『羊たちの沈黙』の結末のネタバレがあります。『羊たちの沈黙』は1991年の映画です。
人質は救われ、クラリスはFBIアカデミーを卒業。それなのに、観終わっても安心できないんですよね。ソファで握りしめていたクッションを離した途端、また抱え直したくなる結末です。
その理由は、女性を殺していたバッファロー・ビルの事件は解決しても、ハンニバル・レクターは自由の身になっているから。
犯人バッファロー・ビルは誰?皮膚を剥ぐ目的

バッファロー・ビルの正体は、ジェイム・ガム(Jame Gumb)です。終盤、クラリスと会ったときには「ジャック・ゴードン」と名乗ります。レクターと同一人物ではありません。
ガムは女性を誘拐して殺し、その皮膚を切り取って、自分が身にまとう服を作ろうとしていました。女性の身体を模した皮膚の服で、自分の姿を変えることが目的なんです。裁縫という穏やかな言葉が、ここまで怖くなるとは……。
被害者の喉から見つかる蛾のさなぎも、その願望と結びつきます。レクターは、さなぎから成虫になる蛾を「変化」の象徴として説明しました。
一方のレクターは、人を殺して食べた元精神科医で、物語の開始時点では収監されています。クラリスは、ガムを捕まえるために、別の危険な殺人犯から助言を引き出す立場。頼りたい相手が、いちばん油断できないんですよね。
クラリスの捜査は、レクターとの面談から始まる
FBI訓練生のクラリス・スターリングに任務を与えるのは、捜査官ジャック・クロフォードです。表向きは収監中の殺人犯への調査ですが、狙いは、捜査が進まないバッファロー・ビルについてレクターの洞察を得ることでした。
クラリスが訪ねる病院の責任者は、フレデリック・チルトン医師。レクターは独房にいますが、初対面でクラリスのバッグや靴、訛りから彼女の育ちを探り、質問する側とされる側をひっくり返してしまいます。質問票を渡せば済む相手ではないんです。
最初の手がかりは、貸し倉庫に残された頭部
最初の面談はうまく進まず、クラリスは一度立ち去ろうとします。ところが、隣の独房の囚人ミグスから卑劣な行為を受けたあと、レクターに呼び戻され、手がかりを与えられました。
それを調べたクラリスは、貸し倉庫で、容器に保存された男性の頭部を発見。レクターは、その人物を元患者のベンジャミン・ラスペールと説明しました。ただし、彼を殺したのは自分ではないと否定します。クラリスは、頭部の発見をきっかけに、ビルにつながる情報をレクターが持っていると考えます。
ただし、レクターは情報を無料で渡すつもりがありません。チルトンから離れ、窓のある収容先へ移りたいと要求しました。手がかりが欲しいクラリスに、レクターは自分の待遇を変えるよう迫るんです。
被害者の喉にあったさなぎが、犯人の特徴になる
クロフォードと被害者の遺体を調べたクラリスは、喉に詰められた昆虫のさなぎを見つけます。専門家の調査で、背にドクロのような模様を持つ珍しい蛾のものと判明。ラスペールの頭部にも同じ種類のさなぎがありました。
犯人は、皮膚を剥ぐだけでなく、特定の昆虫を遺体に残しています。クラリスはその意味をレクターに尋ね、蛾と変身願望のつながりを聞き出しました。終盤で犯人の家にいる蛾を目にしたとき、彼女がすぐ警戒するのは、この捜査があるからなんです。
キャサリンの誘拐で取引が動く。「羊」はクラリスの記憶
井戸に監禁されたキャサリンも、反撃の機会を探す
ガムが新たに誘拐するのは、上院議員ルース・マーティンの娘、キャサリン・マーティン。彼女は犯人宅の地下にある井戸へ閉じ込められ、皮膚にローションを塗るよう命じられます。壁に残った爪を見つけ、自分より前にも誰かがここにいたと知る場面がつらいところです。
キャサリンは、ただ救出を待つだけではありません。ガムの愛犬プレシャスを井戸の中に引き込み、犬を傷つけると脅して、犯人との交渉を試みました。外ではクラリスが手がかりを追い、地下ではキャサリンが生き延びるために抵抗を続けます。
娘を奪われた上院議員は、テレビを通じて犯人に呼びかけました。クラリスは、その呼びかけでキャサリンの名前を繰り返す意図を読み取ります。犯人にとっての「材料」にされかけている人を、名前を持つ一人の人間として扱わせようとしているんです。
