ここからは、映画『ブレードランナー』(1982)の2007年ファイナル・カット版の結末までネタバレです。原作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と続編『ブレードランナー 2049』は別作品です。
ロイがデッカードを助けたところで、やっと息がつけた。と思ったら、最後にユニコーンの折り紙が残ります。あの小さな紙が気になって、エンドロール中も頭が休まらないんですよね。
ロイ・バッティはデッカードを救った直後、寿命を迎えて死にます。デッカードは生き残り、レーチェルを連れて部屋を出ます。デッカード自身がレプリカントかどうかは、本編では明言されません。夢と折り紙が、その疑いを強くする仕掛けです。
デッカードの任務は、地球へ逃げた4人のレプリカントを殺すこと

舞台は2019年のロサンゼルス。タイレル社が生み出したレプリカントは、人間によく似た体を持つ人工の人間です。地球外の植民地で危険な労働をさせられ、反乱の後、地球への立ち入りを禁じられました。
違法に地球へ来たレプリカントを追い、殺す捜査官がブレードランナーです。人間と見分けがつかない相手に、銃を向ける仕事なんです。
仕事を離れていたリック・デッカードは、ガフに連れられて元上司ブライアントのもとへ。引き受けるのを渋っても、ブライアントは圧力をかけて復帰させます。休んでいる人を呼び戻して、断る余地までなくす。未来の警察も、仕事の頼み方は強引ですね。
標的はロイ・バッティ、レオン、ゾーラ、プリスの4人。捜査官ホールデンは、質問への感情的な反応で人間とレプリカントを見分ける検査の最中、レオンに撃たれています。その映像を見たデッカードが、追跡を引き継ぎました。
レーチェルは、自分を人間だと思っていた
デッカードはタイレル社で、社長エルドン・タイレルの助手レーチェルに検査をします。通常より長く質問を続けた末に分かったのは、彼女もレプリカントだということ。本人は、その事実を知りませんでした。
レーチェルには、心を安定させ、扱いやすくするために他人の記憶が植え付けられています。子どものころの思い出があるため、自分も人間として育ったと信じていたんです。
彼女はデッカードの部屋を訪ね、母親と写った写真を見せて人間だと訴えます。ところがデッカードは、彼女が話していない幼いころの出来事を言い当て、その記憶はタイレルの姪のものだと告げました。レーチェルは涙を流して去るんです。
写真がある。覚えていることもある。それでも自分の過去ではなかったという衝撃は、かなりきついですよね。彼女が失ったのは、自分が人間として生きてきたという確信です。
写真と人工の蛇が、ゾーラの居場所につながる
レオンの部屋からは写真とうろこが見つかります。デッカードが写真を拡大すると、鏡に映った女性の姿が浮かび上がりました。うろこは人工の蛇のもので、製造元をたどった先に、蛇を使う踊り子ゾーラがいたのです。
写真の隅から鏡の中まで探れる機械には感心しますが、そこから先は店を回って聞き込み。未来の捜査でも、歩く仕事は減っていませんね。
デッカードは店の楽屋でゾーラに接触します。彼女は彼を襲って逃げ、人混みの中を走りました。追うデッカードが背中を撃ち、ゾーラは店のガラスを突き破って倒れます。最初の標的は、こうして死亡しました。
レオンを撃つのは、デッカードではなくレーチェル
ゾーラの死後、ブライアントはタイレル社から姿を消したレーチェルも殺すよう命じます。デッカードが街で彼女を見つけた直後、レオンが襲いかかりました。
レオンの力に圧倒され、デッカードは銃を失います。命を奪われる寸前、レーチェルがその銃でレオンを射殺し、彼を救いました。デッカードの命を最初に救うのは、警察が新たな標的に加えたレーチェルです。
