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映画のエンドロールでよく見る「製作委員会」とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説

映画館の暗闇って、独特の匂いがしますよね。

キャラメルポップコーンの甘い香りと、少し埃っぽい劇場の空気。

 

先日、小学4年生になる息子にせがまれて、話題のアニメ映画を観に行ってきたんです。

 

映画自体は素晴らしかったんです。

映像美もさることながら、ストーリーも大人でも唸るような深みがあって。

隣で息子は目をキラキラさせて見入っていました。

 

そして物語が終わり、感動の余韻とともに場内が明るくなる……

かと思いきや、今はエンドロールが終わるまで席を立たないのがマナーというか、まあ明かりがつかないんですよね。

 

黒い背景に白文字で流れる、おびただしい数のスタッフ名。

「監督」

「脚本」

「原画」

「動画」

「仕上げ」……。

 

これだけの人が関わって、この90分を作ったのかと思うと、毎日会社で上司の顔色を伺いながら稟議書のハンコをもらうだけでヒィヒィ言っている私としては、ただただ頭が下がる思いです。

 

そして、最後にドーンと出てくるのが、あの文字です。

「〇〇製作委員会」

これ、気になりませんか?

私は気になります。

ものすごく。

だって、会社名じゃないんですよ。

「委員会」って。

 

息子の小学校の「飼育委員会」とか「図書委員会」なら馴染みがありますけど、大の大人が、しかも何億円も動くビジネスの世界で「委員会」って、なんだか不思議な響きじゃありませんか?

 

実はこの「製作委員会」、日本のアニメや映画を語る上で絶対に避けては通れない、日本独自の、それはもうガラパゴスで、かつ精巧にできた「集金システム」なんです。

 

今、世の中は2026年。

アニメ産業は市場規模3兆円を超え、日本のコンテンツは世界中で愛されています。

でも、その足元を支えている、あるいは縛り付けているのが、この「製作委員会」という仕組み。

 

今日は、平日はフルタイムで事務職をこなし、家に帰れば義理の両親に気を使いつつ、隙間時間でキーボードを叩くこの私が、主婦の生活実感と、長年エンタメ業界をウォッチしてきたライターとしての視点を総動員して、この巨大なシステムの裏側を解き明かしていきたいと思います。

 

難しい経済用語も出てきますが、安心してください。

全部、私たちの日常にある「PTA」や「町内会」、あるいは「ママ友とのランチ」に置き換えて説明しますから。

 

それでは、ポップコーンでもつまみながら、この長い長いエンドロールの向こう側へ、一緒に潜ってみましょうか。

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第1章:製作委員会「大人の割り勘」システムの正体

1-1. そもそも「委員会」って何? 法的なお話

まず、結論から言っちゃいますね。

「製作委員会」というのは、会社ではありません。

法人格を持っていないんです。

株式会社〇〇、ではないんですね。

 

法的には、民法第667条に基づく

「任意組合」

という扱いになります。

……いきなり難しいですね。

大丈夫、私も六法全書なんて枕にするくらいしか使いませんから。

 

簡単に言うと、

「ある目的のために、期間限定で財布を一つにした仲間たち」

のことです。

 

例えば、仲の良い友人グループで

「週末に豪華なキャンプをしよう!」

となったとします。

  • Aさんは車を出す。
  • Bさんは食材を買ってくる。
  • Cさんは高級なテントを持っている。
  • Dさんは料理が得意。

でも、一人で全部用意するのはお金もかかるし大変ですよね。

だから、みんなで少しずつお金を出し合って(出資)、役割分担をしてキャンプを実行し、楽しかったねという思い出(利益)を共有する。

キャンプが終われば、そのグループは解散です。

 

これが「製作委員会」の正体です。

 

映画やアニメというプロジェクトのために、テレビ局や出版社、おもちゃメーカーなどが集まって、

「お金出し合って作りましょう、儲かったら山分けしましょう、終わったら解散しましょう」

と契約を結んだ集団。

それが製作委員会なんです。

 

会社ではないので、登記もされていません。

あくまで「契約で結ばれたサークル」みたいなものです。

でも動くお金は数億円。

ちょっと規模の大きいサークルですよね。

1-2. なぜ「制作」と「製作」の字が違うのか?

これ、私もライターになりたての頃によく間違えて、編集さんに赤ペンで真っ赤にされた苦い記憶があるんですが、エンドロールをよく見ると、二つの「せいさく」があることに気づきますか?