移送の約束は偽物だったが、チルトンが別の取引をする
救出を急ぐクロフォードは、クラリスに、待遇改善や移送を約束する偽の取引をレクターへ持ちかけさせます。レクターが求めたのは、捜査情報と交換するクラリス自身の話。彼女は、幼いころに警官だった父を亡くした過去を明かしました。
しかし、面談を盗聴していたチルトンが、移送の約束は偽物だとレクターに知らせ、自分と上院議員による別の取引を進めます。レクターはメンフィスへ移され、上院議員に犯人の名として「ルイス・フレンド」を告げました。
これも本名ではありません。クラリスは、その綴りを並べ替えると「硫化鉄」を表す英語になり、そこから「愚者の黄金」を指す偽の答えだと見抜きます。せっかく取引しても、答えにまで謎を付ける。レクター相手だと、会話の宿題が終わりませんね。
助けられなかった子羊と、救いたいキャサリン
クラリスは、メンフィスの仮設の独房でレクターと再び面会します。彼は、ガムは何を欲しがる人間かを考えさせ、人は日々目にするものを欲しがると助言。その代わり、彼女が親戚の牧場を逃げ出した理由を求めました。
子どものクラリスは、殺される子羊たちの悲鳴を聞き、一頭を抱えて逃げたのです。けれど保安官に保護され、羊を救うことはできず、その後は孤児院へ。大人になっても、夜中にあの悲鳴で目を覚ますと語ります。
タイトルの「羊」は、クラリスが助けられなかった子羊の記憶につながっています。レクターは、キャサリンを救えばその悲鳴が止むと思っているのか、と彼女に問いかけました。
私は、キャサリンを救おうとするクラリスに、あの子羊を助けたかった幼い彼女を重ねてしまいます。レクターとの面会を終えた彼女は、キャサリンの救出へ向けて捜査を続けるんです。
レクターはどう脱走した?看守に化けた救急搬送

チルトンのペンが、手錠を外す道具になる
レクターの移送先は、厳重な病院の独房とは違う、建物内に設けられた仮設の檻です。クラリスとの面会が終わったあと、食事を運ぶ二人の看守、ボイルとペンブリーが近づきます。
レクターは、チルトンが置き忘れたペンの金属部品を隠し持っていました。それを使って手錠を外し、二人を襲って殺害。交渉で得た移送の機会と、小さな道具が、脱走につながったのです。
ここを知ってから観ると、チルトンの手元のペンにも目が行きます。文房具一本にまで身構えることになるとは。普段なら、机から転がっても拾うだけなんですけどね。
運び出された「負傷者」がレクターだった
駆けつけた警官たちは、檻に吊るされたボイルの遺体と、顔に重傷を負ったペンブリーらしき人物を発見します。負傷者は救急隊によって搬送されました。
ところが、建物内ではエレベーターの上に血まみれの身体が見つかり、捜索する側はレクターがそこに潜んでいると思い込みます。この間に、救急車は現場を離れていたのです。
助けるべき看守に見えた人物こそ、ペンブリーの顔の皮膚と制服を使ったレクターでした。救急車内で彼が顔を外すと、二人の身体を利用した入れ替わりが分かります。建物から出る殺人犯を、救急搬送という形で警察が通してしまったんです。
脱走後、救急隊員の死亡と旅行者の殺害が報じられます。レクターは逃げただけで終わらず、人を殺し続けていました。クラリスへの助言を聞いて気を許しかけると、またぞっとさせられるんですよね。
クラリスだけが犯人宅へ。聞き込みから暗闇の決着まで

最初の犠牲者の部屋で、皮膚の服に気づく
レクターから返された捜査資料には、遺体の発見場所の散らばり方についての書き込みがあります。クラリスは同僚のアーディリア・マップと資料を読み直し、日常で目にするものを欲しがる、という助言を思い出しました。
そこで、最初の犠牲者フレデリカ・ビンメルは犯人の知り合いだったのではないか、と考えます。彼女の遺体が重りを付けて隠されていた点も、ほかの被害者との違いです。身近な女性を狙ったなら、その人の暮らしや交友関係を調べれば犯人につながるはず。
