図書館の席で、英二の手紙を読むアッシュ。『バナナフィッシュ』の最後を思い出すと、銃撃戦より先に、あの静かな姿が浮かびます。
原作の結末と主要人物の生死に触れるネタバレです。吉田秋生の原作漫画『バナナフィッシュ(BANANA FISH)』は、本編全19巻で完結しています。
アッシュは最後に死にます。薬を巡る大きな陰謀は終わるのに、その後のたった一人の誤認が彼の命を奪う。読み終えたあと、しばらく本を閉じたままになる結末でした。
原作の結末はアッシュの死。薬の陰謀を終えた後に刺される
アッシュの死因は、シンの兄ラオに刺された傷です。ラオを撃ち倒したアッシュも、致命傷を負っていました。負傷したまま戻った先は、ニューヨークの図書館です。
手元にあるのは、日本へ帰る英二からの手紙。離れても魂はずっとそばにいるという思いを受け取り、アッシュはほほ笑みを浮かべて息絶えます。敵との決戦を生き延びた先に、この別れが待っていたんですね。
ラオが襲った理由は、弟のシンを守るためでした。シンとアッシュの決闘はすでに中止されていましたが、弟と仲たがいしていたラオは、その変化を知らずに襲撃します。
大きな組織や薬を倒しても、人と人のすれ違いが残る。私には、この落差が最後の図書館をいっそうつらくしているように感じられます。
バナナフィッシュの正体は、兄グリフィンの精神を壊した薬

死にかけた男の言葉が、兄の過去につながる
物語の始まりでは、ニューヨークのストリートギャングを率いる17歳のアッシュが、死にかけた男から「バナナフィッシュ」という言葉を聞きます。男が託したのは、薬物のサンプルでした。
その言葉は、アッシュの兄グリフィンが繰り返していたもの。ベトナム戦争に従軍したグリフィンは、突如として仲間に発砲し、帰国後も精神を病んでいました。弟にとっては、兄に何が起きたのかを知る手がかりになるんです。
同じ頃、ギャングの取材で日本から来たカメラマン助手・奥村英二と出会います。アッシュを支配し、犯罪組織の後継者にしようとするディノ・ゴルツィネも、謎の言葉を追う動きに介入。英二はアッシュの争いへ巻き込まれていきます。
殺人の容疑で投獄されたアッシュは、グリフィンと戦地を共にしたジャーナリスト、マックス・ロボと知り合います。兄を知る大人が、やがて陰謀を追う協力者になる流れです。グリフィンも争いの中で命を落とし、アッシュはマックスたちと薬の謎を追っていきます。
ゴルツィネは薬を政治と軍事に利用しようとした
ロサンゼルスでたどり着くのは、ドースン兄弟による薬物研究。バナナフィッシュは、恐怖や暗示によって人を操り、精神を壊す薬です。グリフィンも、その実験の犠牲になっていました。
弟エイブラハムは、バナナフィッシュを兵器として利用する研究を続けます。ゴルツィネは米軍や政府関係者を取り込み、その力で中南米の政治を動かし、自分の権力を広げようとしていました。
薬の名を追っていたはずが、軍と政治家まで出てくる。果物の名前から想像する軽さとは、ずいぶん遠い場所に連れていかれます。アッシュの個人的な問いが、巨大な利権に触れてしまったんですね。
ショーターは薬で英二を襲い、アッシュに撃たれる

アッシュの親友ショーター・ウォンは、チャイナタウンの仲間を率いる少年です。中国系マフィアの李一族に迫られ、アッシュたちを裏切る役目を負わされます。彼らの前に現れた月龍も、李一族の一人です。
捕らえられたショーターは、薬の効果を示すためにバナナフィッシュを投与されます。植え付けられた暗示は、英二を殺せというもの。苦しみながら英二を襲うショーターを、アッシュは目の前で止めることになります。
ショーターはわずかに自分を取り戻し、アッシュに殺してくれと求めました。アッシュは、英二を守り、ショーターの苦痛を終わらせるために親友を射殺します。薬の恐ろしさが、ここで仲間の死として突きつけられるんです。
月龍の助けと仲間たちの襲撃で、アッシュと英二は屋敷から脱出します。生き残っても、自分の手で友人を撃った痛みは抱えたままでした。
ショーターの後を継ぐシン・スウ・リンは、当初アッシュを敵視します。後に薬の事情を知り、アッシュと協力するようになる人物です。シンが歩み寄る一方で、兄ラオはアッシュへの警戒を続けていました。
