殺人現場に残されたのは、バットマン宛てのなぞなぞです。犯人を追っていたはずが、警察も政治家も自分の父親も疑うことになる。黒いマスクをかぶっていても、これはさすがにこたえますよね。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は、マット・リーヴス監督による2022年の映画です。
※結末と犯人の正体を含むネタバレがあります。
市長殺害から始まる捜査と、セリーナが捜すアニカ

なぞなぞが結びつける、市長と警察とナイトクラブ
ハロウィーンの夜、ゴッサム市長ドン・ミッチェル・ジュニアが、覆面の殺人犯リドラーに殺されます。バットマンとして活動を始めて2年のブルースは、刑事ジェームズ・ゴードンと現場を調べました。警察内では異物のように扱われる彼を、ゴードンは捜査に招き入れるんです。
市長の車から見つかるのは、切断された親指とUSBメモリー。保存されていた写真に写る女性がアニカで、撮影場所はペンギンが営むナイトクラブ「アイスバーグ・ラウンジ」でした。
店で働くセリーナ・カイルは、アニカと一緒に暮らす友人です。バットマンが写真の意味を追う一方、セリーナは姿を消したアニカを捜しています。二人の目的が、この店で交わりました。
リドラーは続いて警察本部長サベージも殺害。捜査が進むにつれ、市長や本部長、地方検事ギル・コルソンと、犯罪組織のボスであるカーマイン・ファルコンの癒着が浮かびます。ゴッサムの偉い人たち、ずいぶん同じ店に集まるんですね。
コルソンが命と引き換えに守った「密告者」
市長の葬儀会場へ車が突っ込み、中から現れたコルソンの首には時限爆弾が付いていました。リドラーは電話越しに、三つのなぞなぞへ答えるよう迫ります。
バットマンが答えを手助けしても、最後の問いでコルソンは口を閉ざしました。問われたのは、マフィアのサルバトーレ・マローニを摘発する情報を警察へ渡した人物の名前です。
告白すれば自分や家族まで危うい。密告者への恐怖が勝ち、コルソンは爆死します。大手柄として扱われていたマローニ摘発には、それほど危険な秘密が隠れていたんです。
「翼のあるネズミ」の謎は、ウェイン家の過去へつながる
ペンギンを追った先で、再開発基金の腐敗が見える
リドラーの手がかりにある「翼のあるネズミ」は、警察へ仲間を売る密告者を指します。バットマンとゴードンは、鳥の名を持つペンギンを疑い、麻薬取引の現場を追いました。その現場では、金を盗もうとしたセリーナが車のトランクでアニカの遺体を発見します。
激しいカーチェイスの末にペンギンを捕まえても、狙った相手は外れていました。しかも、彼は手がかりのスペイン語に文法の誤りがあると指摘。あれだけ追い回した末に、まさかの語学指導です!
「You are el」の音が示していたのは、ウェブアドレスを意味するURLでした。バットマンたちはリドラーのサイトを通じて、新たな手がかりを得ます。
行き着くのは、ウェイン家と関わりのある荒れた孤児院です。ブルースの父トーマスは、生前、街を立て直す再開発基金を設けていました。父母の死後、その金はファルコンや腐敗した有力者たちの利益に回り、支援を待つ人々が取り残されたんです。
マローニの摘発で得をしたのは、麻薬事業を奪い、警察や司法にも手を伸ばしたファルコンでした。街の浄化をうたった成功談の裏で、犯罪組織の支配が強まっていたわけです。
父への告発と、ブルース宛ての爆弾
ブルース宛ての小包爆弾が届き、代わりに受け取った執事アルフレッドが重傷を負います。ブルースが標的だと気づいて連絡を急いだときには、爆発が起きたあとでした。
さらにリドラーは、トーマスがファルコンに記者を殺させたと告発します。記者が探っていたのは、ブルースの母マーサとその家族の精神疾患に関する過去です。
そばで支えてきた人を失いかけたところへ、父の過去まで突きつけられる。ブルースが追い詰められるのも当然ですよね。
病院でアルフレッドが明かす経緯は、告発とは違いました。トーマスが頼んだのは、記者を脅して口をつぐませること。ファルコンが殺害に及ぶと、トーマスは自分の過ちを認め、警察にすべて話そうとしたというんです。