  • 制作(Production)
    実際に手を動かして作品を作る人たち。
    アニメスタジオ、監督、アニメーター、声優さんなど。
    汗と涙を流す現場部隊です。
    英語で言うと「Making」に近いニュアンスですね。
  • 製作(Produced by)
    作品を作るための「お金」を用意し、ビジネスの枠組みを作る人たち。
    これが製作委員会です。
    英語で言うと「Funding」や「Business」の領域です。

ここが最大のポイントです。試験に出るとしたらここです。

日本のアニメビジネスの最大の特徴、そして諸悪の根源とも言われるのが、この

「作る人(制作)」と「金を出す人(製作)」が完全に分かれている

ことなんです。

 

家作りに例えるなら、「制作」は大工さんや建築士さん。

「製作」は施主(お金を出す人)です。

 

大工さんは家を建てて日当をもらいますが、その家が完成して何十年住もうが、あるいは転売して儲けようが、大工さんに追加のお金は入りませんよね。

アニメ業界もこれと同じ構造なんです。

作品が大ヒットして何百億円稼ごうが、原則として「制作会社」には最初に取り決めた「制作費(日当)」しか入らない。

 

逆に、家が火事で燃えてしまっても(映画が大コケしても)、大工さんは日当をもらっているので損はしません。

損をするのは施主(製作委員会)です。

この残酷な仕組みについては、後ほどたっぷりと(胃が痛くなるくらい)解説します。

1-3. 製作委員会のメンバー紹介:彼らの「下心」を探る

さて、この「キャンプの幹事グループ」には、どんな人たちが参加しているのでしょうか?

 

彼らは決して、純粋な芸術のパトロンとして、あるいは慈善事業としてお金を出しているわけではありません。

全員、腹の底にしっかりとした「下心(ビジネス的メリット)」を持っています。

 

典型的な深夜アニメの製作委員会メンバーを、私の偏見と独断に満ちた比喩で紹介しましょう。

参加企業(例)役割と本音
出版社
(講談社、集英社など)
役割:原作の提供
本音:「アニメ化すれば、原作の漫画がバカ売れするじゃん!」彼らにとってアニメは、世界で一番豪華で高い「本のコマーシャル」。DVDが売れなくても、原作が重版されれば勝ちなのです。
テレビ局
(テレビ東京、フジなど)
役割:放送枠の提供、宣伝
本音:「番組表の隙間を埋めたいし、映画化で儲けたい!」コンテンツは喉から手が出るほど欲しい。視聴率が取れなくても、自局イベントや映画化の権利が欲しいのです。
広告代理店
(電通、博報堂など)
役割:スポンサー集め、調整役(幹事)
本音:「企業間を取り持って、手数料(マージン)をいただこう」彼らは「調整のプロ」。PTAで言うところの、顔が広くて仕切りたがる副会長ポジション。この人たちがいないと話がまとまりません。
玩具・グッズメーカー
(バンダイなど)
役割:おもちゃ等の製造・販売
本音:「権利さえ手に入れば、おもちゃを売って元が取れる!」子供向けアニメでは最強のスポンサー。内容よりも「ロボットが売れるデザインか?」を気にし、口出しもしばしば。
レコード会社
(ソニー・ミュージックなど)
役割:主題歌、サントラの制作
本音:「新人アーティストをねじ込めば、知名度アップ!」アニメのOPで「なんでこの曲?」と思う時は大体ここの大人の事情です。
映像ソフトメーカー
(アニプレックスなど)
役割:BD/DVD販売、配信権管理
本音:「円盤(ディスク)をマニアに売って回収するぞ!」かつての王様。今は配信ビジネスの窓口として権力を維持しています。

こうして見ると、みんな「アニメ作品そのものの売上」だけでなく、

「自分のテリトリー(本業)での売上」

を期待して集まっていることがわかります。

これを専門用語で

「窓口権(Windowing Rights)」

と言います。

 

「テレビ放送の窓口は私がやるわ」

「じゃあ、グッズの窓口は僕が」

「海外配信の窓口は弊社が」……

というふうに、利権を切り分けていくわけです。

 

まるで、お正月の親戚の集まりで、誰がお酒を持ってくるか、誰がお寿司を手配するか、誰がお年玉を多く出すかで牽制し合うあの空気感に似ていますね。

みんな笑顔で腹の探り合い、みたいな。

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第2章:製作委員会クロニクル欲望と生存の戦後史

この奇妙なシステムは、どうやって生まれたのか?