オーサーとの決闘と研究施設からの脱出で、争いは続く
オーサーを倒しても、アッシュは捕らえられる
ニューヨークへ戻ったアッシュは、コンピューターを使ってゴルツィネの資金に打撃を与えます。一方、対立するギャングのオーサーは、ゴルツィネの後ろ盾を得てアッシュを追い詰めていました。
二人は一対一の決闘で決着をつけようとします。オーサーは部下を乱入させ、その約束を破りました。アッシュは最後にナイフでオーサーを倒します。
ただ、戦いで負傷したアッシュは捕らえられ、バナナフィッシュの研究を進める医療施設へ送られます。施設側は彼が死んだという情報を流し、その身柄を隠しました。英二たちにとっても、アッシュの行方が揺らぐ時間になります。
マナーハイムの施設では、薬が研究されていた
マナーハイムの施設では、囚人への投薬を通じて研究が続いていました。アッシュ自身も、研究対象として狙われます。
アッシュは脱出し、施設に捕らえられていたアレクシスも連れ出します。英二との再会を果たして、ゴルツィネとの争いへ戻ることに。ようやく会えた二人を見て、こちらも息をつけるのですが、休憩時間の短さにはため息が出ます。
ブランカと月龍は、英二をアッシュの弱点として狙う
アッシュの前に現れるブランカは、かつて彼を鍛えた殺し屋です。ゴルツィネに雇われ、英二の命を交渉の材料にします。腕も判断も知っている相手からの圧力は、アッシュにとって特に厳しいものでした。
アッシュは英二を守るため、薬の情報とアレクシスをゴルツィネへ引き渡し、自分もその支配下へ戻ります。ゴルツィネが進めるのは、アッシュを養子にして後継者へ据える計画。英二たちは救出へ動き、パーティーから連れ出します。
月龍の狙いは、自分と母を傷つけた李一族への復讐です。ゴルツィネと手を組んで兄たちを排除する一方、アッシュを支える英二にも強い敵意を向けます。アッシュを孤立させるために、英二の殺害を企てるんです。
その策略で、シンの仲間二人が英二を襲撃。英二は銃撃され、重傷を負います。アッシュは襲った二人を撃ち殺し、シンは自分の部下が起こしたことの責任を取ろうと、アッシュへ決闘を申し出ました。
ここでシンの兄ラオが、弟を案じてアッシュへの警戒を強めます。シンはアッシュと話をつけようとし、ラオは弟を守るためにアッシュを危険視する。兄弟の意見が割れ、ラオはシンのもとを離れます。
最後の敵フォックスをゴルツィネが撃ち、薬の計画も崩れる

終盤、ゴルツィネが雇った傭兵部隊を率いるフォックスが、アッシュたちを襲います。英二は病院へ運ばれ、陰謀と政治家の不正を追うマックスも人質に。アッシュはブランカの協力を得て、ゴルツィネを捕らえます。
ところが、フォックスは雇い主のゴルツィネを撃ち、アッシュも拘束します。フォックス自身が薬と組織の力を奪おうとしたためです。ゴルツィネの支配も崩れていきます。
シンやブランカたちが救出に動き、戦いは屋上へ。アッシュは転落しかけたシンに気を取られ、フォックスから銃を向けられます。そのフォックスを撃ったのが、傷を負ったゴルツィネでした。
ゴルツィネはアッシュを救った後に炎の中へ落ち、フォックスも死亡します。バナナフィッシュの研究資料も失われ、薬を利用する陰謀は終わりました。
最後の行動でアッシュを救ったゴルツィネは、長く彼を虐待し、支配してきた人物でもあります。私はこの救出を読むたび、彼の執着の強さを感じます。一度の救出と、それまでアッシュに負わせた傷が同じ場面に重なるので、すっきりした和解とは受け取りにくいんですよね。
月龍は生き残り、シンとチャイナタウンの立て直しへ向かいます。ブランカはアッシュをカリブへ誘い、最後に別れを交わしました。アッシュはシンとの決闘も取りやめ、薬と敵を巡る争いに、ようやく区切りをつけます。
英二の手紙を受け取った後、ラオの誤認がアッシュを襲う

会わずに別れようとしたアッシュが走り出す
英二は回復し、日本へ帰ることになります。アッシュは英二を危険から遠ざけようとして、会わずに別れるつもりでした。シンが図書館へ届けるのは、英二からの手紙です。