クラリスは、オハイオ州ベルヴェデーレにあるフレデリカの実家を訪問。部屋に残された裁縫の道具や作りかけの服から、被害者の皮膚が切り取られた形と、服の型紙のつながりに気づきます。犯人は女性の皮膚を集め、自分が着る服を仕立てようとしている。ここで、殺人の目的が具体的になるんです。
FBIの突入先と、クラリスが訪ねた家は別だった
クラリスが発見を報告すると、クロフォードは、すでにジェイム・ガムを容疑者として特定したと答えます。レクターの人物分析をもとに候補を調べ、さらに珍しい蛾の輸入記録がガムの名につながったのです。
クロフォードたちはイリノイ州の住所へ向かい、クラリスはベルヴェデーレに残って、立件に役立つ証拠を探すよう指示されました。彼女はフレデリカの友人への聞き込みから、裁縫仕事で関わりのあったリップマン夫人の家を訪ねます。
映画は、FBIの突入準備と、地下にキャサリンを監禁する犯人の姿を交互に映します。同じ家に捜査班が迫っているように見せるのが、あの場面の仕掛け。ところが、ガムの家の呼び鈴を押したのはクラリスでした。
捜査班が突入した家は空っぽ。人数も装備もそろっているのに、家が違う!一方、聞き込みのつもりだった訓練生が、犯人と一対一で向き合うことになります。
「ジャック・ゴードン」と名乗る男の家で、クラリスは糸巻きの近くにいる蛾を目にします。被害者の喉から見つかったものと同じ種類です。男の正体に気づいて銃を向けますが、ガムは地下へ逃げ込みました。
撃鉄の音に反応して射殺し、キャサリンを救出する
追ったクラリスは、井戸の中で生きているキャサリンを見つけます。キャサリンは助けを求めますが、ガムがまだ近くにいるため、クラリスは彼を捜さなければなりません。救出のすぐ手前で、部屋の明かりが消えてしまうんです。
クラリスは真っ暗な地下で手探りを続け、ガムは暗視ゴーグルで彼女を見ています。観客には犯人の視界が見えるのに、クラリスには見えない。息遣いまで聞こえるこの場面は、部屋を暗くして観ると、ちょっと後悔しますね。
ガムが銃の撃鉄を起こすと、小さな音がしました。クラリスはその音に反応して振り向き、発砲。ガムはクラリスに射殺され、キャサリンは生きて救出されます。
キャサリンはプレシャスを抱いたまま救急車へ向かい、クラリスも家から出てクロフォードと再会しました。レクターは助言を与えましたが、被害者の暮らしを調べ、家を探し当て、暗闇で生き残ったのはクラリス自身です。
最後の電話が怖い理由。「古い友人」はチルトン

卒業祝いの最中に、逃亡中のレクターから電話
事件のあと、クラリスはFBIアカデミーを卒業します。クロフォードは彼女をねぎらい、父も誇りに思うだろうと声をかけました。父を失った記憶を語ってきた彼女にとって、うれしい言葉ですよね。
その祝賀の場で、クラリスに電話がかかってきます。相手はレクター。南国を思わせる場所から、子羊の悲鳴は止んだかと尋ねました。過去を打ち明けたときの問いを、事件が終わったあとにも持ち出すのです。
レクターは、クラリスを襲うつもりはないと告げ、その理由を、彼女がいるほうが世界は興味深い、という趣旨で説明します。さらに、自分を追わないよう同じ配慮を求めました。クラリスは、その約束はできないと返します。
レクターに助けられたクラリスも、逃亡を見逃すつもりはありません。あれだけ自分の過去を話した相手に、捜査官として向き合うんです。
「食事」は殺害をほのめかす
レクターは、古い友人を夕食に迎える、という趣旨の言葉で電話を切ります。その視線の先にいるのは、飛行機から降りたチルトン。レクターは彼のあとを追って、人混みへ消えていきました。
これは、かつて自分を管理し、不快な扱いをしていたチルトンを、次の標的にする示唆と解釈できます。人を食べるレクターが「食事」と言うため、誰かと食卓を囲む言葉が、誰かを食べる言葉に変わって聞こえるんです。夕食のお誘いで、ここまで背筋が冷えるとは。
最後に見えるのは、レクターが彼を追うところまで。
クラリスがキャサリンを救って祝福される間に、レクターはチルトンのあとをつける。私は、卒業を一緒に喜んでいたところで、その光景にぞっとしました。人質を救えたうれしさはあるのに、レクターが自由に歩いているせいで安心できないんですよね。
主要人物は、映画の終わりでどうなった?