最初からあったわけではありません。

歴史を紐解くと、それは日本経済の波乱万丈な歩みと完全にリンクしています。

2-1. 【1960年代】鉄腕アトムと「安売りの呪い」

すべての始まりは、1963年。

手塚治虫先生による『鉄腕アトム』です。

日本初の30分テレビアニメシリーズ。

当時の常識では

「毎週アニメを作るなんて不可能」

と言われていました。

そこで手塚先生は、徹底的な省力化(リミテッドアニメーション)と、

破格の安さで放送枠を売る

という荒技に出ました。

 

制作費は大赤字。

でも、アトムのシールが入ったお菓子(マーブルチョコレート)のロイヤリティ収入でそれを補填する。

この

「アニメ作りは赤字でも、キャラクターグッズで稼げばいい」

というモデルが、ここで爆誕しました。

 

これは偉大な発明であると同時に、今に続く「アニメーターの給料が安い」という呪いの始まりでもありました。

スーパーの特売で目玉商品(アニメ)を原価割れで売って、他の商品(グッズ)でお客さんを釣る手法です。

一度安く設定された価格は、なかなか上げられないものです。

これは主婦の買い物感覚としてもわかりますよね。

2-2. 【1970年代】宇宙戦艦ヤマトと「スポンサーの倒産」

70年代に入ると、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』が登場します。

この時代はまだ製作委員会方式ではなく、単独のスポンサー企業が制作費を出していました。

 

しかし、これには致命的な弱点がありました。

スポンサーが倒産したら即終了なのです。

 

実際、『ヤマト』のプロデューサーだった西崎義展氏は、資金繰りに奔走し、スポンサー探しに命を削っていました。

一社の財布に依存するのは、あまりにリスクが高い。

制作現場は常に「打ち切り」の恐怖と隣り合わせでした。

 

これ、我が家の住宅ローンを夫一人の稼ぎに頼っている状況と似ていて、思い出すだけで胃がキリキリします。

もし夫の会社が傾いたら……

考えたくもないリスクです。

2-3. 【1980年代】角川春樹の革命と「メディアミックス」

風向きが変わったのは、出版界の風雲児・角川春樹氏の登場です。

彼は映画『犬神家の一族』などで、

「映画と本と音楽を同時にヒットさせる」

という

メディアミックス戦略

を確立しました。

 

「読んでから見るか、見てから読むか」。

このキャッチコピー、40代以上なら記憶の片隅にあるのでは?

私も子供ながらに、なんだかすごいことが起きていると感じたものです。

 

1984年の『風の谷のナウシカ』や1988年の『AKIRA』では、出版社や広告代理店など複数の企業が出資する形が採られました。

特に『AKIRA』の製作委員会(アキラ製作委員会)は、講談社やバンダイなど錚々たる企業が名を連ね、当時としては破格の10億円という巨額の制作費を調達することに成功しました。

これが、現代の製作委員会の「原型」です。

2-4. 【1990年代】エヴァンゲリオンと「深夜アニメの方程式」

そして1995年。

歴史を変える怪物が現れます。

『新世紀エヴァンゲリオン』です。

当初は夕方の放送でしたが、後に深夜帯での再放送も含めて社会現象となり、

ビデオやLD(レーザーディスク)、プラモデルが飛ぶように売れました

 

業界人は気づいてしまいました。

「これ、ゴールデンタイムで子供に見せなくても、深夜にマニアに向けて放送して、高いビデオボックスを売れば儲かるんじゃね?」

 

ここから

「深夜アニメ×製作委員会」

の黄金時代が始まります。

テレビ局は深夜の空き枠を売りたい。

メーカーはパッケージを売りたい。

出版社は原作を売りたい。

利害が一致した大人たちが、「製作委員会」というテーブルで握手を交わし、雨後の筍のようにアニメが量産されるようになりました。

 

2000年代以降、私たちが深夜にチャンネルを回すと必ずどこかでアニメがやっているのは、このシステムが「小規模なヒットでも元が取れる」優秀な集金装置として機能したからなんです。

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第3章:なぜこのシステムはなくならないのか?メリットの深層心理

「製作委員会は悪だ」

「クリエイターを搾取している」

という批判は、もう20年以上言われ続けています。

それでも、なぜ2026年の今もこのシステムは健在なのでしょうか?