手紙には、英二にとってアッシュがかけがえのない存在だという思いが込められています。国や距離が二人を隔てても、魂はいつも共にある。アッシュを恐れ、利用しようとする人々の中で、英二は彼を大切に思い続けたんです。
その手紙を受け取ると、アッシュは英二のもとへ向かおうと図書館を飛び出します。やっと自分から会いに行く! そう思った直後に、ラオが待ち受けています。
ラオは弟シンを守るためにアッシュを刺す
ラオは、アッシュと弟シンが決闘すると考えていました。弟をアッシュに殺される前に、自分が止める。そう考えてアッシュを刺します。
アッシュは銃で応戦し、ラオを倒します。互いに致命的な傷を負い、ラオも死亡。シンがアッシュと和解し、決闘が中止になった事実は、襲撃するラオに届かないままでした。
アッシュは負傷した体で図書館へ戻ります。席について読むのは、英二からの手紙。ほほ笑みを浮かべたまま、アッシュは息絶えました。
決闘を取りやめ、シンと和解したアッシュが、シンを守ろうとする兄に刺される。この巡り合わせがつらいです。兄の動機と弟の気持ちがすれ違ったまま、英二に会いに行く足まで止めてしまうんですから。
最後の笑顔はどう読む?「助かったはず」と「死を選んだ」は考察
アッシュの死亡は原作の結末の事実で、治療による救命可能性や笑顔の意味は考察です。ラオから致命傷を受けた後、アッシュは図書館へ戻り、英二の手紙を読みながら最期を迎えます。
「病院へ行けば」と、私もつい別の結末を想像してしまいます。英二とまた会える道を、いつまでも探したくなるんですよね。
自ら死を選んだという読み方も、アッシュの行動に対する解釈です。図書館へ戻ったという出来事には、英二の言葉に包まれたかったという読み方や、死が迫る中で安心できる場所へ帰ったという読み方もあります。
私は最後の笑顔を、英二の思いを受け取り、自分が大切にされていると感じられた瞬間として受け止めています。そう読むと胸が少し救われますが、二人が一緒に暮らす未来も見たかった。笑顔の穏やかさと、早すぎる死への悲しさが、両方残る結末でした。
原作19巻の結末と、後日談『光の庭』
通常の単行本では、『BANANA FISH』19巻に本編の決着が収録されています。電子版シリーズの全20巻には、短編を集めた1巻も入っているんです。
20巻には、若いアッシュとブランカの出会いを扱う『PRIVATE OPINION』や、英二と伊部の出会いを描く『Fly boy,in the sky』などが収録されています。
後日談『光の庭』では、英二はニューヨークで写真家として暮らし、シンとも関わり続けます。アッシュを失った後の英二に、日々の生活と記憶がある。その姿から、あの手紙を送った人の、その先の時間にも触れられます。
2018年のテレビアニメ版は、舞台の時代を現代に移しています。人物の声や街の雰囲気も楽しめるので、原作を読んだ後に映像のアッシュと英二に会う楽しみもありますね。
2018年のテレビアニメ『BANANA FISH』公式第1弾PVです。
FAQ
アッシュはバナナフィッシュを飲んで死んだのですか?
命を奪った直接の原因は、ラオによる刺傷です。
月龍も最後に死亡するのですか?
月龍は本編の最終局面を生き延びます。シンの働きかけを受け、チャイナタウンを再建する側へ進みます。英二を殺そうとした彼にも、その後の役割が残るんですね。
アッシュと英二の関係は、恋人と決まっているのですか?
二人の関係の呼び方は解釈になります。アッシュは英二のために支配者のもとへ戻り、英二は離れてもそばにいるという思いを手紙に託します。友情、愛情、魂の結びつき。私は、どの言葉を選んでも簡単には収まりきらない二人だと感じます。
まとめ
『バナナフィッシュ』は、兄の異変を追うアッシュが、人を操る薬と権力者の計画にたどり着く物語です。親友を失い、英二を守るために自由を差し出しながら、最後には薬を使う陰謀を終わらせます。
それでも、ラオが弟の和解を知らずに起こした襲撃によって、アッシュは命を落とします。最後に彼が手にしていたのは、距離を越えて寄り添う英二の手紙でした。
私は図書館の笑顔を見ると、悲しさと安心が同時に残ります。だからこそ、読み終えた後も英二の手紙を思い返してしまう。二人が交わしたものの大きさが、あの静かな最後に詰まっているんですね。