部屋に戻ったデッカードは、自分は彼女を追わないと約束します。ただ、ほかの捜査官は追ってくる。ここでレーチェルは、タイレル社にいた助手から、命を狙われる逃亡者になってしまうんです。
2人はキスを交わし、関係を深めます。ただし、デッカードが帰ろうとする彼女を引き止め、強引に迫る場面でもあります。私はここを、安心して眺められる恋愛場面とは感じません。最後に2人が一緒に逃げても、デッカードが彼女の意思を押し切った場面は気にかかるんです。
ロイは寿命を延ばすため、創造主タイレルを訪ねる
ロイたちが地球に戻った大きな目的は、長く生きることです。彼らはネクサス6型のレプリカントで、寿命は4年に制限されています。自分を作ったタイレルなら、その制限を変えられるのではないか。ロイはタイレルに会うため、製造に関わった人間を探します。
チューからセバスチャンへ、タイレルへの道をたどる
ロイとレオンは、レプリカントの目を作る技術者チューを脅し、タイレルと親しい設計者J・F・セバスチャンの名を聞き出しました。一方、プリスはセバスチャンに近づき、彼の部屋に迎え入れられます。
セバスチャンは人工の人形を作り、それらと暮らす孤独な人物です。若くして老化が進む病気も抱えていました。ロイがプリスのいる部屋へ来たとき、生き残っていたのはこの2人だけ。ゾーラもレオンも死んだと、プリスに知らせます。
ロイとプリスは、限られた寿命という問題をセバスチャンに訴え、協力を求めました。タイレルとチェスをしていたセバスチャンは、その対局を口実にロイをタイレルのもとへ連れていきます。
延命はかなわず、タイレルとセバスチャンが死ぬ
ようやく創造主に会えたロイは、寿命を延ばしてほしいと迫ります。けれどタイレルは、すでに作られた生命の仕組みを変えることはできないと説明しました。ロイが別の方法を挙げても、答えは変わりません。
タイレルはロイの優れた能力と短い人生をたたえます。それでも、ロイが欲しかったのは称賛より時間でした。ここまで来たのに、明日を増やしてもらえないんです。
ロイはタイレルにキスした後、その目と頭を押しつぶして殺します。同行したセバスチャンの死も、その後の警察無線で知らされました。セバスチャンが殺される瞬間は画面には出ません。
長く生きたい願いを抱えたロイは、他人の命を奪っています。私は屋上の救出に胸を打たれますが、タイレルの最期を思い出すと、簡単には彼を許せません。セバスチャンまで死んでいるのですから。
プリスの死から屋上へ――追う側と逃げる側が入れ替わる

タイレルとセバスチャンの死を受け、デッカードはセバスチャンの部屋へ向かいます。そこにはまだプリスがいました。人形に紛れて身を潜めた彼女は、近づいたデッカードに飛びかかります。
体を締めつけられながらも、デッカードはプリスを撃ち殺しました。帰ってきたロイは彼女の遺体に触れ、キスします。寿命を延ばす望みも仲間も失い、ロイはデッカードを追い始めるんです。
ロイはデッカードの指を折り、自分の手には釘を刺す
ロイは壁越しにデッカードの手をつかみ、ゾーラとプリスのためだと告げて2本の指を折ります。その後も建物の中を追い立て、今度はデッカードが殺される恐怖を味わう側になりました。
ただ、ロイの体も限界です。手がこわばり始めると、自分の手のひらに釘を刺し、それでも追跡を続けます。あの傷はデッカードにつけられたものではありません。死が迫る中で、自ら負わせた傷です。
デッカードは屋上から隣の建物へ跳び移ろうとして失敗し、縁にぶら下がります。指を折られた手では、体を支えるのも苦しい。ロイは同じ隙間を跳び越え、彼の上に立ちました。
落ちる寸前、ロイはデッカードの腕をつかみ、屋上へ引き上げます。仲間を殺した相手を、ロイは最後に生かす方を選びます。あれだけ追い詰めた後で、今度は救うんです!
