デイヴが話した性犯罪者の遺体も見つかっていました。警察は、その別件でデイヴに話を聞こうとしていたのです。
ジミーは、自分が違う男を殺したと知ります。ショーンがもう少し早く犯人を捕まえていれば、という趣旨の言葉が漏れる。ここはつらいですが、デイヴの命を奪ったのはジミー自身ですよね。
ショーンもジミーの反応からデイヴの死を察し、最後に会ったのはいつかと尋ねます。さらに、今度はセレステにも毎月送金するのかと問いかけました。父親レイへの殺人と送金を見抜いたうえで、また同じことをしたのかと迫る質問なんです。
ラストの意味を考察|指鉄砲と、笑えないパレード
アナベスは夫を「王」として支える
ジミーは妻アナベスに、無関係なデイヴを殺して川へ捨てたと打ち明けます。アナベスは、家族のために行動する夫を支え、彼を「王」と呼びました。
ここからは私の考察です。夫が違う人を殺したと知っても、アナベスは家族を守る夫の強さを優先する。私は、あの言葉を聞くと、家族会議で無罪にしていい話でしょうか、と突っ込みたくなります。
アナベスは、夫を疑ってジミーに話したセレステにも冷たい。夫を守る自分と、夫を疑ったセレステを比べる彼女の態度が、殺されたデイヴの家族をいっそう孤立させているように見えます。
ショーンの家庭は戻り、セレステとマイケルは取り残される
ショーンは別居中の妻ローレンに電話で謝り、ローレンも子どもを連れて戻ると答えます。終盤のパレードでは、ショーンは妻と子どもと一緒に立っていました。
一方、セレステはパレードの人混みを歩いています。息子マイケルは車に乗り、沈んだ様子のまま。ジミーには支える妻がいて、ショーンには戻ってきた家族がいるのに、デイヴの姿はどこにもないんです。
この明るいお祭りが、私はかえってしんどいです。街がいつもどおりに動いているほど、セレステとマイケルの孤独が目立ちます。犯人逮捕のあとのお祝いの気分には、とてもなれません。
指鉄砲は「お前がやったと知っている」という警告に見える
道路の向こうでジミーを見たショーンは、指を銃の形にして彼へ向けます。ジミーは肩をすくめるように応じました。
私には、ショーンの仕草は「お前がしたことを知っている」という警告に見えます。翌朝の問いかけがあるので、気軽な幼なじみ同士の挨拶とは感じにくいんですよね。
ジミーの返しには、分かっているならどうする、という開き直りも感じます。その後の捜査は、映画の外に残りました。
終幕の映像は、少年たちが名前を刻んだ歩道とミスティック川へ戻ります。冒頭では名前を書きかけたデイヴが連れ去られ、最後には彼の遺体が川に沈んでいる。私は、あの過去から逃れられなかったデイヴを思い出す締めくくりだと受け取りました。
注意|2003年映画の結末と、殺害動機の思い込み
『ミスティック・リバー』は、デニス・ルヘインの同名小説を映像化した2003年の映画です。ここでのケイティの事件とパレードは、その映画本編の出来事。小説は別媒体です。
「レイは兄を奪われたくなかったから殺した」「ショーンは必ずジミーを逮捕する」は、映画で確定した結論ではありません。兄への執着を動機として考える余地はありますが、ショーンが説明する犯行の経緯は、発砲のあとで発覚を恐れた少年たちの殺害です。
デイヴも人を殺しています。ケイティ殺害を疑われた点では無実で、別の殺人を犯した点では加害者でした。それでも、ジミーがケイティの父としてデイヴを処刑してよい理由にはなりません。
幼いデイヴへの性的虐待と、後の殺人を描く作品なので、再鑑賞にもかなり気力が要りますね。犯人当てだけを楽しむつもりだと、終わったあとにしばらく黙り込むかもしれません。
もう一度観るなら、通報の言葉と妻たちの表情に注目
結末を知ってから本編を観直すなら、通報の録音で少年が被害者をどう呼ぶかに耳を澄ませてみてください。女性だと知っている不自然さは、血の付いた車だけを発見したという話からはみ出しています。
デイヴがけがの理由を変える場面では、彼がケイティの事件を隠しているように見えるか、それとも別の男への暴力を隠しているように見えるか。真相を知ると、同じ場面でも受け取り方が変わるでしょう。
ラストでは指鉄砲だけでなく、セレステを見たアナベスの表情と、マイケルの様子にも注目すると、誰が安心して街に立ち、誰が取り残されたのかが見えます。あの指だけを考えていると、ついデイヴの家族から目を離してしまうんです。
ワーナー公式の劇場予告(英語)
3人の顔とボストンの街を思い出すなら、ワーナー公式の劇場予告です。
FAQ|犯人と結末でよく引っかかること
ケイティを殺したのはブレンダンですか?
恋人のブレンダン本人ではなく、弟のサイレント・レイと友人ジョンの犯行です。ブレンダンが2人を問い詰めた際、ジョンに銃を向けられ、刑事たちが止めています。
デイヴはどうして、やっていない殺人を認めたの?
ジミーが、自白すれば命を助けるという条件を出したからです。デイヴは生き延びるためにその条件をのみましたが、ジミーは彼を殺してしまいました。
デイヴが話した性犯罪者は、本当にいたのですか?
はい。後に男の遺体が見つかり、警察はデイヴにその件を尋ねようとしていました。妻に話した「強盗に反撃した」という筋は嘘でも、別の男を殺した話には裏付けがあったんですね。
ジミーは最後に逮捕されず、無罪になったのですか?
本編では拘束も裁判もありません。
まとめ
ケイティの事件は少年2人の逮捕で決着しますが、誤って殺されたデイヴの命は戻りません。ジミーは娘を失った悲しみを抱えたまま、別の家族からも父親を奪いました。
私がラストでいちばん苦しく感じるのは、真相を知ったあとも街の暮らしが続き、セレステとマイケルだけがその賑わいから取り残されて見えることです。ショーンの指鉄砲への答えを考えても、あの親子の悲しさは消えません。