| 人物 | 1991年映画で描かれる結末 |
|---|---|
| クラリス | ガムとの対決を生き延び、FBI訓練課程を修了。レクターを追わない約束は拒否 |
| キャサリン | 監禁から生還し、犬を抱いて救急隊に保護される |
| ジェイム・ガム | 地下でクラリスの銃撃を受け、死亡 |
| レクター | 脱走したまま、チルトンを追尾 |
| チルトン | 終幕に生きた姿で登場。その後の生死は画面に出ない |
| クロフォード | 現場でクラリスの無事を確かめ、卒業後に功績をねぎらう |
レクターはなぜクラリスを助ける?二人の会話を考察
ジョナサン・デミ監督の1991年映画は、最後の電話と、チルトンを追うレクターの姿で終わります。
レクターは、クラリスの育ちを探り、子ども時代の記憶まで話させます。最後の電話でも、彼女のいる世界は興味深いと告げました。私は、彼女への敬意だけでなく、心の奥を探る好奇心や、会話を自分の思いどおりに進める楽しさもあると感じます。頼りになるのに、こちらの弱みまで握っている。近くにいてほしくはない相手ですよね。
レクターは捜査の手がかりとして、ガムの自己嫌悪や変身願望を分析します。性別を変える手術を受けようとして拒否された可能性も挙げました。
最後の電話で、クラリスは羊の悲鳴が止んだかという質問には答えていません。キャサリンを救えた喜びのさなかに、レクターが持ち出すのは、彼女が打ち明けたつらい記憶。祝っているところへそんな電話が来たら、私なら固まってしまいます。
結末を知ってから再鑑賞するなら、蛾と音に注目
人物の表情や面談の緊張感を思い返すなら、Amazon MGM Studiosの公式予告編です(英語)。
本編をもう一度観るなら、犯人の名前を思い出すだけではもったいないです。小さな物や音が、捜査の結果とつながる瞬間を追ってみてください。
- チルトンのペン:面談の場所に置き忘れられた物が、仮設の檻でレクターの道具になるまで。
- さなぎと成虫:遺体から採取した昆虫を調べる場面と、クラリスが男の家で蛾に気づく場面。知識があるから、その場で正体を疑えます。
- 地下の音:暗視ゴーグルによるガムの視界と、クラリスの息遣い、そして撃鉄の音。見える側の余裕が、音を立てた瞬間に崩れるところです。
私は、犯人宅の呼び鈴の場面を結末のあとに観直したくなります。誰がどの家へ向かっているかを知っていても、クラリスが玄関に立った瞬間は、やっぱり身構えてしまうんです。
FAQ:犯人・脱走・結末で気になること
レクターが女性連続殺人の犯人だったのですか?
女性連続殺人事件の犯人はガムです。レクターは収監中に捜査へ協力し、移送後には自分でも殺人を重ねて逃亡しました。ガムを倒しても、レクターは逃げたままなんです。
なぜクラリスは、応援なしでガムの家にいたのですか?
彼女の任務は、最初の被害者の交友関係を調べることでした。クロフォードの班は他州で容疑者を逮捕する予定だったため、クラリスが訪ねた家にガムがいるとは、どちらも想定していなかったんです。
「ルイス・フレンド」はガムの別名ですか?
レクターが上院議員へ渡した偽の名前です。アルファベットの並べ替えで作った言葉遊びを、クラリスが解きます。終盤にガム本人が使う「ジャック・ゴードン」とは、使われる場面も違います。
チルトンは、最後に食べられたのですか?
レクターは夕食の予定を告げ、チルトンを追って人混みへ歩いていきました。最後に映るチルトンは、飛行機から降りたばかりの生きた姿です。
キャサリンを救えたので、「羊」はもう泣かないのですか?
クラリスは、子どものころにできなかった救助を、キャサリンの救出で成し遂げました。卒業後にかかってきた電話でレクターに羊の悲鳴について尋ねられますが、彼女はその問いに答えていません。
まとめ
『羊たちの沈黙』は、ジェイム・ガムを倒すまでの捜査に、クラリスの過去とレクターの逃亡を重ねた映画です。聞き込みや裁縫の発見を積み重ねたクラリスは、最後には誰の助言も届かない暗闇で、人質を救うために戦いました。
それでも、卒業の喜びにレクターの声が割り込みます。救えた人がいる一方で、新たに狙われる人もいる。私はその後味に、この結末の怖さを感じます。クラリスの勝利を喜ばせておいて、安心まではさせてくれないんですよね。