 

それは、日本企業の体質にあまりにもマッチした、

甘美なメリット

があるからです。

3-1. リスク分散という名の「精神安定剤」

アニメ制作にはお金がかかります。

深夜アニメ1クール(12話)作るのに、宣伝費込みで3億円~5億円。

映画なら10億円~数十億円。

 

もし1社で全額出して、誰も見なかったら?

大爆死したら?

その担当者はクビが飛び、会社は傾きます。

 

でも、10社で出資すれば?

3億円のアニメも、1社あたり3000万円です。

3000万円なら、まあ、中堅企業の宣伝予算としては稟議を通しやすい。

「もし失敗しても、致命傷にはなりません」と言い訳ができます。

 

これは行動経済学でいう「損失回避性(Loss Aversion)」です。

人間は「1億円儲かる喜び」よりも「1億円損する恐怖」の方を2倍強く感じる生き物だと言われています。

 

日本のサラリーマン社会において、「失敗しないこと」は「成功すること」より重要です。

製作委員会は、この

「失敗の痛みをみんなで分かち合う(薄める)」

ための、最強の精神安定剤なんです。

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

のビジネス版ですね。

会社で新しいプロジェクトを提案するとき、

「他社さんもやってます」

「共同出資ならリスク低いです」

と言うと上司のハンコがもらいやすいのと全く同じです。

3-2. 「餅は餅屋」のチームプレイ

先ほど紹介したように、委員会には各業界のプロが集まります。

出版社は書店営業のプロ、レコード会社は音楽宣伝のプロ。

1社ですべてをやるより、それぞれの得意分野で勝手に頑張ってもらった方が、全体としてのパフォーマンスは上がります。

 

これを

「バンドワゴン効果」

と呼んだりもします。

「これだけ多くの有力企業が参加しているプロジェクトなんだから、きっとすごい作品に違いない」

と、世間や他のスポンサーに思わせる演出効果もあるんです。

豪華キャストが集まった映画、というだけで見たくなりますよね。

企業版のそれです。

3-3. ガバナンス(監視)の目

クリエイターというのは、放っておくと採算度外視でこだわり続ける生き物です。

「ここの作画、あと100枚増やしたい」

「納期? 知らん、良いものができるまで待て」

これではビジネスになりません。

 

出資者である委員会が

「予算を守れ」

「納期を守れ」

と睨みを利かせることで、プロジェクトが破綻するのを防いでいる側面もあります。

 

まあ、現場からすれば「口うるさい小姑」以外の何物でもないでしょうけれど、家計を管理する主婦としては、予算管理の重要性は痛いほどわかります。

「今月は食費3万円まで!」

と決めているのに、

「良い肉があったから」

と夫に高級ステーキを買ってこられたら困りますからね。

クリエイティブとビジネスのバランス、永遠の課題です。

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第4章:製作委員会の「闇」構造的欠陥(デメリットの真実)

しかし、メリットの裏には必ずデメリットがあります。

このシステムの弊害は、2010年代以降、もはや隠しきれないレベルで膿み出してきました。

ここからが、少し暗い話になります。

4-1. 構造的な貧困:なぜ現場にお金が落ちないのか

ここが一番の問題です。

製作委員会方式では、アニメ制作会社は基本的に

「制作費」という固定給

で仕事を請け負います。

 

例えば、

「このアニメ、3億円で作ってね」

と契約します。

制作会社は、その3億円の中でスタッフの給料、外注費、家賃などをやりくりして作品を納品します。

 

さて、その作品が社会現象になるほど大ヒットして、関連商品で100億円の利益が出たとします。

その100億円は誰のものか?

 

全額、出資者である「製作委員会」のものです。

制作会社には、最初にもらった3億円以外、1円も入ってきません(※成功報酬契約などを結んでいない限り)。

 

逆に言えば、作品が大コケして大赤字になっても、制作会社は3億円をもらっているので損はしません(実際は予算オーバーで赤字になることが多いですが)。

つまり、制作会社は

「ローリスク・ローリターン」

製作委員会は

「ハイリスク・ハイリターン」

の構造になっているのです。

 

これだけ聞くと公平に見えるかもしれません。

しかし、問題はこの「制作費」の相場が、長年のデフレと「アトムの呪い」によって、

異常に低く抑えられてきた

ことです。

「やりがい搾取」と言われても仕方がないレベルで、現場のアニメーターの年収は低いままでした。

 