「雨の中の涙」は、死とともに失われる記憶のこと
雨に打たれる屋上で、ロイは自分が見てきた光景を語ります。オリオンの近くで燃える攻撃艦、タンホイザー・ゲートのそばで輝く光。それらの瞬間も、自分の死とともに雨の中の涙のように消えてしまうのだと。
この言葉の後、ロイは頭を垂れて死亡します。手にしていた白い鳩が飛び立ち、デッカードはその最期に立ち会いました。ロイの最期はデッカードによる射殺ではなく、4年の寿命の終わりです。
ロイが語るのは、自分だけが見てきた光景です。私はこの場面を、ひとりの人生が終わる場面として受け取ります。記録を残したくなるほど大切な思い出がある。その実感が、短い言葉から伝わってくるんですよね。
考察:なぜロイはデッカードを助けたのか
私には、死を目前にしたロイが、敵の命も自分の命と同じように惜しんだように見えます。少し前まで他人の命を奪っていた彼が、最後の瞬間には救う。だからこそ、この救出はすんなり「善い人だった」で片づけられません。
自分の経験を聞く相手を残したかった、という解釈もできます。救い上げたデッカードに向かって、ロイは記憶を語るからです。延命には失敗しましたが、その場には彼の最期を見届ける相手がいました。
1982年劇場版では、デッカードも語りの中で、ロイは最期に他人の命も大切にしたのかもしれないと考えています。ロイ本人が救った理由を説明する台詞はありません。私は、その答えを言い切らないところも好きですね。
レーチェルとの出発と、ユニコーンの折り紙が残す疑い
ロイの死後に現れるガフは、デッカードの仕事をねぎらいます。そして、レーチェルが生きられないことに触れ、誰だって永遠には生きられないという言葉を残しました。
デッカードは部屋へ戻り、眠っているレーチェルを見つけます。彼女は生きています。2人は一緒に部屋を出ました。捜査の対象だった女性を連れて逃げるのが、デッカードの最後の選択です。
ガフが部屋に来た形跡――ただし、意図は謎のまま
廊下にはユニコーンの折り紙が落ちています。デッカードはそれを拾い、ガフの言葉を思い出しました。以前から折り紙を作っていたガフが、レーチェルのいる部屋まで来たことを示す置き土産と読めます。
彼女を見逃したのか、それとも、居場所を知っているという警告なのか。ガフの意図は、この映画では説明されません。口数の少ない人の折り紙ひとつに、ここまで悩まされるとは。
ファイナル・カットでは、デッカードがレーチェルとエレベーターに乗り、扉が閉まって終わります。街からの脱出や、その後の生活は描かれません。2人が決めたのは、一緒にここを去ることでした。
考察:夢と折り紙は、デッカードがレプリカントである暗示
1992年ディレクターズ・カットと2007年ファイナル・カットには、デッカードがユニコーンの夢を見る場面があります。本人の頭の中の光景と、ガフが残した折り紙が同じユニコーンなんです。
レーチェルの記憶をデッカードが知っていたように、ガフもデッカードに植え付けられた記憶を知っていたのではないか。そこから、デッカードも自分を人間と思い込んだレプリカントだという解釈が生まれます。
夢と折り紙はレプリカント説を示唆しますが、デッカードが人間かレプリカントかを明言する台詞は本編にありません。ガフが夢を知る仕組みも、台詞で説明されませんでした。
人間として見れば、彼は追っていた者たちに命を救われ、レーチェルと生きることを選びます。レプリカントとして見れば、自分も同じように狙われうる立場になる。どちらの解釈でも、最後に誰と行くかを決めるのはデッカード自身です。
注意:1982年劇場版と1992年・2007年版ではラストが違う

「最後は緑の中を走っていたはず」「エレベーターで終わった」。この違いは、観客の記憶違いとは限りません。1982年劇場公開版と、その後の編集版には次の差があります。
| 版 | デッカードの語り | ユニコーンの夢 | 最後の場面 |
|---|---|---|---|
| 1982年劇場公開版 | あり | なし | 2人が自然の中を移動する映像 |
| 1992年ディレクターズ・カット | なし | あり | 2人が乗ったエレベーターの扉が閉まる |