父を善人として信じてきたブルースにとって、脅迫を頼んだ事実だけでも痛い話です。同時にアルフレッドの説明は、父が最後には罪と向き合おうとした姿も残しました。
セリーナの父はファルコン、密告者も同じ男だった

セリーナは、ファルコンが自分の実の父親だとバットマンに打ち明けます。母は彼の店で働いていた女性で、セリーナは幼いころに母を失っていました。
そして、アニカが残した通話の録音から、彼女を殺したのもファルコンだと分かります。アニカは、市長を通じてファルコンがマローニを売った密告者だと知り、口封じの標的になったのでした。
「翼のあるネズミ」の正体は、ペンギンの上に立つファルコンです。セリーナの身近な喪失と、バットマンたちが追う汚職事件が、ここで一人の男へつながります。
復讐を決めたセリーナは店へ乗り込み、父に銃を向けました。対決の中でファルコンは、セリーナの母も殺したと認め、娘の首を絞めます。バットマンが間に入り、彼女を救いました。
バットマンはセリーナが父を殺すのを止め、ゴードンがファルコンを逮捕します。ところが、店の外へ連れ出した直後、リドラーの狙撃でファルコンは死亡しました。
リドラーが求めた、密告者を「光の下へ連れ出す」という行動。その言葉は汚職の暴露と同時に、狙撃できる場所へ標的を出す罠でもあったんです。真相に近づいたバットマンが、殺人を手伝わされていた。この嫌な手触りが残ります。
リドラーはなぜ自ら捕まった?逮捕後に始まる洪水計画

孤児エドワードが、バットマンを「仲間」と思った理由
警察は近くのカフェでリドラーを逮捕します。正体は、会計の仕事をするエドワード・ナッシュトンでした。彼は自ら捕まるつもりで、その後の計画も準備していたんです。
エドワードは、支援を失った孤児院で育った子どもの一人です。再開発基金の金の流れから汚職を知り、有力者たちを殺して罪を暴こうとしました。
彼がブルースまで狙った理由には、同じ孤児としての強い怒りがあります。街は莫大な財産を持つブルースの悲劇を悼む一方、困窮する孤児たちを忘れていきました。エドワードにとって、ウェインの名は果たされなかった約束の象徴です。
アーカムでバットマンと面会すると、リドラーは彼を、自分とともにゴッサムの腐敗を暴いた協力者として迎えます。自分は証拠となるなぞなぞを用意し、バットマンが解いてファルコンを外へ出す。彼の頭の中では、二人の共同作業が成立していたのでした。
もちろんバットマンは激しく拒絶します。本人の承諾もなく、ずいぶん大きな相棒扱いですよね。リドラーは、その拒絶に取り乱しました。
防潮壁の爆破と、避難先を襲う支持者たち
リドラーの部屋に隠された地図と動画から、バットマンは最後の計画を知ります。街の防潮壁沿いには爆弾が仕掛けられ、ネットで集まった支持者たちも襲撃を準備していました。
やがて爆弾が爆発し、ゴッサムへ大量の水が流れ込みます。逮捕に成功した警察も、仕掛けられた災害には間に合いません。
新市長に選ばれたベラ・リアルの支持者が集まる会場「ゴッサム・スクエア・ガーデン」は、洪水から逃れる人々の避難先にもなります。リドラーの支持者たちは高所から会場を狙い、新市長と市民を銃撃しました。
ここまで来ると、標的は汚職に手を染めた権力者から、街で生きる人々へ広がっています。支援を奪われた怒りを抱くリドラーが、今度は他人の暮らしや命を奪う側に立っているんです。
結末のバットマンは、拳を振るう男から手を差し出す男へ

襲撃者が口にした「復讐」が、ブルースに突き刺さる
バットマンは会場へ駆けつけ、武装した支持者たちと戦います。追い詰められた彼をセリーナが助け、二人は襲撃を食い止めました。撃たれたベラ・リアルも生き延びます。
その戦いのあと、倒れた襲撃者が自分を「復讐」と呼ぶんです。それはバットマン自身が、犯罪者を殴りつけながら名乗っていた言葉でした。
自分が掲げた言葉を、市民に銃を向けた男から聞かされる。私は、この瞬間のブルースがいちばん痛々しく感じます。リドラーに気に入られたこと以上に、自分の怒りが他人へどう届いていたかを突きつけられる場面ですよね。
赤い発炎筒と、市長の息子が取った手
浸水する会場では、垂れ下がった電線が感電の危険を生みます。バットマンは電線を切って水へ落ち、浮かび上がると赤い発炎筒を灯しました。