我が家の家計もインフレで火の車ですが、アニメーターさんの懐事情は、構造的に「豊かになれない」ように設計されていたのです。

これが

「アニメーター=薄給」

というイメージが定着してしまった理由です。

4-2. 意思決定の遅さ:船頭多くして船山に登る

10社以上の企業が集まって合議制で物事を決める。

想像してみてください。

PTAの役員会で、運動会の記念品一つ決めるのにどれだけ時間がかかるか。

  • A社「原作のイメージを壊すな」
  • B社「もっとお色気シーンを入れろ」
  • C社「グッズのためにロボットを出せ」
  • D社「海外で売るために暴力を減らせ」

全員の顔色を伺っているうちに、尖った企画はどんどん丸くなり、無難で毒にも薬にもならない「最大公約数」的な作品が出来上がります。

これを

「集団浅慮(グループシンク)」

と言います。

 

さらに、何かトラブルがあった時の対応も遅い。

「確認します」

「持ち帰ります」

の連続で、炎上が鎮火するどころか延焼することもしばしば。

スピード勝負の現代ビジネスにおいて、この遅さは致命的です。

4-3. ガラパゴス化する権利処理と「黒船」への敗北

2010年代後半、NetflixやAmazon Prime Videoといった外資系の「黒船」がやってきました。

彼らは世界中にアニメを配信したいと言ってきました。

 

しかし、製作委員会の権利構造は複雑怪奇。

「配信権はここ、海外窓口はあそこ、音楽は別……」

ハンコをもらう相手が多すぎて、契約が進まない。

 

外資系企業は合理的ですから、

「面倒くさい日本のアニメより、権利が一元化されている韓国ドラマを買おう」

となってしまう。

「アンチコモンズの悲劇」

と呼ばれる現象です。

権利者が多すぎて、逆に誰も資源(作品)を利用できなくなる。

日本のアニメが世界進出で一時期遅れを取ったのは、この調整コストの高さが原因でした。

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第5章:反逆のケーススタディゲームチェンジャーたちの挑戦

そんな閉塞感漂う業界に、風穴を開ける事例が出てきました。

「鬼滅」と「チェンソー」です。

この二つの事例は、これからのアニメビジネスを考える上で極めて重要です。

5-1. 【鬼滅の刃】家族経営のような「少数精鋭」の強さ

社会現象となった『鬼滅の刃』。

この製作委員会、実はものすごくシンプルなんです。

アニプレックス、集英社、ufotable(制作会社)の3社のみ。

 

これ、すごさが伝わりますか?

普通は10社くらいいないとおかしいんです。

 

ポイントは二つ。

  1. メンバーが少ない
    意思決定が爆速です。
    「やろう」と言ったら即決。
    阿吽の呼吸。
  2. 制作会社(ufotable)が出資している
    これが一番重要。
    制作会社が「下請け」ではなく「出資者(権利者)」として参加しています。
    つまり、ヒットすれば制作会社にも莫大な利益が入る。
    だから、死ぬ気でクオリティを上げる。

まるで、信頼できる家族だけで経営している老舗の蕎麦屋のような強さです。

「良いものを作れば、全員が儲かる」

この当たり前のインセンティブ設計が、あの奇跡のようなクオリティを生んだのです。

5-2. 【チェンソーマン】MAPPAの「全額自腹」ギャンブル

さらに業界を震撼させたのが、制作会社MAPPAによる『チェンソーマン』のアニメ化です。

なんと、製作委員会を組まず、MAPPA一社で100%出資しました。

 

これはもう、ギャンブルです。

もしコケたら、MAPPA一社で何億円もの損失を被る。

倒産のリスクすらある。

しかし、当たれば?

グッズも、配信も、海外販売も、全ての利益がMAPPAのものになります。

中抜きなしの総取りです。

 

「リスクを恐れてちまちま割り勘にするのはもうやめだ。俺たちは自分の腕で稼ぐんだ」

そんな、独立して起業した友人のような危うさと、圧倒的な格好良さを感じます。

結果としてビジネス的にどうだったのかは諸説ありますが、

「制作会社がIPホルダー(権利者)になる」

という選択肢を業界に示した功績は計り知れません。

5-3. 【Netflix】「高給取りのヘッドハンター」の功罪

一方、外資系プラットフォームとの付き合い方も変わってきました。

彼らは製作委員会を通さず、制作会社に直接発注します。

提示される制作費は、日本のテレビ局の相場の数倍とも言われます。

現場のスタッフにとっては、まさに救世主。

「ようやくまともな給料で働ける!」

 