| 2007年ファイナル・カット | なし | あり。夢の映像を完全な形で復元 | 1992年版と同じくエレベーターで終幕 |
1982年の米国劇場版とインターナショナル劇場版には、暴力描写の細部に差があります。ただ、どちらにもナレーションと自然の中へ逃れる映像があり、ユニコーンの夢はありません。折り紙のユニコーンは、劇場版にも登場します。
劇場版の最後の語りでは、レーチェルは特別な存在で、寿命の期限が設定されていないとデッカードが説明します。そこで4年の制限への心配は和らぎますが、2人が何年一緒に暮らせるのかは彼にも分かりません。
レーチェルに寿命の期限がないという劇場版の説明は、1992年版・2007年版の最後にはありません。エレベーターで終わる2つの版では、彼女に残された時間も不明です。ファイナル・カットには、自然の中へ逃れる2人の映像はありません。
2007年版では映像・音声や一部の台詞も修正されています。それでも、ロイがデッカードを救って死ぬという決着は共通。ユニコーンの夢と最後の語りの有無が、正体や将来についての受け取り方を変えるんです。
ファイナル・カットを見直すなら、写真・ロイの手・折り紙に注目
まず、作品名に「ファイナル・カット」「ディレクターズ・カット」「インターナショナル劇場版」のどれがついているかを確認します。ディスクの収録版を調べるときは、ワーナーの作品・商品ページにある各商品の収録内容が役立ちます。同じ1982年の映画でも、再生する版で最後が変わるんです!
見直すとき、私はレーチェルが差し出す写真に目が向きます。人間だと証明するために見せた写真なのに、デッカードは、その思い出は他人のものだと告げてしまう。その会話を覚えていると、夢を知っているかのようなガフの折り紙が、いっそう不気味に感じられるんですよね。
屋上の前では、ロイの手がこわばる場面にも注目です。彼がすでに死に近づいていると分かると、デッカードを引き上げる動作が、残された短い時間での選択として見えてきます。追跡の勢いに気を取られると、つい見過ごしてしまうところです。
『ブレードランナー ファイナル・カット』のワーナー公式予告編です(英語)。
FAQ
ロイを殺したのは誰ですか?
誰かにとどめを刺される最期ではありません。ネクサス6型として設定された寿命が尽き、ロイは屋上で息を引き取ります。デッカードはその直前に、彼の腕で助けられました。
デッカードはレプリカントだと確定していますか?
映画本編に明確な答えはありません。1992年版と2007年版のユニコーンは強い暗示ですが、本人やガフが正体を言い渡す場面はないんです。夢のない1982年劇場版では、折り紙との対応も変わります。
レーチェルは最後に死にますか?
この映画の終幕では生きています。劇場版には4年の寿命制限がないという語りが加わり、後の2つの編集版にはその説明がありません。いずれも彼女の死を描く結末ではないので、ガフの言葉を死亡報告と受け取ると話が変わってしまいます。
セバスチャンはどうなったのですか?
タイレルへの訪問後、セバスチャンも死亡したと警察から連絡が入りました。殺害場面は映されず、彼の死は警察無線で知らされます。その知らせを受けたデッカードが、彼の住む建物へ向かいました。
折り紙のユニコーンも、後から追加されたのですか?
折り紙は1982年公開時からラストにあります。1992年版で加わったのは、森を走るユニコーンをデッカードが夢に見る映像です。紙の姿と夢の中の姿が結びつくことで、彼自身の記憶への疑いが生まれます。
まとめ
『ブレードランナー』の追跡劇では、ゾーラ、レオン、プリスが命を落とし、長く生きたいと望んだロイにも終わりが訪れます。そのロイに救われたデッカードは、殺すよう命じられていたレーチェルと共に去る道を選びました。
自然の風景へ続く1982年劇場版と、扉が閉じる1992年版・2007年版。夢の映像と最後の語りの有無によって、デッカードの正体への疑いと、2人の将来に感じる希望が変わるんです。
私は、屋上で敵を救うロイの手がいちばん忘れられません。生きる時間を増やせなかった彼が、その最後に誰かを生かした。小さな折り紙の謎とともに、あの選択が胸に残る映画です。