がれきに阻まれた人々へ手を差し出すと、殺されたミッチェル市長の息子が応じます。ベラたちも続き、バットマンは発炎筒を掲げて、水の中を歩く人々を導きました。
彼の光を頼りに、市民が自分の足で安全な場所へ進んでいきます。大勢の敵を倒した場面より、この歩く姿のほうが胸に残るんですよね。
その後もブルースは負傷者の救助に加わり、人々の恐怖や痛みと向き合います。私の解釈では、発炎筒の明かりは、ブルースが自分の怒りを他人のために使い始めた印です。殴るときには届かなかった安心を、伸ばした手が渡しているんですね。
セリーナとの別れは、二人が選んだ行き先の違い
セリーナはゴッサムを離れると決め、ブルースに一緒に来るよう誘います。彼女にとって、この街には友人と母を奪われた記憶がある。これ以上いたくない気持ちも分かりますよね。
二人が寄り添うと、ブルースは空のバットシグナルへ目を向けます。その視線で彼の答えを受け取るセリーナ。バイクで並んで走った二人は、道の分かれる場所でそれぞれの方向へ進みました。
恋愛の余韻があるぶん、あの走り去り方は寂しいです。相手への思いを抱えたままでも、同じ場所で生きる選択にはならない。大人になると、こういう別れのほうがこたえませんか。
最後のアーカムの囚人は誰?ジョーカーになる前の男です
アーカムでは、救援が進む様子に動揺するリドラーへ、隣の房の囚人が声をかけます。男は友人を答えにするなぞなぞを出し、リドラーと笑い合いました。
この囚人を演じているのはバリー・コーガンです。クレジット上の役名は「姿の見えないアーカムの囚人」に当たる表記ですが、マット・リーヴス監督は、彼をジョーカーになる前のジョーカーだと明かしています。
このやり取りについて、私はリドラーの孤独につけ込む場面だと受け取りました。バットマンに拒まれて崩れた彼へ、今度は別の男が親しさを差し出す。この部屋割り、もう少し何とかならなかったんでしょうか。
水害の救援が進む街と、房の中で通じ合う二人。私はあの笑い声に、せっかくの安堵を邪魔された気分でした。
注意したいのは、ウェイン夫妻殺害をめぐる二人の証言
ブルースが父の件を問いただすと、ファルコンは、敵対するマローニがウェイン夫妻を殺させた可能性を口にします。トーマスと自分の関係を、マローニが恐れたという話でした。
一方、アルフレッドが疑う相手はファルコンです。トーマスが警察へ行けば、記者殺害も発覚する。そこでファルコンが夫妻を口封じしたのかもしれない、と考えています。
夫妻殺害の依頼主は、ファルコンとアルフレッドが異なる相手を疑う謎のままです。ファルコンには自分を守る事情があり、アルフレッドの話にも推測が交じります。
この食い違いが苦いのは、ブルースが父の潔白を信じたいときほど、人の言葉にすがりたくなるからでしょう。彼もまた、父を奪われた子どものままの部分を抱えているんですね。
日本版予告をもう一度再生すると、なぞなぞの怖さが増す
ワーナー ブラザース公式チャンネルの日本版予告です。
結末を知ってからだと、犯人の問いかけを聞く時間にも身構えてしまいます。答えが分かるたびにうれしくなる探偵映画なのに、そのうれしさをリドラーも共有していた。予告を短く見返すだけでも、あの妙な近さがぞっとするんです。
FAQ|ザ・バットマンのラストで気になること
リドラーはバットマンの正体がブルースだと知っていた?
リドラーは、バットマンとブルースを別人として認識しています。面会でブルースの名を繰り返すため、正体がばれたように緊張しますが、彼が悔しがっていたのは、ブルースだけを殺し損ねたことでした。あの言い方は心臓に悪いです!
エンドクレジットの最後には何が出る?
緑色の文字で「GOOD BYE ?」というメッセージが現れ、リドラーのサイトを示すアドレスが一瞬表示されます。本編が終わったあとまで、なぞなぞの気配を残す締め方です。
まとめ
『ザ・バットマン』は、謎を解く力と、人を助ける力の間にある距離を突きつけてきます。正解へたどり着いても、それからどう振る舞うかが問われるんですね。
泥だらけのヒーローを見終えたあと、派手な勝ち名乗りより、誰かのそばに立つ姿が恋しくなる。私には、そんな余韻の残る一本でした。