しかし、これにも罠があります。

多くの場合、

著作権をすべてプラットフォーム側に譲渡する契約(バイアウト)

になります。

「お金はいっぱいあげる。その代わり、権利は全部ちょうだいね」

制作会社は目先のキャッシュは潤いますが、作品がどれだけヒットしても、その後の二次利用収入は入ってきません。

また、そのプラットフォームでしか見られないため、ファンの裾野が広がりにくいという「デジタルの墓場」問題も指摘されています。

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第6章:2026年の現在地と未来私たちが見るエンドロールの行方

さて、時計の針を現在(2026年1月)に戻しましょう。

日本のアニメ産業市場は拡大を続け、海外売上比率は50%を優に超えています。

製作委員会というシステムは、今どうなっているのでしょうか?

6-1. 二極化する世界:ハイブリッドな共存

結論から言うと、製作委員会はなくなりませんでした。

ただし、

「使い分け」

が進んでいます。

 

世界市場を狙えるような超大型タイトルは、単独出資や少数精鋭、あるいはグローバル資本との提携で作る。

一方で、日常系アニメやアイドル物、メディアミックス前提の作品は、従来の製作委員会方式で作る。

リスクとリターンのバランスによって、最適な「財布の形」を選ぶようになったのです。

6-2. テクノロジーという新しい風

そして今、注目されているのがテクノロジーによる変革です。

ブロックチェーン技術やDAO(自律分散型組織)の活用です。

……またカタカナばかりですみません。

 

要するに、

「お金の流れをガラス張りにしよう」

という動きです。

今までの製作委員会はブラックボックスで、誰がいくら儲けたか、制作会社には知らされていませんでした。

でも、ブロックチェーンを使えば、

「グッズが1個売れたら、自動的にチャリンと原作者とアニメーターに〇〇円入る」

というプログラム(スマートコントラクト)を組むことができます。

 

まだ実験段階ですが、これは「推し活」の究極形かもしれません。

私たちが払ったお金が、中抜きされずに直接クリエイターに届く。

まるで、集めたベルマークが確実に学校の備品になるのを追跡できるような(そんなシステムあったらいいなとPTAの時にずっと思ってました)、透明な推し活経済圏が生まれようとしています。

6-3. 制作会社の「経営力」が問われる時代

これからのアニメスタジオは、ただ絵が上手いだけでは生き残れません。

「自分たちで権利を持つ」

「自分たちで売る」

「自分たちで資金を集める」

そういう

「経営力」を持ったスタジオ

だけが、世界と戦えるIPホルダーとして成長していくでしょう。

逆に、旧態依然とした下請け体質のままのスタジオは、AIによる制作効率化の波にもまれて、淘汰されていくかもしれません。

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おわりにエンドロールの向こう側に見えるもの

長々とお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。

映画館の暗闇でぼんやり眺めていた「〇〇製作委員会」という文字。

 

その向こう側には、日本企業特有の「失敗したくない」という保身の心理と、それでも世界で戦うために知恵を絞ってきたビジネスマンたちの葛藤、そして理不尽な構造の中で歯を食いしばって作品を作ってきたクリエイターたちの執念が渦巻いています。

 

私は、製作委員会が「絶対悪」だとは思いません。

このシステムがあったからこそ、数々の名作が生まれ、日本のアニメ文化が途絶えずに続いたのも事実ですから。

でも、もう限界が来ているのも事実です。

時代に合わせて、古い着物をリメイクするように、システムも作り変えていかなければなりません。

 

次にあなたが映画館でエンドロールを見るとき、あるいは配信サイトでアニメを見るとき、少しだけ想像してみてください。

 

「この作品のお財布事情はどうなってるのかな?」

「私が買ったこのグッズ代は、あのアニメーターさんに届いているのかな?」

 

そうやって私たちが関心を持つこと。

そして、良い作品にはちゃんとお金を払い、クリエイターを大切にするスタジオや仕組みを応援すること。

それが、一人の消費者として、そして推し活をするオタクとしてできる、最大のエールなんじゃないかなと思います。

 

さて、そろそろ息子が学校から帰ってくる時間です。

今日の夕飯は奮発して、唐揚げにでもしようかな。

だって、あんなに素晴らしい映画を見せてくれたんですもの。

これくらいの「製作費」は、我が家の財務省(私)としても喜んで計上しますよ。

 

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

エンドロールの後も、人生という物語は続きますからね。

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